12話 隣国が悪役令嬢を取り返しにやってきた
「謁見の間にいる? どうして?」
「あちらが強く両陛下に進言したいと」
「それで許可もなく謁見の間に入るって宣戦布告じゃん……」
隣国ソッケの外交大使は普段そんなことはしない。ということは、シャーリーを連れ帰る為だけに用意されたソッケ王国王子派の一人だろう。テュラが取り返しにくるぞとか言ってたけど本当だったわ。
案の定、謁見の間には今までの外交で一度も見たことのない貴族が苛立った様子で立っていた。
しょうがない。まだ何もしてきてないから通常通り挨拶といこう。
「お初にお目にかかります。私、ディーナ・フォーレスネ・ループトと申します」
「王陛下はまだか!」
うん、最初からなかなか攻めてくる。
「外交に関する我が国への訪問者は私が対応させて頂いております」
どんな身分であってもだ。そう簡単に王陛下に会えるはずもなく、本来は入念なアポイントの末、王同士が会うぐらいしか直接対面はほとんどない。我々にチャンスがあるとしたら社交界や生誕祭といったイベントしかないだろう。
「お前じゃ話にならん! 早く陛下を出せ!」
「シャーリー・ティラレル・エネフィ公爵令嬢の返還をお求めと伺っております」
「我が国の人間なのだから当然の要求だろう」
「おや、エネフィ公爵家から除籍され、ソッケ王国国外追放が確定しているのですから、そちらの国民でないのでは?」
「ぐっ……」
嫌そうな顔をするわね。眉寄せて歯噛みするなんて外交上するものじゃない。初心者め。
私が軽く手を上げると、王室付文書総監のアンネが書類をいくらか渡してくれる。仕事早くて助かるわ。しかも自分が必要だと踏んであらかじめここに来ているのだから本当仕事出来る子。
なにせ、先日私が求めたこの書類は早々他国に開示されるようなものではない。それができるからアンネは若くして文書に関する全ての仕事を担っているわけだ。
「直近のエネフィ公爵家の一族を明記した公的な書類を取り寄せたところ、シャーリー・ティラレル・エネフィの名はありません」
「……」
「こちらが国外追放に関する書類ですが、シャーリー・ティラレル・エネフィを国外追放とする、と明記されていますね」
国外追放が先か除籍が先は関係ない。自分たちで追い出した人間を大した理由もなく戻そうなんて虫のいい話ですよってことだ。
「エネフィ公爵家ほど有力で影響力のある貴族の再度の名入りと国外追放撤回は、いずれも概ねその国の議会を通りますね。審議期間もあるのでこの短い期間で変更されているとは考えにくい。実際公爵姓を取り戻し、国外追放が取り消しされているのでしょうか?」
「いや……それは国へ戻ったらすればいいことだ」
うん、この人正直でアホだわ。
国外追放者がその国に戻ったら違法、死刑と相場は決まっている。海を渡った大陸の国家連合管轄の国際裁判所の見解だって追放者は戻れないと判断しているのに何を言っているの?
「そうしましたら国際法に則り、貴族姓の復活と国外追放の取り消しをなさって下さい。その上で改めて書面での謁見申し出を行い、」
「うるさい!」
あの女を出せば全て済むだろう! と叫ぶ。
いやいやそういう話じゃないからね?
「シャーリー嬢は我が国インスティンス・ヴィース・シェルリヒェット王太子殿下の婚約者です。結婚を間近に控えている為、各国へのご訪問は当面先になるかと存じます」
「あの女に会わせろ!」
同意させれば国へ連れ返れるだろうとよく分からない理論を振り翳してくる。
「今は御結婚の御挨拶で伺う予定でソッケ王国に打診をしていますし、現在の身分は王太子の婚約者として我が国の国民としていらっしゃいます。爵位はなくとも王族と同列として扱われる立場ですので一介の貴族が書面なしに面会するのは出来かねます」
うるさいと何度も叫ぶ。話通じない系かな? 強制退場もやむを得ないかなあと周囲の騎士に目を配ると無言で頷かれた。いつでもいけるみたいでなにより。
「現在、我が国ドゥエツはソッケ王国に対し、海賊及び自然災害による被害についての支援等を行っております」
「それがどうした」
「シャーリー嬢を理由にした我が国への内政干渉によって今後控えている長期支援のお話が白紙になる可能性がありますが?」
この人、驚いて絶句したわ。
いやいやもうそっちが宣戦布告してるようなものなんだから当然支援はなしになるって分かるよね?
敢えて伝えてよかった。どうなるかぐらい想像できると思うけど難しかったらしい。
「脅す気か!」
「いいえ。現在のまま主張を続けられた場合の起こりうる結果を述べただけですが」
たくさんの小説の中からお読み頂きありがとうございます。
初心者相手だと色々教えてあげなきゃですね!(そういう問題ではない)まあ何と言いますか、今後どうなるかは作品タイトルからお察しくださいとしか言えません(笑)。にしたって試練多いですね、ディーナ。