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虚の天秤  作者: 榛原朔
四章 蠱毒の刃

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9-騒ぎ暴れよ狂気の徒

マシューの元から去ったピエールは、キルケニーに待機させていた一般の処刑人たちに指示を出す。

『君達はこのまま留まって、迎撃のみに注力しろ』と。


元々あまり離れない方がいいと釘を差され、ちゃんとその命を守っていた面々なので、彼らはそれだけでもう動かない。

目の前に敵が現れれば話は別だろうが、迎撃準備は完了だ。


鎖を建物や木々に巻き付けて、長い手足のように操って空を飛ぶ彼は、そのまま各地の動乱を治めに行った面々の元へと向かう。


「さて、敵はこの前の魔女組合と同じことをしている。

戦いではないと、敵ではないと隠蔽していた部分は違うけれど……動きはそう変わらない。道は塞がないとね」


キルケニーから引き剥がされた守りは、もう敵の作戦通り役に立たないと見るべきだろうか? いや、否だ。


反乱に恐れをなしたのだとしても、彼らは國を管理する組織である処刑人協会の一員である。今からだって、守りに組み込めない訳が無い。各地を巡るピエールは、次々に分離した手駒を管理下に置いていった。


「敵の目的は孤立だ。だから、君達はこの混乱を抑えながらでも、道を防がなければならない。街と街をつなぐように、見張りの目を張り巡らせて。暴徒は隙間にこそいる。

何においても、重要なのは関節部だからね」


これは戦いではないと、敵意を以て襲いかかっている反乱ではないと思い、バラバラになっていた協会は彼によって纏められる。


各地と連絡を取り合い、広がってしまっていたことを利用するように監視の目を國中に向け始めていた。


「よーし、最低限の指揮はできたかな?

もう女の子を殺しに行ってもいいかな?」


眼下では、未だに暴れている住民達に多くの処刑人達が手を焼いている。だが、一応は彼らを統率しル・スクレ・デュ・ロワの迎撃に動かせたのだから、もう彼には関係ない。


ジャラジャラと鎖の音を響かせながら、最も近くにいる女性の敵へと迫っていった。




~~~~~~~~~~




ピエールが最低限の指揮を終え、各地の暴動に参加している女性をいたぶり始めていた頃。

その暴動に便乗している構成員の指揮を取っていたトッドは、予想より警戒されていることに苦い顔をしていた。


「ちっ、やっぱ敵だと認識されてんな。

暴徒に意識を向けさせて、デオン達が自由に動けるのが最善だったが……もうちょい工夫しねぇと面倒なことになる」

「既に、デオンさん達が密かに通り抜ける隙はないよ。

彼女ももう目立ち始めてるし、ぼ、僕達も……」

「おう。だがその前に、味方を動かさねぇと」


明らかにビビっている男の助言を聞きつつも、トッドはまだ目立たずに指揮を続ける。バラバラになっていた敵は、その状態を活かして網目状の監視となっていた。


シャルロットのように本職で、かつ上位の実力を持っていなければ、掻い潜ることは難しいだろう。

彼女1人に強襲を任せるのなら別だが……デオン、エリザベートは中に送り出さなければいけない。


それを達成するために、彼は各地の情報を聞き、連絡をして、構成員達を動かしていく。


「ピエールはもう、遊び始めてる……みたいだよ。

気持ち悪いくらい笑顔。鎖も赤い。報告も、来てる……?」

「少しずつな。誰に襲われたのか、わかってない感じだが」

「フランツはデオンさんを撃ち始めた。まだすべて捌けてるみたいだけど、ジリ貧かも。彼は動かせないの?」

「あいつは無理だろ。ただまぁ、一応連絡はしてる。

気が向きゃ動く。とはいえ、フランツも標的。デオンちゃんが戦ってるってんなら、そのまま勝ってもらえばいい」

「ヨハンは雷に誘われた……? 急に方向転換したよ」

「了解。じゃあ、重視するのはピエールだな。

雑魚どもと変態の誘導を始めるぜ」


屋根の上から、双眼鏡で各地の状況を見ていた臆病な男の話を聞き、トッドは連絡に明確な指示を加えていった。


まず、苦肉の策にはなるが、女好きの合法ショタを誘き寄せるために女性の構成員を近寄らせる。


絶対に回避したいのは、これ以上の上官の指揮。

意識を引ければいいので、逃げに徹するだけでいい。

もちろん護衛もつけて、できることなら殺す構えだ。


次に、道を塞いでいる一般の処刑人たち。

彼らは実力的にも立場的にも、暴動やその結果を危なげなく捌くことは難しい。元々かなりビビっている。


そのため、少し揺らすだけで効果はあるだろう。

トッドの指示により、組織の構成員たちは強弱をつけて暴れ出す。


キルケニー周辺にいる処刑人に関しては効果は薄いが、各地に散った者ならばそれなりに動きを誘導できた。

もっとも、キルケニー周辺でも南側にデオンか現れているため、少しずつ寄ってはいるが。


この後、トッドが北側に現れて敵対の意思を示せば、北側にも寄って東西の道はより安全になるはずだ。


「よし、結果はどうだ?」

「ピエールは西側に。各地の処刑人による監視の目も、ここから見る限りじゃほつれほつれ……かな? 現場の声は?」

「隙は生まれてそうだ。シャルロットちゃんがどこにいんのかは知らねぇが、まぁ助けにはなっただろ」

「あとは……」

「エリザベートに連絡だ」




~~~~~~~~~~




「おやおや〜? もしかしてまたバラけてる?

うちの処刑人たち、本当にどうしょうもないなぁ」


最低限の指揮を終え、女性な構成員を縛り上げていたぶっていたピエールは、周りの様子を見て状況を察する。

鎖で拘束されている女性は、涙を流しながらも瞳に希望を映していた。


「んー……でも、もう僕はやることやったしねぇ。

会長さんも気にしないみたいだし、もういいでしょ」


女性の期待も虚しく、彼はなおも彼女をいたぶっていく。

腕を打ち、足を打ち、全身をなぶって楽器のように悲鳴を上げさせていた。


しかし、今の彼を取り巻く環境は常に移り変わっている。

いつまでも、1人に拘っている余裕などない。


女性が全身を赤く染め、毒によって意識が朦朧としている中。普段ならここからが本番であるピエールは、近づいてきた影を見て微笑む。


「ありゃりゃー、面白そうなお導き」


目の前にいたのは、小柄な彼の姿を見て、瞬時にビクリと体を震わせる何人かの女性だ。それを確認すると、ピエールは今拘束している女性の首を絞め、すぐに処理してしまう。


暴動……もとい反乱が起きている現在、獲物である女性はいつ死んでもおかしくない。鎖を濡らす毒の濃度も上げ、質より人数を楽しむ方針に変えたようである。


「あははっ、怖がらないでいいよ! 楽しくて気持ちいいだけだから、僕と遊ぼう? その先にいるのが、シャルロットちゃんだったら嬉しいなぁ」


逃げ出す女性達を追って、彼は鎖で空を飛ぶ。

毒を飛び散らせることになっても、気にしない。


部下の処刑人達に当たろうが、獲物ではない男の構成員達に当たろうが、お構いなしだ。ひたすら自由に空を舞い、次々に女性を捉えて毒牙の餌食にしていった。


護衛のためについていた構成員も、ほとんど役に立つことなく倒されてしまう。だが、誘導自体は成功である。


死屍累々と毒に侵された者達が倒れ伏す先、キルケニーからいくらか離れた町の中で。月が輝く夜空の真ん中には、多くの処刑人を引き付けている少女の姿があった。


多くのぬいぐるみ、アイアンメイデンなどを浮遊させる超常の乙女は、赤や黒を基調としたどこか禍々しいワンピースを揺らしながら艶やかに微笑んでいる。


どう考えても誘導された形だが、待ち構えていたのが女の子だったことで、ピエールは満面の笑みだ。


「あっはは、エリザベートちゃんかー!

いいねいいね、僕と遊ぼうよ!」

「おーっほっほっほ、わたくしに謁見するために訪れた愚者よ、ご機嫌よう! わたくしこそは、数千年続く偉大なる吸血鬼一族の正統なる血統である吸血姫!! 生き血をすすり、下々の方々に恐怖を振りまくヴァンパイア、エリザベート・バートリー!! ひれ伏し、崇め奉るがいいですわ〜っ!!」


ニコニコと見上げている少年を見下ろし、エリザベートはようやく自己紹介を成功させる。毎回遮られていたため、実に嬉しそうだ。


周囲を飛び回っている、ぬいぐるみやアイアンメイデンも、彼女の感情を写したようにぴょこぴょこ跳ねている。

キルケニーより離れた町中で、自称吸血鬼と変態合法ショタは、それぞれ威厳と快楽のために激突した。




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