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虚の天秤  作者: 榛原朔
三章 吸血憑依

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15-組織の……

この作品の前作である蜜柑の対策が完結したため、今日から2日に一回の投稿になります。よろしくお願いします。

「おはよー! いい朝だねー!」


他の2人がとっくに起きている中。

いつも通り最後まで寝ていたシャルロットは、昨日までとは違ってすっきり目覚め、元気に飛び起きながら挨拶をする。


ここはアルバートの洋館、その客室。

もちろん朝食の用意をする必要などないため、室内では雷閃と一緒にマリーものんびりと彼女が起きるのを待っていた。


そんな2人の耳に襲いかかる、あまりにも予想外の大声。

シャルルは処刑人らしく寝覚めが良かったが、殺しをしないシャルロットは真逆で寝坊助なので、2人は思わず驚いて体を跳ねさせてしまう。


特にマリーなど、幼馴染みとしてずっと寝ぼけている様子を見てきているので、その驚きもひとしおだ。

雷閃はすぐに『なんだ、ちゃんと起きたんだね』という風に視線を外して読書を再開するが、彼女はそうはいかない。


直前まで朝の支度をしていたというのに、目はベッドの上に釘付け。身支度のことなどすっぽり頭から抜け落ちた様子で、信じられないというようにゆっくり歩み寄っていく。


「え、シャルちゃんすぐに起きられたの……?」

「え、なに。僕を何だと思っているの?」


目覚めた瞬間は高い声で圧倒していたが、立場はすぐに逆転する。わなわなと震えながら近づいてくる幼馴染みに、彼女は逆に気圧され後退りしていた。


しかし、そこはどこまで行ってもベッドの上。

起きた状態のままで立ったのだから、後ろに下がっても時計を置く棚や板があるだけだ。


逃げ場など無く、すぐに動きは止まってしまう。

そんな彼女に、マリーはガバッと飛びついて抱きしめ、大いに褒め始める。


「偉い、偉いわシャルちゃん!! まだ早いのに自分で起きられるだなんて、お母さんとって嬉しい!!」

「ふっふ〜ん、偉いでしょ? でも、僕は君の娘ではないんだ。非常に残念ながら、同い年なんだよね」

「でも、あなた何もできないじゃない? 中身は結構な頻度で子どもになるし、私がお母さんでも良いと思うの」

「あれ、本気で言ってたの……?」


本気で褒められ、撫でられ続けているシャルロットは、流石に気まずそうだ。最初は嬉しそうだったが、あまりにも圧があることで、再び気圧されている。




「……こほん。とりあえず、アルバートさんとの朝ご飯だ!

僕は今日忙しいからね。ちゃーんと食べておかないと!

……いや、うん。普通に嘘だった。やることはあるけど、別に急ぐものはないし、昨日のハードスケジュールには負ける」


しばらく褒められ続けたシャルロットは、流石にもう時間だとばかりに声を張り上げる。

もうかなりの時間が経っているはずなのだが、相当珍しく、嬉しかったようで、マリーはまだまだ褒め足りなさそうだ。


だが、誇張された忙しいという言葉で褒めたい欲を飲み込むと、一転して上品な所作で離れていく。


ベッドから下りた後も名残惜しそうにしているものの……

確実に彼女が自分で起きた理由でもあるため、ちゃんとそのの意思を尊重していた。


「とにかく、やることがあるんだね。

昨日言っていた組織の人かな。ぼく達も行く?」


本から目を離した雷閃は、ネグリジェをふわりと浮かせながら飛び降りるシャルロットに問いかける。


殺しはできない、処刑人とは言えない。そんなことを言っている割に、動きは常人離れしていた。

音もなく着地する姿は、軽やかな処刑人そのものだ。


「いいえ? あなた達は聞き込みなんでしょ?」

「えーっ、そこでそうなってしまうの!?

あまりにも酷くないかしら!?」

「適材適所、役割分担、大事だよ。そして、情報っていうのもいくらあってもいいからね。必要不可欠だとも」


マリーは堪らず反発するが、シャルロットも断固として譲らない。結局、役割分担の仕方などは変更されることはなく、彼女達はそのまま食堂へと向かっていった。




~~~~~~~~~~




アルバートも含めた全員で仲良く朝食を食べた後。

手早く着替えたシャルロットは、1人ル・スクレ・デュ・ロワの隠れ家へと向かっていた。


目的は当然、昨日も言っていた組織の情報屋に話を聞くためだ。國の情報屋といえばジョン・ドゥなので、本来なら他の情報屋などいない。


しかし、ル・スクレ・デュ・ロワは國に逆らう立場の組織なのだから、頼れるはずがなかった。

その影響で必要とされ、流石に実力は劣るものの様々な状況で役立っているのが、今から話を聞く人物である。


「追ってくる人は……いないね。よし」


少し離れた森の中に小型の馬車を停めると、彼女は不自然にならない仕草で周囲を見回し、追手を確認する。


もちろん、馬車での移動中から気をつけていたので、前回のように変態が追ってきている、なんてこともなかった。

すぐに前を向くと、隠れ家がバレないように気をつけながら前回の倉庫に歩いていく。


足取りは軽く、ワンピースの裾など羽のよう。

もしもこのシーンだけを切り取ったとしたら、極自然な散歩だ。


といっても、そもそも隠れ家は人気のない森の中にあるのだが……近くを通りかかる人がいないとも限らないので、警戒するに越したことはない。


大きな物音を立てないように、目立つ足跡を残さないように。細心の注意を払いながら進み、やがて森に紛れた倉庫の前に辿り着いた。


「トムさんはいますかー……って、えぇ……?」


シャルロットはコンコンと合図を送るが、返事を待つことはせずに扉を開いて声をかける。すると、その目に飛び込んできたのは……


「おーっほっほっほ!! 待っておりましたわ!!

ようこそ、我が威光を求めて訪れし眷属よ!!

わたくしを讃える者共と並び、ひれ伏すがいいですわ〜!!」


いくつも積み上げられた家電やソファなどの山と、なにかを象徴するかのように頂上へ乗せられたアイアンメイデン。

その頂で堂々と胸を張っているのは、赤や黒を基調とした、どこか禍々しいワンピースを着たゴスロリ少女だ。


前回泊まった時には、もちろんこんなものはなかった。

材料になったと思われる粗大ごみは、倉庫の隅に文字通り山のようにあったが……


どうやら、彼女はそのすべてを利用することで、自身を崇め奉る祭壇が何かを作り上げたらしい。


中央にあったリビングじみたスペースも含め、倉庫はすっかりと片付き寒々しく。すべてを飲み込んでできた、意味不明な祭壇山だけになっている。


おまけに、山の周りには象徴のアイアンメイデンよりは小型のアイアンメイデンが踊っているし、足元では可愛らしいぬいぐるみが何かの儀式のように弧を描いて舞っていた。


家電の山、頂に立つゴスロリ少女、踊るアイアンメイデン、崇め奉るように弧を描くぬいぐるみの集団。

何もかもがおかしく、何もかもが異常な空間だ。


あまりにも予想外の事態に、シャルロットは思わずポカーンと口を開いて思考停止してしまう。


「おーっほっほっほ!! 待っておりましたわ!!

ようこそ、我が威光を求めて訪れし眷属よ!!

わたくしを讃える者共と並び、ひれ伏すがいいですわ〜!!」


すると、その沈黙をどう受け取ったのか、山の上に立つ少女はなぜか再びさっきと同じセリフを繰り返す。


あまりにも目立っているし、そもそも彼女くらいしか注目するものがなく、気がついていないはずはないのに。

下手したら倉庫の外にまで響く大声で、聞こえていないはずはないのに。


2度も繰り返されたシャルロットは、堪らず飛び上がって扉を閉めると、山を見上げて焦った様子で口を開いた。


「ちゃ、ちゃんと聞こえてるから!

一応ここは隠れ家なんじゃないの!?」

「そう!! わたくしこそは、数千年続く偉大なる吸血鬼一族の正統なる血統である吸血姫!! 生き血をすすり、下々の方々に恐怖を振りまくヴァンパイア、エリ‥」

「わかった!! わかったから静かにしてーっ!!」


シャルロットは静止しようとするが、彼女は普通に無視して前回も途中で遮られた口上で名乗り始める。

コミュニケーションはまったく取れていない。

デオンがいないからか、もうやりたい放題だ。


既に恐ろしくカオス空間だった倉庫内には、ゴスロリ少女の甲高い声とシャルロットの悲鳴が響き渡っていた。



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