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虚の天秤  作者: 榛原朔
三章 吸血憑依

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9-対抗組織

「お久しぶり、シャルロット・コルデーさん?」

「どーも、シュヴァリエ・デオンさん」


無関係な雷閃の前後では、2人の美少女がバチバチと熱く視線を争わせ始める。


抱っこされているので逃げられはしないが、目の前の女性とは初対面なこともあってかなり気まずそうだ。

しばらく視線を彷徨わせてから、頬をかきながら睨み合う2人に代わって口を開く。


「あの、ぼくをはさまないでくれないかい?

とってもね、気まずいんだ」

「……!! あぁ、ごめんね雷閃くん」

「これは失礼」


彼が声をかけたことで、2人の睨み合いは一度中断する。

雷閃はようやく解放され、マリーとの間に座った。


対して、スウィーニー・トッドは微動だにしない。

不興を買った2人の対峙に、どうしたらいいかわからずにただオロオロとするばかりである。


キッと睨まれたことでようやく邪魔だと察したらしく、高速で冷蔵庫の方へ飛んでいってしまった。


「マリー様を伴って来たということは、たまたまという訳ではないのでしょう? ……何の用ですか?」


全力疾走するトッドを見送ったデオンは、かすかにため息をついてから、さっきまで彼が座っていたソファに座る。

間にはお菓子が置かれたテーブルがあるが、それを加味しても威厳を薄れさせない雰囲気だ。


お菓子なんかでは完全には相殺できないほど、凛とした態度で足を組んで座って言葉を紡いでいた。


「別に、何か明確な用がある訳じゃないよ。

ただ、僕は殺しと向き合うことになってね。その場合、未来に起こることはだいたい予想できるだろう? 君達の組織との繋がりを、ちゃんと作っておこうと思ってね」


シャルロットが彼女達の元を訪れた理由を告げると、この場には極寒のような空気が流れて膠着状態になる。

マリーと雷閃は気にせずほんわかとコーヒーを飲んだりしていたが、トッドは突如勃発した女の子の諍いに真っ青だ。


冷蔵庫から持ってきたコーヒーを差し出すも、どちらにも無視されて『ひぇっ』という表情になっていた。


もちろん、誰にも飲まれなかったコーヒーは彼自身が飲む。

失言王と呼ばれてしまっただけあり、青い顔をしている割りには変なところで無駄に豪胆である。


「マリー様を巻き込むのか?」

「家に君がいる時点で今更でしょ?」

「最近は、そちらに泊まってらっしゃると聞いているが?」

「人に責任を押し付けないでよ、シュヴァリエ・デオン。

君が家にいなければ、この子は自分の家にいられる。

先に巻き込んでいるのはそっちだよ。そして、僕が僕の家でどう暮らし、何をしようと僕の勝手だ。この子を巻き込むのが嫌なら、君が僕の家に来れば? 部下にしてあげる」


デオンの視線を真っ向から受け止めるシャルロットは、普段のダメさが嘘かのように毅然とした態度で言葉を返す。

余裕の態度で微笑み、軽く首を傾けてサラリと綺麗な白髪を揺らしていた。


それを見たデオンは、さらに視線を冷たくしていく。

自分達の隠れ家であるにも関わらず強気な彼女に、今にも腰のレイピアを抜いてもおかしくないくらいだ。


結局3杯以上のコーヒーを飲むことになったトッドは、すっかりリラックスした様子で笑顔を浮かべている。

だが、小さくゲップをしたことで2人の美少女に睨まれ、またしても『ひぇっ!?』と飛び上がって逃げていった。


「自然に仲間になることを決定しないでくれます?

私は君の在り方を認めていない。君のような現実と‥」

「あの、1ついいかしら?」

「……どうぞ」


明確な敵意を見せながら言葉を紡ぐデオンだったが、さっきまでは黙って聞いていたマリーがいきなり口を挟んだことで、すんっと口をつぐむ。


シャルロットは『え、この空気で割り込んでくるの……?』とと戸惑っているものの、彼女はまったく変化の読み取れないポーカーフェイスで話を譲っていた。


「ありがとう。まず、私はあなたが家にいなくても、シャルちゃんのお世話をしに行っていたと思うの。

だって、シャルちゃんは家のこと何もできないから」

「え、何で僕が刺されたの?」

「日頃の行いの結果だ、反省しなさい」

「はい? 何で君に叱られないといけないのかな?」


マリーに指摘されて、訳がわからないよといった表情になるシャルロットだったが、デオンまでそれに乗っかってきたことで強く反発する。


直前までは彼女が優勢だったはずなのだが、どういう訳かこの一瞬で立場は逆転していた。とはいえ、マリーの話はまだ終わっていない。

彼女はにっこり笑うと、そのまま優しく語りかける。


「だからね、デオンが何をしていても落ち度はないの。

私がしたくてしたことだから。それから、こうやってシャルちゃんを連れてきたのも私がしたいこと。あまり、この子を否定しないであげて? 2人が仲良くするのは無理かもしれないけれど……私は大切な人達と、ただ一緒にいたいわ」

「……仰せのままに」

「勝手にしなよ。僕はまぁ、そこまで嫌いではないから」


さっきまではいがみ合っていた2人だが、マリーが間に入ったことですんなりと協力関係を結ぶことになる。

無事に話がまとまって、彼女と雷閃は嬉しそうだ。


しかし、どちらにせよ2人には怒られてしまうトッドにとっては、あまり関係がないことだった。心なしか穏やかになった空気を感じながらも、物陰からこわごわと覗き込んでいる。


位置的に、デオンにはその姿が見えていない。

ちゃんと見えているシャルロットは、彼の様子を面白そうに眺めながら、ニヤリと笑って爆弾を放り込む。


「だからさ、この飼い犬はきちんと躾けしておいてね?」

「な、に……!? 貴様ーッ……!!」


せっかく争いが収まり穏やかな空気が流れかけていたのに、彼女の一言によって再びこの場はピリついた空気になる。


物陰にいたトッドは、いつ自分にも怒りが飛び火してしまうだろうかと、無言ながら『ぎゃーっ!!』という悲鳴が聞こえてきそうな表情で怯えていた。


「うふふっ、ようやく話がまとまったようですわね!!」

「……?」


トッドは無言で怯え、シャルロットがクスクス笑い、マリーがデオンを落ち着かせようとしている中。

いきなり倉庫の入り口は開け放たれ、室内には威勢のいい声と共に明るい光が流れ込んでくる。


肩をすくめていた雷閃を含め、この場の全員が胡乱げに目を向けると、光の中にいたのはさっきの倉庫にもいた人物。


あの喧騒の中でも気にせず奥でくつろいでいた、赤や黒を基調としたどこか血のように禍々しいワンピースを着た少女――エリザベートだ。


彼女は蝙蝠をかたどったような黒い傘を差しながら、相変わらずワイングラスに赤い液体を揺らしている。

倉庫で指摘されたことにもめげず、自信満々に胸を張っていた。


「ふっふっふ、どうやら驚かせてしまったようですわね。

しかし、ご安心なさい。偉大なる者は、後から遅れてやって来るものですの。そう、わたくしこそは‥」

「あの、エリザベート? 外に声が響くせめて中に」

「あっ……た、たしかにそうでしたわ。ごめん遊ばせ」


ドヤ顔で名乗ろうとしていた様子のエリザベートだったが、すんっと冷静になったデオンに注意され、そそくさと入り口を閉めて中に入ってくる。


だが、名乗りを上げることを止めることはない。

外からの光がなくなり若干暗くなった中、それでも蝙蝠傘を差したまま、その自信を体現したかのような胸を張りながら名乗っていく。


「そう!! わたくしこそは、数千年続く偉大なる吸血鬼一族の正統なる血統である吸血姫!! 生き血をすすり、下々の方々に恐怖を振りまくヴァンパイア、エリ‥」

「君、血なんて飲めないでしょう?

見栄を張ると自分の首を絞める結果になりますよ」


堂々とした態度で、実に気持ちよさそうに名乗っていた彼女だったが、またしてもデオンによって言葉を遮られる。

ダメ出しまでされた彼女は、プルプルと震えながらも懲りずに言葉を続ける。


「ふ、ふっ……このワイングラスが見えないのかしら?

わたくしが飲むのは新鮮な人間の血のみ‥」

「冷蔵庫にあるぶどうジュース、さっさと飲み切っちゃってくださいよー、お嬢」

「……!!」


デオンに関してはスルーされた指摘だったが、物陰から野次を飛ばすように苦情を言うトッドには反撃が加えられる。

エリザベートは顔を真っ赤に染めて、震えるだけだ。


しかし、物陰にいる青年の上からは、ゴツゴツした鉄の塊が容赦なく降ってきて……


「へ……? ぎゃーっ!?」


憐れ、今までも散々怒られ続けていたトッドは、追加で硬く重いアイアンメイデンに潰されてしまった。

ついでに、自称吸血鬼――エリザベート・バートリーの名乗りは完全には失敗である。


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