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虚の天秤  作者: 榛原朔
三章 吸血憑依

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8-改めて対面

えっと、もうGWも終わりかけですけど、虚の天秤の執筆が終わったので、ひとまず4日連続投稿します

「おいおいマジか、あんたらも聞いてるか?

今この國で謎の失踪事件が起きてるんだとよ!」


金髪のチャラそうな青年――スウィーニー・トッドの声を聞いたことで、雷閃を抱っこしていたシャルロットは鬱陶しそうにゆっくり目を開く。


視界に映るのは、反対側のソファに座って新聞を読んでいる青年の姿だ。彼は真横にある台の上にコーヒーを置き、謎にゆったりとくつろいでいた。


しばらくジト目を向けていたシャルロットは、軽くため息をつくと隣に座るマリーに寄りかかりながら言葉を返す。


「……僕にそんなことを言われても困るよ。

シャルロット・コルデーは殺しをしない。

処刑人としての僕には期待しないでくれるかな?」

「いや、ただの世間話……え、また地雷なのか?

まさか、俺があんたらを見つけたことで怒ってるなんてことは……ない、よな? あれ、あるの? マジで?」


彼女の返事を聞くと、トッドは途端に新聞を真横にある台の上に置いてあたふたとし始める。どうやら、さっきデオンを怒らせたことを相当気にしているようだ。


軽い調子で問いかけながらも、マリーの肩口に顔を埋めているシャルロットにビビりながら席を立つ。


ここは、ついさっき彼と会った倉庫と似たような倉庫の中。

奥の粗大ごみの山に目を瞑れば、ソファや大きなテーブル、立派なカーペット、テレビ、冷蔵庫など、中央区画の内装的には普通の家のような場所である。


現在、彼女達が馬車で倉庫の壁を破って逃げてから、ほんの数時間後。シャルロット達は、マリーの知り合いである彼女――デオンと面会するべく、彼女の到着を待っていた。


「えーっと、コーヒーとかー……入ります? いらない?

あぁ、そう……ぼくは? お菓子いるかい?」


慌ただしく席を立ったトッドは、冷蔵庫からコーヒーを取り出してきて勧めるが、シャルロットは顔を背けたままだ。

返事すらしてもらえず、シュンとした彼は自分でコーヒーを飲み干してから雷閃にお菓子を勧め始めた。


「もらっておくよ。ありがとう、お兄さん」

「へへっ、お安い御用だぜ」


されるがままに抱っこされている雷閃は、もちろん彼女のように不機嫌ではない。素直に好意を受け取っており、それを聞いた彼はびゅんと飛んでいってお菓子を持ってくる。


デオンに続いてシャルロットの機嫌まで損ねてしまったので、彼は挽回しようと必死だ。

雷閃にお菓子が乗ったお盆を差し出して、自分がテーブルの代わりだと言わんばかりに微動だにしない。


「クッキー、グミ、チョコ、冷蔵庫にはプリンとかアイスもあるぜ。好きなだけ食べていい。責任は俺が取る。

多分……殺されたりは、しない……だろー……

いつもみたいに、刺されるだけ……うぅ……」

「……オレンジジュース」

「はいっ、何でしょうか!?」


唐突にシャルロットが小さくつぶやいたことで、自信なさげに棒読みで話していたトッドはシャキッと居住まいを正す。

お盆は雷閃がもういいと合図していたので、ちゃんと後ろにあるテーブルに置かれていた。


彼にとって今最も重要なのは、彼女が何を言ったのかを正確に聞き取ることだ。怯えた様子で耳を澄ませている。


「オレンジジュース、ちょうだい」

「ごめんなさい!! オレンジジュースはないっす!!

ぶどうジュースなら無駄にたくさんあるんすけど……」

「あんな色の飲み物なんて飲むわけないじゃん!!」

「ハイッ、仰る通りでございますッ!!」


期待を込めて彼女の顔を窺っていたトッドだったが、残念なことに彼女の期待に添えることはなかった。


この場面だけを見るとかなり理不尽なやり取りで、オレンジジュースがない、ぶどうジュースはあるけどダメだと言われ叱り飛ばされている。


どこぞの兵士のように直立不動になっており、これ以上ないほど憐れだ。しかし、意外なことにこの間一切マリーは取りなしたりしていない。


困ったように笑いながらも、最初に彼からもらったコーヒーをただ飲んでいた。


「くそぅ、なんで俺はいつも怒鳴られてばかりなんだ……

本当だったら、あの倉庫内だってハーレムじゃんか。

ここも少年除けば女の子ばっかり。交友関係は恵まれてんのに、なぜこうなる……普通にデートとか行きてぇよ〜……」


叱られた後、しばらく待っても何も言われなかったことで、トッドは肩を落としてトボトボと自分の席に戻っていく。

願望丸出しのつぶやきに、マリーは苦笑するばかりだ。


だが、明らかに不機嫌で、ついさっきピエールから逃げてきたばかりのシャルロットの気に障らないはずがない。

彼は彼女に思いっ切り脛を蹴られて『いってぇ!?』と悲鳴を上げていた。


「ごめんね、雷閃くん。ちょっと揺れた」

「ううん。ズラしてくれたから、だいじょうぶだよ」

「俺、蹴られたよー……なんでぇ……?」


願望丸出しの青年を蹴り飛ばしたシャルロットは、雷閃の髪に顔を埋めながら謝罪をする。不興を買った彼は放置だ。

あまりにも憐れなトッドに、ついにマリーも憐れみを込めた目で話しかけていく。


「えっと、トッド? 多分、いつものあなたなら気がつくと思うのだけれど……」

「なになに!? 俺は何したんだ!?」


ようやく知り合いからの助け舟が出そうになって、彼は食い気味に彼女に詰め寄る。欲望の塊みたいな青年の急接近に、シャルロットは再び彼の脛を蹴り飛ばしていた。


「〜っ!!」

「あ、あの……大丈夫かしら?」

「ぐすっ、おう。全然平気だ。デオンのやつに刺されることと比べりゃ、こんなへなちょこキック屁でもないね……ぐ!!」

「いい加減、学んだら、どうかな、失言王?

せめて、その、忌々しい、口を、閉じようか?」

「何だよ、その不名誉すぎる称号はぁ……」


無駄に強がったトッドは、またもシャルロットに蹴られて床に転がった。ついに不名誉な称号までつけられて涙目だ。

そんな彼に対して、マリーは追い打ちのように彼が彼女にしたことを告げていく。


「えっと、あなたの落ち度について話すわね……?」

「あい、お願いしやす……」

「あなた、私達に見つけた時に馬車を止めようと鋏を投げたでしょう? 多分、誰にも当たらないようこの子の手が届かない位置を狙ったのでしょうけど、その代わりに髪が……ね」

「……!?」


ようやく教えてもらった自分の落ち度に、トッドは食い入るようにシャルロットを見つめ始める。

既に彼女は、雷閃の髪に顔を隠しているので反応はない。


しかし、マリーが横からそっと切られてしまった辺りの髪を持ち上げてみせたので、彼の目でもようやくそれが確認できた。目を見開く彼に、マリーは補足説明を入れる。


「もちろん、目立つものではないのよ?

私でも簡単に整えられるわ。だけれどね、会いに行っただけで、なぜかいきなり大切な髪が切られるというのは……

かなり、ショックだったみたいでね」

「すみませんでしたぁッ!!」

「ま、まぁ、私達もみんなにピエールさんを押し付ける形になってしまったのだし、そこまで謝らなくてもいいのよ。

隠れ家にしていた倉庫もだめにしちゃったのだし」


今度は蹴られたからではなく、心からの謝罪として地べたに這いつくばって土下座をするトッド。

シャルロットはチラリとも見ていないが、事情を教えた立場にいるマリーは慌てた様子で両手を横に振っていた。


だが、土下座をしている彼としては、ピエールの相手と髪を切ってしまったことは比べるまでもないらしい。

そーっと顔を上げると、動きの割りには軽薄な態度で彼女の言葉を柔らかく否定していく。


「あの男は仕方ないっすよ。キモいもん」

「そのキモいのを、女の私に丸投げしたのは誰ですか?」

「ぎゃーッ!? ごめんなさいデオンさんッ!!」


直後、トッドの背後からは冷たい声が降り注ぎ、土下座していたはずの彼はまたも飛び上がり、直立不動になる。

色々な相手にちょこちょこミスをしているせいで、先程からとんでもない道化っぷりだ。


倉庫の入り口に佇んでいたパンツスーツ姿の女性――デオンは、ビシッと硬直した年上の男性を見ると呆れたようにため息をつく。


とはいえ、もう終わったことなのでこれ以上なにか言うことはない。コツコツと雷閃を抱っこしているシャルロットの前まで歩み寄り、凛とした態度で挨拶をした。


「処刑人協会対抗組織ル・スクレ・デュ・ロワへようこそ。

お久しぶり、シャルロット・コルデーさん?」

「どーも、シュヴァリエ・デオンさん」


雷閃の後ろから顔を覗かせるシャルロットは、彼女とは真逆で気安い態度だ。しかし、決して友好的という訳ではない。

無関係な少年を挟んで、2人の美少女はバチバチと視線を争わせ始めた。




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