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虚の天秤  作者: 榛原朔
三章 吸血憑依

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6-知り合いの元へ

リビングでの話し合いが終わって十数分後。

かなり渋るマリーの説得に成功したシャルロットは、自室で出発準備を整えていた。


処刑人であるシャルルなれば、きっと服に武器を仕込むことに勤しむことだろう。だが、彼女は立場こそ処刑人に当たるものの、決して殺しはしない。


彼女の準備とは当然どの服を着るか、という部分だ。

棚に飾られている4人家族の写真の前で、マリーの知り合いである彼女達に会うのに適した服に悩んでいる。


「一応敵ではないけど、立場的には戦闘もありえる……

見た目よりも機能性、シャルルがへそを曲げないもの……」


しばらくドレッサーの前で悩んでいたシャルロットは、ちらちらと写真の中の兄妹を見てから立ち上がる。


部屋の外からはマリーの呼ぶ声、家の外からは馬のいななきや雷閃が整備をしている物音。

笑顔で返事をしながら、自室を出て衣装部屋へと向かう彼女は、もう着ていく服を決めたようだ。




~~~~~~~~~~




「やぁ、おまたせ! 待ったかな?

待ってないよね? 待ってないでしょ?」


シャルロットが着ていく服を決めてから、さらに十数分後。

すっかり馬車の準備を終えてしまい、暇を持て余してぼんやりとしていた雷閃の耳には、やたらと得意げな声が聞こえてくる。


待ったの3段活用……振り返るまでもない。

声だけでもドヤ顔をしているとわかる、シャルロットだ。


彼は密かにため息をつくと、早くも疲れたように肩を落としながらたっぷり時間をかけて振り向いた。

するとそこにいたのは、髪と同じような白いジャケットに黒いショートパンツ、ニーソックスを履いた美少女だ。


黒いコートを脱いだ時にはゴスロリ調のミニスカート、風呂の後はもこもこしているパジャマと、今まではかなり可愛らしい服を選んでいたのだが、今回はかなり格好いい。


胸が慎ましやかなことも相まって、下ろした白い長髪を風に揺らす姿はクールビューティそのものである。

もっとも、中身はかなり残念な部分が多いのだが。


ガラリと印象が変わった彼女の姿を見ると、雷閃は少し驚いたように目を見開いてから正直に言葉を返す。


「まぁ、ぼくはやることないから、別に問題なかったよ」

「おや? もしかして、待たせてしまったかな」

「マリーお姉さんが大丈夫なら、そうでもないんだと思う」

「マリー、待たせちゃったかな?」


彼の言葉を聞いたシャルロットは、すぐに後ろを振り返って問いかける。一緒に家から出てきて、彼女の代わりに家の鍵を閉めていたマリーは、思わず苦笑していた。


「んー、まぁ特別遅くはなかったかしらね」

「よっし。では待っていないね! 本題に入ろう。

可愛くないかな? 可愛いでしょ? 可愛いよね?」


そこまで待たせてはいないと判断したシャルロットは、続いて髪とジャケットをふわりと揺らしながら、可愛いの3段活用を使ってくる。


服装に引っ張られているのか若干クールさを保っているが、やはりワクワクとした感情を隠しきれていない。

綺麗な顔を笑顔で染めながら、褒め言葉を要求していた。


再び訪れた苦境に、雷閃は思わずといった風に微妙な表情を浮かべる。そんな2人を見るマリーは、微笑ましそうにしながら馬車に乗っていく。


「えっと……かわいいし、かっこいいね?」

「そうでしょう、そうでしょう! 敵地へ赴くにはぴったりだと思ったんだ! マリーも褒めてくれたからね。

僕の選択に間違いはなかった!」


彼に褒められたことで、シャルロットはいつものように相好を崩す。直前まではかろうじて保っていたクールビューティはどこへ行ったのやら、もうただの可愛い女の子である。


「シャルちゃん、彼女達に会いに行くんでしょう?

急ぐ必要はないけれど、どうせなら速く出発しましょう」

「そうだね。じゃあ行こうか」


馬車の中からひょっこり顔を覗かせるマリーの言葉を受けて、シャルロットもようやく馬車に乗り始める。

乗り込む場所は、雷閃と交換して御者台。3人は彼女の操縦によって、マリーの知り合いの元へと向かい始めた。




~~~~~~~~~~




自宅を出発したシャルロット達は、気持ちのいい風や日光を感じながらいくつもの森やいくつかの村を越え、目的地への道を進む。


だが、ここは処刑の横行している歪んだ國、多くの処刑人達が闊歩しているセイラムだ。そう簡単に目的地に辿り着けるはずもなく……


「あれ、黒いコートじゃない……ってことは!!」


彼女達が馬車を走らせ始めてから数十分後。

目の前には、軍服のような格好をしている女性専門の処刑人――ピエールが、道を遮るように立ち塞がった。


彼は長いサラサラした白髪や背格好に加えて、黒いコートを着ていないことから、男性の人格であるシャルルではなく、ちゃんと女性の人格であるシャルロットだと判断した様子だ。


頬を赤く染めながら、まるで馬車が止まることを確信しているかのように、ガバっと両手を広げて飛びついてくる。


「わはぁ、シャルロットちゃんだぁ!! 会いたかったよ〜!!

僕のことはわかるよね? 君の愛するピエール‥」

「はいはい、女好きの変態には用ありませーん。ピエール・ド・ランクルさんには、一人称も変えていただいて」

「べふぁ……!?」


しかし、もちろん変態相手に馬車が止まることはない。

無防備な体勢で飛んでくる処刑人に対して、むしろスピードを上げて容赦なくそれを吹き飛ばす。


馬車に轢かれたピエールは、これ以上ないほど冷たい口調になったシャルロットの言葉を聞きながら遠くへ消えた。

『僕』という同じ一人称を使うなと言っているほどの、他に並び立てるものがいないレベルの拒絶である。


「わぁ、すごい音したけどだいじょうぶ?」

「雷閃くん。正直に白状すると、怖気が立っているよ。

あの男があまりにも気持ち悪くてね。いや、ほんとにあれは女の敵だ。ちょっと頭を撫でて癒やしてくれないかい?」

「えぇ……? いいけど、いやし……?」


馬車の操縦を続けるシャルロットは、中から顔を出した雷閃に助けを求めて頭を撫でることを要求する。

最初は戸惑った様子を見せる彼だったが、彼女が本気で気色悪がっていることを察すると、大人しく頭を撫で始めた。


「あとね、あれはまたすぐ来ると思うから、少し警戒を‥」

「ちょっとちょっと、轢くなんて酷くない?

僕だからよかったけど、もしもこの顔に傷がついたら世界中の女の子が‥」

「喜ぶよね。うん、とってもいいことをしたなーワタシ」


そのわずか数秒後、ピエールは鎖を馬車に巻き付けて戻ってくる。彼はかなり強く吹き飛ばされていったはずなのだが、ほとんど無傷な上、謎に自信満々だ。


とはいえ、舞い戻ってくることは想像に難くない。

冷凍庫よりも冷たい目をしたシャルロットは、すぐさま鎖を銃で撃って外し、話の途中で彼は再び落ちていく。


だが、もちろんピエール・ド・ランクルは女子を見つけたらまっすぐ一直線。決して止まらずにやってくる。

罪人ではないので手荒な真似はしないが、今度は外されないよう馬車の後ろの方に鎖を巻き付けてきた。


「おっと、よく見たらこの國で一番清楚なマリーちゃんまで一緒にいるじゃないか! うふふ、うふふふ。大丈夫だよ。

2人まとめて可愛がってあげるから心配しないでね〜」


馬車の後方に現れたピエールは、御者台にいたシャルロットに続いて中にいたマリーまで目に止めてしまう。

久しぶりに表に出てきた彼女で興奮しているのか、その視線は普段より数倍舐め回すようで気色悪い。


急いで中に戻ってきた雷閃に庇われているマリーも、流石に怯えて自分の体を抱くようにして拒絶していた。


「えっと、ピエールさん? 私達は少し行くところがあるので、できればあまり近づかないでいただけるかしら……?」

「照れなくていいよ! その気持ちも受け止めて‥」

「あの、気持ち悪い……ので」

「雷閃くん、やっちゃって!」

「うん」


マリーの言葉を聞いた変態は、あまりにも自信があったことでショックを受けることはない。

しかし『聞き間違いかな……?』とでもいうように首を傾げており、その隙に雷閃の雷によって吹き飛ばされていった。



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