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虚の天秤  作者: 榛原朔
三章 吸血憑依

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5-殺しと向き合うために

昨晩はシャルルを無理やり叩き起こして、恥ずかしがらせていたシャルロットだったが、もう交代はしているのでそれが終わればすぐに戻る。


寝る時にはちゃんとシャルロットだ。

つまりは、シャルルのように黒いコートを着たまま1人で眠ることはないということであり、朝日が差し込んできた寝室には川の字になって眠っていた3人の姿があった。


「ふぁ……あらあら」


まず、真っ先に目を覚ますのはマリーだ。

シャルロットと同い年の彼女ではあるが、立ち位置的には母や主婦にも近いため、朝食作りのために起きていた。


しかし、初めて3人で並んで寝た今日に限っては、すぐに起き上がって階下に行くことはない。なぜなら、一番左で眠っていた彼女の視界には、真ん中で眠っていた雷閃に抱きついているシャルロットの姿が映ったからだ。


3人で眠るには流石にベッドが少し狭いので、距離が近くなることはわかりきっていた。だが、抱きつくまでくると距離は当然0であり、これまでの落差もあってとても微笑ましい。


マリーは普段からよく雷閃と眠っていたが、シャルロットはそれを見た上で自分から来たので、こうなることも予想して一緒に眠ったのだろう。


それを見た彼女も、起きることをやめて反対側から2人に抱きつくように手を回す。雷閃はまだ目を覚ましていないため、抵抗することなく美少女2人の抱きまくらになっていた。




「ん……うん? えっと、なにこれ?」


次に目を覚ますのは、当然その雷閃だ。

彼は両側から柔らかいものに圧迫され、全身を絡みつくような手足に拘束され、甘い香りの中でまったく身動きできずにいるので、すぐに異変に気がつく。


右を向けば、普段はほんわかとしながらもしっかりしているのに、今は二度寝している頼れるお姉さんのマリー。


左を向けば、普段から生活面ではだらしなかったのが、昨日からは率先して絡んでくるようになったダメダメお姉さんのシャルロット。


美少女2人の抱きまくらにされている雷閃は、『えぇ……?』と戸惑いながらも抜け出すことができずにいた。


「……起きて。ねぇ、起きてよシャルロットお姉さん」


しばらくは困惑したまま放置し、あどけない寝言を聞きながら何やら考え込んでいた彼だったが、やがて体を揺らしながらお姉さん達を起こし始める。


マリーは動いて声を出していれば勝手に起きるので、呼びかけるのはシャルロットだ。


すると、案の定マリーはもぞもぞと動いて『あら……ごめんね雷閃ちゃん』と起き上がり、微笑ましいものを見るような目をしながら階下におりていく。


しかし、これまた案の定、だらしない方のお姉さんは寝言を心なしか小さくするだけで中々起きない。


マリーが抱きついていた右側は空いているが、シャルロットは足も使って全身で抱きついているので、相変わらず手足は使えず引き剥がすことも難しかった。


「このさい、シャルルお兄さんでもいいんだけど……

出てこないよね。うーん、くすぐったら起きるかな?

まったく動けないから、どうしたらいいかわかんないけど」


まるで起きる気配のないシャルロットに、雷閃はついに最終手段でくすぐりを敢行する。

もちろん手足はがっしりと拘束されているので、できるのは今まで通り体を揺らして動くことくらいだ。


それで起きないことはもうわかりきっているので、彼は頭をぶんぶんと振りながら彼女の胸に押し当て、柔らかな髪の毛でくすぐり始めた。


「ひゃうっ、くふふっ……くみゅう……?」

「あ、起きた」


すると、その数分後。首や胸元を散々くすぐられたことで、ようやくシャルロットはトロンとした目を開けた。


だが、彼女はシャルルとは違って緊張感のある処刑人という訳でもないので、意識が浮かび上がってきたくらいでは完全に覚醒することはない。


これだけくすぐられてもまだちゃんと目覚めず、にまーっと笑いながら自分から雷閃を胸元に押し付けてくる。


「うぷっ……まだ、起きてなかった……」

「えへへ〜、雷閃ちゃん、おはよー。お姉さんの胸で甘えてくれて嬉しいよー。でも、あんな方法で起こそうとしたのは生意気だから、仕返しだー」

「むむむ……こうなったら、軽く雷を流すしか……」


彼女はぽわぽわと寝ぼけていながらも、くすぐることで起こそうとしたことは理解しているようだ。

胸元に押し付けた上にわしゃわしゃと雷閃の頭を撫で始め、彼はここから脱出するためにバチバチッと軽く雷を纏う。


敵意はないので、あくまでも優しく傷つけないように。

とはいえ、思わず反射で離れるくらいの刺激は必要なので、結果として彼女は一気に覚醒して飛び起きることになった。


「きゃあっ!? 全身にビリビリって刺激が来たんだけど!?」

「ぷはっ! だって、ぼくが流したからね。目は覚めた?

もう朝だから起きないといけないよ、お姉さん」


ようやくシャルロットから解放された雷閃は、万が一にでもまた捕まることのないように飛び起きる。

ベッドの右側で寝ていた彼女は反対側にいるので、なぜか2人は戦っているかのように対峙していた。


雷閃は拘束から逃げ出したばかり、シャルロットは雷の強めな刺激を受けたばかりで身構えているので、いかにもな構図にポーズも相まって、まさに戦闘中だ。


といっても、敵意がある訳ではないため、どちらも攻撃することはない。しばらく固まった後、気の抜けた2人はほとんど同時に吹き出していた。


「あははっ、何これ? 起きてすぐこれとか、馬鹿みたい」

「ふふふっ、おかしいね。意味のわからない急てん開だ」


ひとしきり笑いあった2人は、一緒に階下へおりていく。

なぞにじゃれ合っている間に、キッチンからはマリーが作る朝食のいい匂いが香ってきていた。


「おはよ、マリー。ご飯は何かな?」

「おはよう、シャルちゃん。少し手伝ってくれるかしら?」

「えぇー、僕が料理できるとでも?」

「運ぶだけよ?」




シャルルだった時とは違って、彼女達はなぞにわちゃわちゃしながらトーストにサラダ、ゆで卵などを食べ終わる。

片付けなどもシャルロット以外の2人で終えると、3人は自然とテーブルに集まっていた。


「……さて。朝っぱらからあれだけど、昨日の続きを話そう」

「そうだね」


彼女達の前に置かれているのは、マリーが淹れたコーヒーと麦茶、買い置きのオレンジジュースだ。

彼女があまり口を挟まずに見守っている中、シャルロットと雷閃は妙に真面目な雰囲気で話し始める。


「もうわかってると思うけど、シャルル・アンリ・サンソンというのは『人を殺し続けることで殺しの苦しみを霞ませる、人殺しの人格』だ」

「うん、マリーお姉さんから軽く聞いてもいたし、ちゃんとわかっているよ。とっても、苦しそうだった」

「……うん。僕が人を殺せないばっかりに、悪いことをした。

けど、そんな彼が殺しと向き合うと決めたんだ。

僕も彼の意志を尊重して、向き合いたいと思う」


このセイラムという、処刑人協会――ウィッチハントによって日々処刑が横行している歪んだ國で。


生き残るために必要不可欠な殺しと向き合うのだと、彼女は宣言した。しかも、殺しができるシャルルではなく、殺しができないシャルロットが、である。


それはつまり、確実に今から行われる殺しつにいてではなく、これまでこの体が行ってきた殺しについて改めて考えるということであり……


「僕と俺の罪を、目を逸らさずに見つめるよ」


まだもこもこパジャマを着ている可愛らしい格好のままで、シャルロット・コルデーは真剣な表情で告げる。

内容はかなり重いが、服装によって緩和されどこかシュールな光景だった。


「うん、ぼくも手伝うね。多分、最悪の場合……」

「そうだね。もちろん視野に入れているよ。

だから、マリー。彼女達の元に案内してくれないかな?」


オレンジジュースを飲みながら頷くシャルロットは、覚悟を決めたような顔つきでマリーにお願いする。

静かにコーヒーを飲んでいた彼女は、難しい表情をしながらその目を見返していた。



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