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虚の天秤  作者: 榛原朔
三章 吸血憑依

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3-二度目のはじめまして

「おはよう。そして、はじめまして。

気分はどうかな、シャルロットお姉さん」


突如としてゴスロリ調の美少女になった同居人に、最初からマリーに聞いていた様子の雷閃はほんわかと挨拶をする。

中身どころか見た目の印象も激変したのに、まったく驚いている様子はない。


久しぶりの目覚めを噛み締めている様子の彼女――シャルル・アンリ・サンソン改め、シャルロット・コルデーも、少しの間天を見上げてから慣れた様子で挨拶を返した。


「うん、おはよ。はじめまして、嵯峨雷閃(さがらいせん)くん」

「あまりおどろかないんだね。記おくは共有しているの?」

「まぁ、そりゃ同じ体なんだからある程度はね。後からでも見られるし、そろそろ交代しそうだなってさっきまでも見ていたよ。僕を守ってくれるんでしょう?」


小首をかしげて質問してくる雷閃に、シャルロットは綺麗な所作で椅子に座り直しながら肯定する。


シャルルだった時はどこか荒々しく、多くの場合は男性的な雰囲気だった彼女だが、シャルロットに切り替わった現在はもう完全に女性だ。


にっこりと美少女に微笑みかけられている彼は、普段通りの態度で不思議そうになおも問いかけていた。


「シャルルお兄さんは自分で戦う人だったけれど、きみはあまり戦わない人なのかな?」

「僕が人を殺せないから、彼が生まれた。同じ能力はあるし、別に戦えないことはないけど……殺しは無理だから。

多分、途中で僕は止まっちゃうんだよね」


最初から明らかに余裕がなくなっていたシャルルとは打って変わって、彼女は飄々とした態度で言葉を紡ぐ。


しかし、その内容は彼よりも弱気で他人任せだ。

とはいえ、今まで殺しの負担を請け負っていたシャルルが奥に引っ込んでしまったのだから、無理もないだろう。


彼女の説明を聞いた雷閃も、既にシャルルから頼まれていたこともあって、それ以上は特に何も言うことなく守ることを受け入れていた。


「そっか、わかったよ。この場所も2人も、シャルルお兄さんが戻ってくるまでぼくが守る」

「ありがとー、雷閃ちゃん!」


彼に快く受け入れてもらったシャルロットは、再び椅子から立ち上がると素早い身のこなしでテーブルを回り込み、彼を抱擁しながら頭を撫でて感謝を告げる。


シャルルとはあまりにも違う反応と対応に、雷閃は拒絶こそしないが困惑したようにされるがままになっていた。


「それからー……待たせちゃってごめんね、マリー?」

「シャルちゃ〜ん……!!」


しばらく雷閃の頭を撫でていたシャルロットは、ひとしきりそれが終わると、さっきまで隣りに座っていた少女に改めて目を向ける。


すると、彼女と雷閃の初交流の間ずっと我慢していた様子のマリーは、目を潤ませながら彼女に飛びついていった。

その勢いは凄まじく、下手したら押し倒すか吹き飛ばすかしてしまいそうなくらい。


だが、シャルロットが殺しをしないとはいえ、体はシャルルと同じで荒事にも対応できるものだ。

彼女は難なく幼馴染みを受け止めると、雷閃の時と同じように柔らかく頭を撫で始める。


「痛ましいシャルルを見守り続けてくれてありがとね。

まぁ、僕が原因だし、僕のことでもあるんだけど」

「それは全然大丈夫だったわ! 私だってしたくてしたことだもの! けれどね? あの子はあなたと違って、あんまり近寄らせてくれないのよ? とっても寂しかったわ!」

「あはは……うん、僕達は血まみれだし、危ないし、そうなるだろうね。でも、僕は自分の気持ちに正直ってだけ。

あいつだって、家族は恋しいし君のことは好きなんだ。

役割的にできないだけだから、許してやって」

「うふふ、別に責めている訳では無いの。

あの子にも、幸せを感じてほしかっただけで……」

「彼も間違いなく君に救われていたよ、マリー」


彼女達は抱き合ったまま、長く話せなかった期間を埋めるように話し続ける。もうシャルルと話すべきことを話し、彼女とも顔合わせを済ませた雷閃は、2人に優しい目を向けながら2階へと戻っていた。




「えっとね、マリー。僕ちょっとお風呂に入りたいんだ。

少しの間離れてもらっていいかい?」


シャルロットとマリーが抱き合ってから数十分後。

未だにその体勢を続けていた彼女は、幼馴染みが落ち着いてきたと見ておずおずとお願いする。


自分よりも背が高い彼女を見上げるマリーは、上目遣いをしながら不思議そうに首を傾げていた。


「お風呂……? シャルルちゃんは昨日入っていたわよ?」

「もちろん知ってるよ。だけどね……その、僕じゃない間にも色々な事があったじゃない? 彼は割りと男性的で雑だったりもするし、ちゃんと自分で洗いたいなって」

「……? 血のことかしら? あの子は処刑人なのだし、それならいつものことのような気がするのだけど……」


詳しいところをぼかしてお風呂に入りたがるシャルロットに、何かあった時は大体家に残っていて、シャルルがどんな目にあったかを知らないマリーは、なおも首を傾げる。


もちろん、入りたいと言うならだめとは言わないだろう。

しかし、昨日も入っているとわかった上で入りたがるというのは、やはり普通ではない。


彼女はシャルロットがお風呂にこだわる理由を聞き出そうと、その細い体をギュッと強く抱きしめてむむむっと見つめ続けた。


その視線を受けたシャルロットは、すぐに降参して少し言いにくそうに理由を明かす。


「うーん、まぁ結構前のことではあるんだけどね?

彼は死体回収人のジル・ド・レェを処刑したんだ。

その時にー、そのー、ね? 敵が何か気持ち悪い触手をこの体に巻き付けたりしてきたから、流石に……」

「な、なるほど……そういうことね。それならたしかに今すぐ洗いたいかも。うん、今からお風呂を沸かしましょう。

久しぶりに、私も一緒に入るわ」

「そ、そう……?」


最終的に、彼女達は一緒にお風呂に入ることに決める。

シャルロットは目をパチクリとしていたが、一緒に何かすると決めたマリーはかなりパワフルだ

2人は速やかに湯船にお湯を張り、身を清めに行った。




~~~~~~~~~~




濃い湯けむりが浴室を満たしている中。一糸纏わぬ彼女達は、湯船にお湯が張り終わるまでの時間を無駄にしないようにとシャワーでお互いの背中を流していた。


先に相手の背中を洗うのは、もちろんマリーだ。

まだ彼女の人格がシャルルだった時にはありえないような、ひたすらに穏やかで微笑ましい空間が、ここにはあった。


「どう? 気持ちいーい?」

「そうだねー……久しぶりに自分の意思で体を動かせることもあって、とってもゆったりくつろげるよー」

「痒いところがあったら言ってねー」

「あはは、どちらかというと、うっかり眠ってしまわないようにつねってほしいかなー。今、すごく、眠いの」

「えいっ」

「ひゃあっ!?」


マリーに背中を流されながらうとうとしていたシャルロットは、いきなり脇をくすぐられて女の子っぽい悲鳴を上げる。

慌てて胸の前で手をクロスさせて振り返ってみれば、そこにはしたり顔をしている幼馴染みの姿があった。


どうやら、眠らないようにしてとの要望に沿った行動だったらしい。強く訴えかけるような目をしている彼女に対して、マリーは同様に慎ましい胸を誇らしげに張っている。


「眠気覚ましには、痛みよりも予想外のくすぐりよね!

痛くするのは心苦しくって強くできないし、それよりは少し恥ずかしさもあるくすぐりで起こしまーす」

「やったわねー?」


すっかり目が覚めた様子のシャルロットは、ニヤリと笑うと仕返しのように手を伸ばしていく。

声がよく響く浴室にはしばらくの間、キャッキャと2人がじゃれ合う声が反響していた。




湯船にお湯が張り終わると、2人は少ししてからじゃれ合うのをやめて、仲良く一緒に浸かり始める。

だが、さっきから何度も眠りそうになっていたシャルロットは、またもまぶたを重くして体を預けていた。


「シャルちゃん、またお眠なの?」

「んー、今は起こさないでいー」

「そうねー、のぼせる前には起こしてあげるわ」


シャルルとして彼女の体は一週間以上も眠り続けていたが、その前は何日もまともに寝ていない日もあったし、魔女狩りでもかなり酷使していた。


まだまだ疲れは抜けきっていないようで、マリーも要望通りに今は起こそうとしない。久しぶりに出てきたシャルロットという人格は、優しい幼馴染みの胸に抱かれて幸せそうに眠気に身を任せていた。


これまでは性別を隠すため、彼とか使えなかったんですけどようやく解禁されます笑

この先は人格ごとに彼か彼女か変わるので、一応ご留意ください

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