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虚の天秤  作者: 榛原朔
二章 鏡面逃避

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16-それでも私は殺します

長く足止めを食らっていた相手、牧師フランシス・デーンと占い師マザー・シプトンの両名を処刑したシャルルは、すぐさま南下し、協会本部へと向かう。


道中で出会うのは、当然多くの処刑人と、彼らと殺し合っている魔女認定者達だ。これが動乱の序盤であれば、おそらくまだ密かに向かうこともできただろう。


しかし、ここまで殺し合いが白熱し、いたるところで両者がぶつかり合っていると流石に隠れて向かうことはできない。

実力行使で無理やり突破するしかなかった。


もちろん、シャルルにとって処刑人は本来同僚であり、魔女認定者達は選択肢によっては味方だった相手だ。

どちらも敵ではないが、どちらも敵である。


喜々として殺そうとしてくる処刑人を気絶させ、迷いながらも殺そうとしてくる処刑人を気絶させ、覚悟を持って殺そうとしてくる魔女認定者達を殺して進む。


魔女認定者として確定しないために処刑人は殺せないので、半分の相手にはギロチンが本気で使えない。

そもそも、いつものように斬首刑にもできない。

ただ協会本部に向かうだけでも、かなりの労力だ。


そんな中を、シャルルは敵を慎重に見定めながら飛んでいく。時に魔女を叩き潰しながら、時に処刑人の急所に蹴りを放って昏倒させながら。


着実に本部へ進んでいき、首都キルケニーも目前まで迫っていた。すると、街に入る直前辺りで目に入ったのは……


「ん? その顔、特別指定のマリ・ダスピルクエットだろ。

何だてめぇ、発情させられてんのか?」

「シャルル・アンリ・サンソン……!!」


ピエールの鎖によって全身をズタズタにされ、血と同時に嫌な汗を滲ませながら木に寄りかかっている、頬を上気させた魔女――マリ・ダスピルクエットだった。


彼女はシャルルの姿を見ると、熱い息を吐いて震えながらもゆっくりと立ち上がり、キッと力強い目を向ける。

敵と戦っていた時に呼び出していたヤギ頭の人型悪魔は消えているが、まだ抗う気はあるようだ。


「ジョン・ドゥに言われた通りの道を辿ってきたが、まさかこんなに弱った相手がいるとはな。こっちも命がかかってるんだ。悪ぃが殺すぜ、ちっとズルいがな」

「殺せるものなら、殺してみなさい……よ!!」


シャルルが処刑宣告をすると、ダスピルクエットは熱っぽい目に可能な限り力を込めて睨む。挑発的に宣言すると同時に現れたのは、さっきピエールに殺されたはずのヤギ頭の人型悪魔――バフォメットだ。


それは召喚されたものなだけあって、実際に死んでいた訳ではなかったらしい。処刑人よりも遥かに大きく逞しい体で、薬品の影響も消えて全力で猛っていた。


「おいおい、何で召喚する系は大量に出すんだ? ようやくまともに戦える相手かと思ったら、本体も雌の顔だしよ」


しかも、今回はピエールに負けたばかりだからか、それとも目の前にいる処刑人をそれだけ警戒しているからか、単純に自分がまともに動けないからか。

バフォメットは何体も湧いて出ていた。


痙攣する彼女を守るように一体、敵を殺そうと殺意を向けるものが二体、隙間を埋めるように多数。

先日の3種類の化け物達ほどではないが、かなりの数である。


「ふざけッ……!! あんたも雌の顔になれ!!」

「なるかよ」


叫びながらもビクンと体を大きく跳ねさせる彼女に対して、シャルルは軽い調子で適当に返事をしつつ、ぽいっとナイフを投げつける。


すると、最前線に立って殺気を放っていたバフォメットは、右腕を突き出してそれを溶かしてしまった。


「ふん……流石にデカくてキモいだけじゃねぇんだな。

悪魔召喚みてーだから警戒しといたが、溶かすのか」

「はぁ……はぁ……」

「盛ってんじゃねぇよ」

「耐えてん、だよ……!!」

「辛いだろ? その薬が完全に抜けるかは知らねぇぜ?

楽にしてやろうってんだから、大人しく死んどけよ」


自分から死を選ぶことを勧められるダスピルクエットだが、もちろん協会を打ち倒そうという彼女が受け入れること訳がない。


他の処刑人ならいざ知らず、目の前にいるのは4人いる強者の1人であるシャルルなのだから。この相手と遭遇したからには、殺せずとも足止めするのが使命である。


その誘惑を振り切るようにバフォメット達を操り、高らかに吠え始めるそれらは勢いよく処刑人に向かっていく。


とはいえ、魔女ダスピルクエットの辛さは本物だ。

無実なのに魔女認定を受けたことや、理不尽で横暴な協会を打倒するという大義がなければ、きっと今すぐに死を選んでいたことだろう。


その影響はバフォメット達にも出ており、それらは数こそ直前のピエール戦よりも多かったが、動きが鈍くなっていた。


「ギャハハハハ!! 鈍いなぁ、デカブツ共!!

キショさも強さも、触手生物の足元にも及ばないぜぇ!!」


向かってくるバフォメット達を見たシャルルは、痛々しくも狂気的に笑いながらギロチンを振るう。


敵は自身よりも大きく、手足も大樹のように太い。

ギロチンという、圧倒的な質量を持つ巨大な木の塊がなければ、腕の一振りで薙ぎ倒されかねない程だ。


だが、素手やナイフでも軽やかに避けて倒していたであろう処刑人なので、相棒が残した遺品があれば負けどころか劣勢すらもあり得なかった。


物を溶かす右腕が伸ばされても、フランソワによって宇宙的な加工をされたギロチンは溶けず、逆に粉砕する。


ギロチンが間に合わないタイミングや方向から危険な手足が迫ってきても、ボタンを押してワイヤーを引いたり、地面に敵に引っかかった武器を軸に避ける。


くるくると、地上も空中も関係なく舞うように進むシャルルは、あっという間に苦しむダスピルクエットの目の前に辿り着いた。


「退け、異形の使い魔。テメェにそいつは救えねぇよ」


最後に、彼女を守るように立ち塞がっていたバフォメットを横薙ぎに吹き飛ばせば、もうほとんど終了だ。

ギロチンに打ち付けられ、砕かれ、締め落とされた怪物たちは、そのほとんどが倒れていた。


もちろん死んではいないし、あくまでも打撃で倒されただけなので少しすれば起き上がってくるだろう。

しかし、それらを召喚したマリ・ダスピルクエットが死ねば、そもそも召喚が終わる。


すぐに守りに来るモノはいないので、やはりこれでこの場の戦いは終了することだろう。


シャルルはギロチンを勢いよく地面に下ろし、下部についているトゲで固定すると、痙攣している魔女の頭を台座に固定した。


「いや、いやぁぁぁっ……!!」

「ピエールと会っちまったことだけは同情するぜ。

ただまぁ、最後が俺なのはまだマシだったろうよ。

他の野郎共の処刑とは違って、すんなり死ねるからな」

「アタシは、何もっ……してないのにッ……!!

外に興味も持ってない、殺しだって正当防衛だ!!」

「それがこの國で生きるってことさ。

誰も彼もが歪なもんで、どうあれ死に穢される。

外から来た迷い子と、マリー以外はな」

「あんたが、魔女を受け入れれば……!!」

「アビゲイルの下になんざつくかよ」


狂笑を響かせない殺人鬼の亡霊は、力なく彼女の叫びに応えながら素早くギロチンの刃を落とす。薬に侵された苦しみは断ち切られ、周囲にいた悪魔は塵のように消えていった。


「はぁ、はぁ……!!」


マリ・ダスピルクエットは最後まで救われることはなかったが、少なくとも苦しみは消えた。

その代わりとばかりに、テンションで誤魔化すことなく殺しと向き合ったシャルルは、呼吸を荒くする。


それは、殺すためのモノ。殺しを望まれたモノ。

殺すためだけに生まれたモノ。


殺人鬼の亡霊はふらつきながらも、ギロチンを引きずって街へと入っていく。処刑人は打ち倒し、魔女はナイフによって一瞬で首を断ち切り、死と恐怖を振りまきながら。


やがてそれの前に現れたのは……


「彼を呪い殺すために、道具をいくつかせいせ……

シャルル・アンリ・サンソン!?」


物陰でマシュー・ホプキンスを呪い殺す準備をしていた特別指定魔女――アリス・キテラ、ペトロニーラ・ディ・ミーズ、マーサ・コーリーの3人だった。



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