10-魔女組合の調査
自粛した方がいいかなとも思いましたが、うちの周囲に影響はなかったのと、見ている配信者さんも今日の12時から解禁みたいだったので、いつも通りにやっていこうと思います。明日は水曜なので夜(日付変わった頃に)投稿します。
魔女狩りが始まってから2日後。他の多くの無辜の民と同じく、魔女認定を受けた処刑人シャルルは、自宅よりも遥かにふかふかのベッドの上で目を覚ます。
ここは追われる立場となった身でありながら、ほとんど唯一匿ってもらえることになった古ぼけた洋館にある一室だ。
処刑人らしく、今までも起きていたのかと思える程にスッと意識を覚醒させたシャルルは、いつも通り睡眠中も着ている黒いコートを軽く直して部屋を出る。
向かう先は、当然この館の主がいる食堂だ。
静まり返った屋敷にコツコツとブーツの音を響かせながら廊下を進み、やがて辿り着いたドアを開けると、果たしてそこには巨大なリフェクトリーテーブルに着く老紳士がいた。
「お、おはようございます、シャルルさん。
気分は……えっと、き、気分はどうです?
よく眠れました? 部屋にふ、不備はなかったですか?」
食堂は天井にシャンデリアがついていたり、火はついていないが立派な暖炉があったりと、かなり豪華な作りだ。
奥の席についている見た目は若々しい男性も、貴族のような格好をしていて見るからに良い身分の人物だろう。
だというのに、この館の主であり、泊めてあげている立場にいるはずの男性は、シャルルが食堂に入って行くとやたらと気弱な態度で問いかける。
服装も手甲など軽装の鎧に黒いマントを羽織っているので、かなり臆病な性格のようだ。そのくせ、魔女認定を受けた者を匿っているのだから、よくわからないが……
ともかく、ある程度は安心して眠ることのできる寝床を提供してもらったシャルルは、軽くお礼を言いつつ長いテーブルの端に――主人の向かいに座った。
「おう、フィッシュさん。良く寝れた。ありがとな」
「そ、それは何より……ふぅ。本当に、何よりですねぇ……」
シャルルは処刑人ではあるが、立派な服装をしている男性――アルバート・フィッシュも、協会と繋がりがある人物なので対等だ。
そもそも今は、処刑人ではあっても魔女認定を受けているのだから、むしろ彼の方が立場は上なくらいである。
それなのに、アルバートはどこまでも気弱で下手に出ていた。
給仕に朝食を断ったシャルルは、彼の弱々しい態度を見ると珍しく困ったように眉をひそめている。
「フィッシュさん、俺は追われる身だぜ?
こうして寝床や会合の間を借りてる身で言うのもあれだが、もっと強気に出るべきなんじゃねぇか?」
「はは……私は油断すると、すーぐにやらかしてしまうものでねぇ。こ、このくらいの方が、ちょうどいいのですよ」
「そういうもんか」
「そういうもんです」
何も口にしないシャルルと、ゆっくりスープを口に運ぶアルバートは、のんびりと言葉を交わす。
処刑人協会と繋がりがあるだけに、余計な干渉や命令を受けることのない治外法権じみたこの場所には、ゆったりとした時間が流れていた。
「今日のニュースはこっちらー!!」
「うるっせぇ!!」
だが、その平穏もすぐに破られる。
シャルルがやってきてからそう経たないうちに、食堂は再び開いて騒がしい声が響かせていた。
食事中のアルバートは、気弱な性格的にもスープを口に運んでいるという状況的にも、もちろん何も言わない。
代わりに食堂内からは、先程とは打って変わって大声で怒鳴るシャルルの声が轟いた。
とはいえ、その騒がしさの元凶に変化はなしだ。
恐ろしい処刑人に怒鳴られたというのに、彼は爽やかに笑いながら食堂を突っ切ってくる。
「おいおい、そりゃ君も大概だぜ?
魔女認定を受けている上にうるさいとか救いようがない。
依頼を受けてなけりゃ、トンズラするとこさ」
「てめぇのせいでこうなってんだ!! 静かにここへ、来い」
食堂を突っ切ってきたのは、小洒落たジャケットを羽織っている若い男だ。重ねて怒鳴られ、低く抑えられた声で脅されるように指示されても、彼はヘラヘラ笑っている。
「ハハッ、俺のせいではないだろー。俺はアビゲイルちゃんに言われた通り動いて、情報を集めて渡しただーけ。
いわば、殺しの道具だけを作ったより悪質なやーつ」
「クソがッ!! 大人でも若いとうぜぇな、ジョン・ドゥ!!
ごちゃごちゃ言ってねぇで仕事をしろってんだ!!」
「だから来たんじゃん? では、本日のニュース!!」
「うるせぇ!!」
アルバートがスープを飲みながらもおろおろとしている中、今は20代前半くらいの男性に見える人物――ジョン・ドゥと、お尋ね者であるシャルルはマイペースに騒ぎ続ける。
離れて座りながらヘラヘラと笑う情報屋も騒がしいが、静かにしろと騒いでいる処刑人も完全にブーメランだ。
テーブルの前までやってきた彼は、その注意を気にすることなく、ギャーギャー騒ぎながら報告に入っていく。
「ニュースはたくさんあるけども、君の行く末に一番関わるのはこれかなー。残り10人いた特別指定魔女だけど、既に3人処刑されたよ。レベッカ・ナース、ジョージ・ジェイコブ、ジョン・プロクターがね。やぁ、思ったよりも少ないね」
「多いな」
ジョンからのニュースを聞いたシャルルは、最後に述べられた彼の感想と被せるように真逆の考えをつぶやく。
ただの情報屋でしかないジョンとしては意外だったらしく、彼はその声を聞いて動きを止めると、不思議そうに首を傾げていた。
「……あれ、多いんだ?」
「もっといると思ってたなら、こんなとここもってねぇ」
「そりゃそうだけど、たった3人だよ?」
「魔女認定を受けたやつがどれだけいると思ってんだ。俺達処刑人は殺しが専門で、探すのは別だぞ。お前が関わったのが告発までなら、見つかってんのが驚きだ。
身代わりにしようとしてんなら別だが、今のあいつらは結託して魔女組合を結成してんだろ? 主力は隠すさ、そりゃ」
「強いから特別指定されてる訳じゃないけどねぇ」
「強さにも色々ある。戦力として強いのもいれば、統率力や知力が強いやつ、連携を生む潤滑油的な強さ。色々だ。
お前はアビゲイルの戦闘力が高いと思ってんのか?」
「あはっ、思ってないなぁ! 彼女はたしかに知力か」
シャルルの説明を聞いたジョンはすんなりと納得したようで、面白そうにテーブルをバンバン叩きながら笑う。
一応は魔女認定された相手と話しているのに、とんでもない陽気さだった。
当然シャルルは黙らせようと騒ぐのだが、彼もそれを見越して離れて座っているので、手は出せない。
両者がひとしきりバンバンとテーブルを叩いて落ち着いてから、魔女狩りについての話し合いは再開される。
「まぁともかく、3人処刑されて残りは7人。かと思いきや、組合内で頭角を現した者が4人もいるんだなーこれが。
追加されたのはマザー・シプトン、アグネス・サンプソン、イザボー・シェイネ、ビディ・アーリーの4人だよ。
これで特別指定魔女は合計で17人。最初の3人は除くとして、死者含めて14人。多大なる功績となると……7人目指す?」
「ゲームみたいに言うな、バカが。残りは11人だろ?
半数目指すつもりはあったが、増えた分まで殺れるかよ」
「またまた〜。口ではそう言いつつも、狙ってるだろ?」
「……で、結局あの後魔女組合はどうなった?
奴らの動きを教えろ」
明るく言い放つジョンだったが、案外冷静なシャルルはまともに取り合わずに話を進める。すると彼も、ニヤッと笑うと椅子から立ち上がり、なぜか回転しつつ近付いて書類を差し出した。
「アビゲイルちゃんは他のサバトにいた魔女も含めて訓練し、その結果それなりの統率力がある軍になった。
もしも君が加勢した場合、協会を崩せそうな程にね。
あの子の魅了、ちょっと強すぎない? あはは」
「……」
「軍となった彼女達は、もちろんキルケニーへ向かうよ。
いくつかの分隊を作って、四方から囲むつもりだね。
通ると聞いた道、おそらくは通ると思う道、色々あるけど……
まぁ、大体はこの地図の通りに進軍すると思う。動き出すのは明日の深夜。先遣隊は捨て駒だけど、特別指定がいるよ。
軍の名簿や調べた限りの能力は書類の通り。説明いる?」
「いらん」
魔女組合の動きを軽く聞いたシャルルは、書類を受け取ったことで容赦なくバッサリと切り捨てる。
情報屋の仕事はこれにて一段落だ。ジョンは書類を睨み始める処刑人を尻目に給仕を呼び、朝食を食べ始めた。




