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虚の天秤  作者: 榛原朔
二章 鏡面逃避

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9-サバト

明けましておめでとうございます!

今年も化心、そしてティエラムンド〜誰かの心の物語〜をよろしくお願いします!


(しれっとシリーズ名を変えていますが、元々ひとまずまとめただけだったこともあって、そこまで変化はなかったりします。〜の中は変わっていませんし。

一応、この名前を出したからには、この先変わることはないと思います)




そして、報告というか告知?です。

約一月の休載があったのと、おそらく3元日は暇だと思うので、少し多めに投稿したいと思っています。

夜。人の視界を制限し、魔女認定を受けた逃亡者や反逆者の姿も自然に隠してしまう深夜。


先日シャルルが証拠写真を撮られてしまった家では、どうにかして処刑人から逃げてきていた魔女達が、密かに集まっていた。


今までは不安によって寄り集まっていただけだったが、今回に限ってはそれだけのことではない。

正しく処刑人協会――ウィッチハントに抵抗する集団として、魔女としての決起集会――サバトである。


そのため、室内の緊張感も今までの比ではない。

今にも殺されてしまうというような、敵を殺してでも生き残ろうとするような、殺伐とした熱気で溢れていた。


とはいえ、その多くはただの一般人であるため、処刑人達と戦う手段など持ち合わせていないだろう。

ほとんどの者は殺気を放ちながらも怯え、前に立っている者のみが堂々としていた。


「皆さん、落ち着いてください。私も、ただ不安に駆られてこの集会に参加していただけの者ですが、少しばかり戦う術を学んでおります。狩られて終わるつもりはありません。

共に立ち上がりましょう」


台の上に立って演説をしているのは、本当にどこにでもいるような服装をした女性だ。


といっても、全く特徴がない訳では無い。

頭にはいかにも魔女、というようなとんがり帽子を被っていて、そこだけは唯一他の人とは違っていた。


横にもう1人の女性を控えさせている彼女は、処刑人と戦えるだけの力を持たず、恐怖にざわめいている人々に語りかけていく。


「戦う術があるだって!? じゃああんたが魔女だ!!」

「そうよ、あたし達を巻き込まないでよ!!」

「処刑人協会の方々も、戦う術を持っています。それから、知恵を求めることが悪であるならば、人類に発展などありませんでした。いえ、そんなことはどうでもいいですね」

「どうでもいい訳ないでしょ!?」

「責任取って処刑されてこいよ!!」

「俺達の無実を証明しろ!!」

「皆さん、落ち着いてください。私が処刑されたとしても、あなた方の無実が証明できるわけではありません。

生き残りたいのであれば、立ち上がらねば」

「魔女が消えれば助かるんだ!!」

「あんた以外に、魔女なんていないのよ!!」


魔女狩りの恐怖から集まってきた多くの男女は、しかし彼女のように戦う覚悟を持って集まっているようではないようだ。


壇上で女性が語りかける中、今にも彼女に殴りかかりかねない程の勢いで、戦いに否定的に声を荒げている。


だが、壇上に立つ女性も魔女認定を受けており、もう死を宣告されている状態なので、それで諦めることはできない。

横に控えているメイド服の女性から杖を手渡され、コツンと床に打ち付けることで注意を引いていた。


「仮に私が魔女だとして、1人で自首して死ぬとしましょう。

ですが、それで彼らが止まる保証がない以上、あなた方にも戦う術を身に着けてもらわねばなりません」

「本物の魔女が死ねば、魔女狩りは‥」

「現実逃避ではなく、確実に生き残るために!!

私達は共に立ち上がり、戦う術を身につけるのです!!」

「……!!」


ひときわ強く杖が打ち付けられ、否定的な声を押さえつけるような大声で鼓舞する彼女に、住人達も思わず口を閉ざす。

隣のメイドは同意するように顔を伏せ、集まった魔女認定者達も互いの顔を見合わせていた。


「……あたしはあんたに教えを乞うよ、アリス・キテラさん。

頼りないだろうけど、よろしく頼むね」

「ありがとうございます、マーサ・コーリーさん」


しばらくの沈黙の後、1人の女性――マーサが壇上に立つ女性――アリスに同意し、ウィッチハントと戦う意志を表明する。

彼女の言葉をきっかけにして、この場には再びざわざわとした喧騒が戻ってきた。


しかし、今回はもちろん怯えの色が強い殺意ではない。

マーサが表明したように、凄腕の処刑人達と戦うための決意を固めるようざわめきだ。


「お見事! あたしが信じていた通り、あなた達はちゃんと立ち上がっているわね! まだ不安だろうけど、安心して?

いつも言っている通り、あたしは最後まで味方だからっ」


サバトに集まった人々の意識が、ようやく魔女狩りへの抵抗に変わってきていた頃。必死に話し合う彼らの真ん中から、突如として聞き覚えのある声が聞こえてくる。


彼らが驚いてスペースを空けると、アリス・キテラや彼女の侍女が目を見張るその先には……


「……!? アビゲイル・ウィリアムズ!?」


相変わらず目立つドレスを着ている、純粋そうに見えるだけの告発人となった少女――アビゲイルがいた。

人々は今度こそ恐怖100%になったざわめきを生みながら壁際に後退していき、アリスと侍女も厳しい表情で前に出る。


「ペトラっ!」

「はい!」

「あら……味方なのだけれど、かなり警戒されているわね」


進み出てきたアリスに杖を向けられるアビゲイルは、本気で不思議そうに首を傾げている。


だが、彼女はアリス達を告発した張本人であるため、もちろん魔女認定を受けた者達は警戒を緩めない。

後退していった人々は恐怖に満ちた瞳を向け続け、アリス達も杖を向け続けていた。


「警戒しない理由がありません。あなたはいつも私達の相談を受けてくれていましたが、間違いなく処刑人です。最終的に私達のことを告発もしたのですから、明らかに敵です」

「たしかに、あたしはあなた達を告発した。

けれど、それは仕方のないことだったの。会長は機械を集めている者や集まる者を危険視していたのだから」


告発した事実を突きつけられながらも、アビゲイルはなおも堂々とした態度だ。

こんな事態を引き起こし、魔女認定者達に敵意を向けられているのに、慈愛を湛えた微笑みを浮かべて胸を張っている。


さっきまで言っていた味方という言葉とも明らかに矛盾しているのに、その言葉を信じている様子だった。


しかし、当然死者に代わってサバトの主催者となったアリスが納得することはない。

杖を向けたまま、厳しい表情で言葉を続ける。


「男性達に機械を勧めたのはあなたで、私達に集まるよう促したのもあなたです。全ての元凶が、あなたです」

「あたしは本当にあなた達のことを思って提案したわ。

だって、あたし達はもっと楽に暮らせるはずなんだもの。

だから、相談されたことに本気で助言をした。それは会長に拒まれてしまっているけれど……だからこそあたしは、あなた達の正しさを最後まで信じられる。ちゃんと最後まで味方をすることができる。みんなに戦う術を教えるわ!」

「信じられません。あなたは共に戦ってくれるのですか?」


さっきの演説で語りかけた通りの結論に達したアビゲイルに、わずかに杖を下げたアリスは顔をしかめて問いかける。

すると彼女は、純粋そうな笑顔で首を横に振った。

自分だけは、決して命なんてかけないわよ……と。


「ううん。あたしは処刑人だもの、戦うのは無理。

だけど、処刑人だからこそあなたよりも的確に戦う術を教えることができる。そう思わない?」

「思いませ‥」

「アビゲイルちゃん、マジで教えてくれるのか!?」

「あなたが教えてくれるのなら、きっと助かるわ!!」

「みなさん……」


再び杖を持ち上げて、命を懸けないアビゲイルの言葉を否定しようとしたアリスだったが、その言葉は壁際に逃げていたはずの人々の声でかき消される。


この場で唯一最初から立ち上がろうとしていた彼女達は今、唯一この状況の恐ろしさや異常さを感じていた。


アビゲイル・ウィリアムズは、今回の魔女狩りや魔女裁判の原因となった告発人。

アビゲイル・ウィリアムズは、処刑人であるシャルルが腹黒いと明言するほどに純粋で邪悪な狂言師。


だが同時に。アビゲイル・ウィリアムズは、魔女認定者でもないにも関わらず、アリスが築き上げていたこの場の全てを根こそぎ奪い取っていた。


「あたしは戦わない。けれど、だからこそ自由に動けるの。

ここにいない特別指定魔女にも声をかけてくるわ。生き残るために、魔女組合を結成するのよ!」

「うぉぉぉぉ!!」


アリス達はたしかに抗うことを望んでいた。

しかし、決してこのような形ではなかっただろう。


純粋で邪悪なアビゲイルは、彼女が願っていたよりも苛烈に、彼女が思っていたよりも大規模に魔女認定者を悪にする。


最初は不安を和らげるために寄り集まっていただけの集会は、先程までは生き残るために寄り集まっていたサバトは。

今ついに、セイラムを揺るがす邪悪な魔女集会であるサバトとなっていた。




~~~~~~~~~~




アビゲイルがサバトの意志を乗っ取っていた頃。

近くの木の上では、彼女への嫌悪感を隠しもしないシャルルが、ギロチンを抱えてその様子を眺めていた。


「住民のために提案した。つまりは結末をわかっていながら一時の優越感のために道を示した。

楽に暮らせるはずだった。つまりは自分は巻き込まれたくないが、いつかそんな日が来ないかと試してみた。

最後まで信じられ、味方になれる。つまりはどれだけ地獄に叩き落としても、悪意はないとのアピールになる。

より的確に戦う術を教え、特別指定魔女達をまとめさせる。

つまりはより派手な戦いになると自分が楽しいだけのこと。

善性がどこにもないくらい腹黒い、最悪の狂言師。

テメェは根っからの邪悪だよ、アビゲイル・ウィリアムズ」


彼女への評価は、いつも通り冷たく言い放たれる。

魔女認定を受けた処刑人は、まとめ上げられた魔女達を狩る隙を伺いながら、その訓練を見つめ続けていた。



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