6-舞台の幕は上がる
すみません、他作品やってて忘れてました
奇妙なほどの静寂の中、ゴロンと重い音を立ててティテュバの頭は転がっていく。
レッドカーペットはとっくに残る2人を赤く染め上げ、今にも段差の下に広がる広場にも落ちていくところだ。
ぴちゃん……ぴちゃんとそれが滴り始めた頃、ようやく広場には正常な狂乱が伝播していった。
「キャァァァァァァ!?」
「おい、押すな馬鹿野郎!!」
「いいから動け!!」
世界を揺らすような悲鳴の中、どこかから銃声も鳴り響く。
逃げ惑う住民達にはもちろん弾丸など見えないが、明らかな威嚇射撃に立ち止まらざるを得ない。
まだ広場の壇上にいる残り2人の女性――サラ・グッドとサラ・オズボーンは、ティテュバだったものを呆然と見つめながらスカートを黄色く染めていた。
「残り2人。大人しくて助かる」
「あ、あ……」
サラ・グッドとサラ・オズボーンの2人は、もはや逃げようと考えることすらできず、放心状態だ。
見せしめにはティテュバで足りており、抵抗しないのならば女性を固定する必要もない。
ヨハンは断頭台から離れると、そのまま近くに置いてあった妙に丸い大剣を手にして、微動だにしない彼女達もの元へと歩み寄る。
「心配しないでっ、あたしだけは最後まで味方よ!!
一緒に罪を償いましょう!!」
「……」
力尽くで騒乱が治められる中、バルコニーから身を乗り出したアビゲイルが、下で震える2人に笑いかける。
きっかけを作った身でありながら、容赦なく処刑を執行させている身でありながら、彼女は本気で2人を思っているかのような慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。
その姿だけ見れば正しく聖母であり、だからこそその言動が異常に映る。アビゲイル・ウィリアムズは、確かにシャルルが嫌う通りの疫病神で、自作自演の狂言師だった。
「わた、わたし、は……」
「言い残すことは?」
「……悪魔」
ぼんやりとバルコニーのアビゲイルを見上げるサラ・グッドは、ヨハンの問いかけにポツリとつぶやくと、すぐさま鋭い大剣で首を飛ばされる。
スパッと綺麗に斬り飛ばされた彼女の首は、まるでなにかの球技かのようにくるくると宙を舞い、黙らされる群衆の中に落ちていく。
それは人の海に溺れ、一瞬で姿を消した。
直後、その海の中から響いたのはグシャッというグロテスクな音だ。
明らかに彼女の頭が潰れた音に、狙撃によって黙らされていた人々も再び狂乱の渦に叩き込まれていた。
「う、うぅ……」
「言い残すことは?」
暴動を起こす住民達が狙撃される中、ヨハン・ライヒハートは機械のように規則正しい動きで再度問いかける。
最後に残されたサラ・オズボーンは、ただ不良品を処分するだけのような軽い処刑に怯え、言葉を失っていた。
「……ないならないでいい。さらばだ」
しかし、機械的な処刑人がやることは変わらない。
何も言わないのならば、それはそれだ。
彼は表情一つ動かさずに大剣を振りかぶると、ただの作業として迷いなくその刃を煌めかせた。
何も言い残さなかったサラ・オズボーンは、バルコニーから微笑みかけてくる悪魔を虚ろな目で見つめながら、その生を終える。
アビゲイルは最後まで味方だ、心の底から悲しいとでも言うような雰囲気を漂わせていたが、宙を舞いながら見つめ続ける彼女の目は、明らかに呪いの意思を紡いでいた。
「……」
宙を舞う首は、今度は先程とは真逆で処刑人達がいる方へと飛んでいく。果たして、その軌道はたまたまなのか、狙って飛ばしたものなのか。
かつて彼女だった球体は、赤く綺麗な軌跡を描いてシャルルの手の中に収まった。広場に集まっている住民達とは違って処刑人なので、騒ぎはしない。
だが、血に濡れた頬を軽く拭う処刑人の目は、静かな怒りを湛えていた。
「静粛に、静粛に。話はまだ終わってないわ。
この写真に写っている通り、処刑対象者は多くいるの」
特に騒いだ人物は狙撃によって脳天を撃ち抜かれ、強制的に沈黙させられる。脳が飛び散ってきた人々は恐慌状態に陥るが、黙らなければ処刑対象になるということで、かろうじて広場には静寂が戻っていた。
3人もの人間を告発し、処刑させることになったアビゲイルは、なおも慈母のような笑顔だ。
間接的に処刑しているというのに、今も皆の味方だというように笑いかけていく。
「今回は何十人、何百人と罪人はいるんだけど、流石にこの場で全員を読み上げるのは疲れちゃうから……
とりあえず、特に重罪になった者をスクリーンに映し出して告発するわね! 大丈夫っ、あたしは皆の味方だから。
一緒にこの危機を乗り越えましょう!」
拡声器によって大きくなったアビゲイルの綺麗な声は、よく澄んでいるからこその残酷さで、容赦なく彼らの脳に響く。
本気で助けになりたい……というような彼女の宣言が終わると、さっきまで写真が映っていたスクリーンには多くの名前と顔写真が映し出される。
――――――――――
サラ・グッド-処分済み-
サラ・オズボーン-処分済み-
ティテュバ-処分済み-
アリス・キテラ
ペトロニーラ・ディ・ミーズ
マリ・ダスピルクエット
マンテウッチャ・ディ・フランチェスコ
マーサ・コーリー
レベッカ・ナース
ジョージ・ジェイコブ
ジョン・プロクター
サミュエル・パリス
フランシス・デーン
――――――――――
「さっき言った通り、ここに映し出された方々以外にも処刑対象者はたくさんいるわ。サバトに集まっていた方、反逆者の技師から機械を買い集めていた方、優秀な情報屋によって全員の顔が割れていますから、お気をつけて。
でも大丈夫っ。あたしは最後まで皆の味方よ!」
スクリーンに映し出されたのは、男女合わせてたった13名。
しかし、念押しするかのように何度も告げられるこれ以外にも対象者がいるという言葉に、上に記された3名の処分済みという無慈悲な単語。
それらによって、再び広場には狂乱が舞い戻る。
すでに言うべきことはすべて言い終わっているためか、もうフランツによる狙撃もない。
荒れ狂う人波は、処刑対象になった恐れのある者から順々に邪魔者を薙ぎ倒し、広場から逃げていく。
眼下に広がる地獄のような光景を眺めるアビゲイルは、なおも微笑を浮かべながら最後の言葉を投げかける。
「これより、セイラムでは表裏関係のない処刑が横行します。魔女狩り及び、魔女裁判の開廷です」
告発人、アビゲイル・ウィリアムズは、この場に集められたセイラムの住民に言うべきことを言い終え、拡声器を下ろす。
だが、言い終わったのはあくまでもセイラムの一般市民に対してであり、協会の処刑人達にはこれからだ。
その視線は真下で待機する殺人者達に注がれ、拡声器も再び艷やかな口に当てられる。
「それでは、処刑人の皆さん。魔女狩りの主役は、もちろんここにいる皆よ。もしも手心を加えたら、反逆心があるのかなって勘違いされるかもだから気をつけてね? 殺されちゃわないように、頑張りましょう。えい、えい、おーっ!
……それから、もう一度スクリーンを見てくださる?」
魔女狩りに際して、処刑人達を鼓舞するように拳を振り上げていたアビゲイルは、再度彼らの視線をスクリーンに誘導する。
そこに映し出されていたのは、先程と変わらず13名の名前と顔写真だ。しかし、その一番下には、ゆっくりと新たな人物の名前と顔写真が浮かび上がっていく。
「な……!?」
「マジかよ、あいつが……!?」
新たな人物の写真は、他のものと違って2つ。
彼女達と同じような顔写真と、暗闇の中でサバトが行われている家の玄関に手を伸ばす姿だ。そう、つまり……
「処刑人、シャルル・アンリ・サンソンを、サバトに参加した反逆者として、魔女認定いたします」
調査に行っていた先日の様子を証拠として、いつも通り目元までを黒いコートの襟で隠した処刑人の姿が、スクリーンには映し出されていた。
名簿のキャラはもちろんネームドモブです
書いてるうちに多少キャラ立った人もいますが、指標でしかないのでキャラページに入れるかもわかりません




