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虚の天秤  作者: 榛原朔
二章 鏡面逃避

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4-処刑人の招集

「むぅ……軽く探った感じ、ただ不安なだけ?

声はあんまし聞こえなかったが、別に何かしようとしてる訳じゃなさそうだったよな……」


ここらで1番立派な家に集まる人々の様子を探り始めてから、ほんの数十分後。


外からできるだけの観察を終えたシャルルは、彼らが集まる意味がわからず、不思議そうに首を傾げながら帰路についていた。


怪しい人々を見かけたのはピクニックに出ていた範囲なので、そこまで遠い場所ではない。

もちろん近所という程でもないが、行きも帰りも散歩がてらに徒歩なので、ゆっくり考える時間だけはある。


「しかも、パッと見た限りではウィリアムズもジョン・ドゥもいなそうだった。別に何か企んでる訳じゃねぇのか……?

ただ単に、不安で集まる奴らを守ろうと……する訳ねぇな。

うん、あのアビゲイル・ウィリアムズに限ってそれはねぇ」


一瞬だけ思い違いだったかと考えるシャルルだったが、相手がアビゲイルだったことですぐにその考えは霧散する。


表面上は心優しい少女である彼女は、セイラム各地で人々の相談を受けていて、協会の者にしては珍しく普通に信頼されている人物だ。


それなりの地位にある者であれば、他の協会のメンバーとも交流があるので特別視されてはいないが、一般の住民ならば彼女だけは信頼できると考えている者も多い。


だが、アビゲイル・ウィリアムズという少女は、シャルルが常に警戒している通り腹黒い人物だ。

いや、より正確に言うのならば、破滅する瞬間ですら味方と言いつつ、ちゃんと最後まで破滅に導く悪魔である。


あの集会自体には思惑がないからといって、2人があの場にいなかったからといって、アビゲイル・ウィリアムズに謀略がないなんてことはありえない。


アビゲイルを基準にした思考に切り替えたシャルルは、事実ではなくあの処刑人の性質から状況を分析していく。


「集まる理由……不安……いつも通り罪人としての告発、か。

だとすると、隠した理由は熟成か? 勝手に手を出すなっていう牽制……チッ、マジで質が悪いな、あの腹黒」


さっき集まっていた人々に思惑はない。

さっき集まっていた人々を使った謀略も、おそらくない。


しかし、ああやって密かに集まっている事自体が彼女の思惑通りの展開だ。人々が処刑の対象になるかどうかは、処刑人協会の独断で決まるのだから。


そう冷静に判断した処刑人は、やけに不穏に見える三日月を眺めながら、小さく舌打ちをする。現在のシャルルは休暇中だが、アビゲイルの目論見通りにあれだけの人数を処刑対象にするというのなら、駆り出されること確実だ。


心底嫌そうに、黒いコートに半分以上が隠れた顔をしかめていた。とはいえ、まだ隠そうとしていたということは、すぐさま事が起こりはしないだろう。


シャルルはこの静かな時間を楽しみながら、ぶらぶらと用もなく一人で散歩を続ける。大まかな方向だけは自宅を目指し、わざと遠回りをするように進んでいく。

そうするうちに姿を現したのは……


「……!? お前、何でこんなとこいんだよ?」


黄色を基調とした和服を身に纏い、腰には立派な刀を差している少年――雷閃がだった。今は深夜であり、普段ならば彼は寝ている時間だ。


しかも、彼が家で寝ていることには、あの空間を守るという意味もある。それなのに、彼は家やマリーの安全を守ることもなく、この場に姿を現していた。


「なんでって、もちろんおむかえだよ。きみは最近、ぼくをさけたがるからね。家には帰らなきゃ」


不機嫌そうなシャルルに問い詰められた雷閃は、特になんてことはなさそうにほんわかと言い切る。

月明かりは少ないはずなのに、風に髪をなびかせる彼の姿はやけにはっきりと見えていた。


「俺よりガキのくせに、何がお迎えだ」

「……そうだね。けど、なんでかな。今のぼくは、なぜかこの國に来る前とはちがう感覚があるんだ。ぼくは見た目通りに子どもだけど、中には未来のけい験がたくさんつめこまれてるみたいな感覚。あの夜は特にそうだった。ふしぎだね」

「知るか。帰るぞ」

「うん」


不思議な雰囲気で言葉を紡ぐ雷閃だったが、シャルルは本気で興味がなさそうに切り捨てた。彼としても別に深い意味はなかったのか、帰宅の言葉を聞くと嬉しそうに笑う。


少しずつ輝きを強めていく2人は、パチっと指が鳴る音が聞こえた瞬間、雷の音と共に家の前で立ち尽くしていた。


「……慣れねぇな、これ」

「そうは見えないよ?」

「見た目はな。吐くほどじゃねぇけど、軽く酔うんだ」

「早くねないとね」

「もう遅いだろ」


慣れないと言いながらも、シャルルは既に何度か経験しているのか特に驚くことなく家の扉を開ける。

最初こそ殺し合っていた彼らは、今はもうそれなりに仲良く喋りながら帰宅するまでになっていた。




~~~~~~~~~~




「あら、もう起きたの?」


シャルルが不穏な集会を見に行っていた日の朝。

静かにドアを閉めていたマリーが改めて部屋の中に目を向けると、そこにはいつの間にか体を起こしている幼馴染みの姿があった。


しかも、ドアを閉める一瞬の間に起きたということ以外にも、気になる点がある。

それは、ベッドの上にいる黒いコートを着て眠っていた同居人が、既に処刑人の顔をしていたということだ。


「……嫌な気配がしたもんでな」

「嫌な気配……お客さんかしら?」

「んな可愛らしいもんじゃねぇよ。死の足音を響かせているような同僚だ。それも、ひときわ趣味の悪いやつ」


窓の外を見ようとするマリーを静止するように飛び降りると、シャルルは顔を見せずに雷閃の元へ行くよう指示してから部屋を出る。


近づいてきているのは、同僚である処刑人。それも、性格が悪いアビゲイルとは違って、趣味が悪いという曲者だ。


狂ったようでいて正常な処刑人は、家に入られる前に決着をつけるべく、大急ぎで階段を降りていった。

チャイムがなる前に玄関を開けると、果たしてそこには……


「ありゃ、呼ぶ前に来るなんて随分と気が早いねぇ。

もしかして、僕が来るのを心待ちにしていたのかな?」


ベルトや帯、鎖など、過剰なほど装飾品を身に着けた、軍服のような格好をしている少年の姿があった。

シャルルよりも10センチ以上も背が低い彼は、勢いよく出てきたその姿を見上げるようにしている。


しかも、なぜか好感度が異常に高いようで、キラキラという表現がしっくりくるような目をしてまさに少年といった様子だ。


なんとか彼が家のドアに触れる前に外に出られたシャルルは、彼とは対照的なゴミを見るような目で、その言葉を切り捨てる。


「テメェの来訪を喜ぶようなやつはいねぇよ、ランクル。

舐め回すように見てくんな、気色悪ぃ」

「寂しいなぁ、僕のことはピエールと呼んでよ。

君と僕の仲だろう? ほら、握手握手」

「俺に触れようとすんな、ピエール・ド・ランクル。

さっさと用件を言え、殺すぞ」


嬉しそうに歩み寄ってくる少年に、シャルルは素早くナイフを取り出して突きつける。

これ以上近づいたら本気で刺し殺しに来そうな殺気を放たれると、流石の彼も肩をすくめて本題に入った。


「マシュー・ホプキンス会長から招集命令だよ。

休暇を盾に逃げられないよう、僕が来たのさ」

「……招集? 何でだ?」

「さぁね。処刑人は全員集合だって。面倒だよねぇ。まぁ、アビゲイルちゃんがきっかけらしいし、ちゃんと行くけど」


招集の理由を聞いたシャルルは、ピエールへの嫌悪感よりも強い感情をその目に宿す。あのアビゲイル・ウィリアムズがきっかけということは、確実にそういうことだろう。

この先の展開をだいたい予想し、険しい表情になっていた。


「あれあれ? 眉間にシワを寄せちゃってどうしたの?

気分が悪いなら僕が‥」

「黙れ」


難しい顔をしているシャルルを見て、途端に心配そうな表情を浮かべて近寄っいくピエールだったが、ナイフを振るいながら遮ったことで、言動をどちらも封じられる。


それなのに、彼はやはりまったく怒ったりする様子もなく、仕方がないなぁという風に肩をすくめていた。

あまりにも寛容で、気味が悪いくらいだ。


「ギロチンを持ってくる。家には入んな。中も見るな」

「えぇ〜? 中を見るくらいいいじゃ〜ん。

僕と君の仲だろ〜? もっと心を許してよ〜」

「死ね」


あくまでも仲良くしたいという態度のピエールに、シャルルは最後まで徹底的に冷たく言い放って家に戻る。

処刑人協会の本部へと赴くにあたり、武器であるギロチンを持ち込むために、雷閃に家のことを任せるために。


それから十数分後。

しっかりと準備を終えたシャルルは、嬉々として馬車を操縦するピエールと共に協会本部へと向かっていった。




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