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虚の天秤  作者: 榛原朔
一章 屍臭乱舞

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23-深淵は塞がれて

すみません、書くの楽しすぎて忘れてました。

本日2回目です。

ジル・ド・レェを処刑したシャルルは、念のため生き残りの化け物達がいないか確認するために施設中を見回ってから、建物を出る。


元凶の2人を殺してもなお気にするのは、当然それらが下手すると無差別殺戮を引き起こしかねないからだ。

それらは、フランソワが死んだ時点で既に姿が消えていたが、理由は不明なので油断はできない。


しかし実際に見回って確認してみると、化け物達は自ら溶鉱炉などに飛び込んでいったような痕跡があった。

どうやら彼女は、きっちりあれらを制御下において、協会に対する戦力以上のことをさせるつもりはなかったようだ。


ジルなら放置していずれ暴走させる、もしくは気まぐれで解き放ちかねないたろう。だが、フランソワ・プレラーティにおいては、死後の暴走を防ぐために自死をさせていた。


ジル・ド・レェを殺すことも彼女のおかげなので、施設から出て夜空を見上げるシャルルは、無表情ながらもどこか哀愁を漂わせている。


戦闘中はハイになっていたが、ふらついてもいてかなり疲労が溜まっている様子だった。


「俺は……」

「おや、シャルルさん?

こんな夜更けにどうしたのですか?」


シャルルがポツリとつぶやいていると、唐突に横から声がかけられる。ゆっくりとそちらを向いてみれば、そこにいたのは白衣姿の女性だ。


彼女は施設の敷地内に点在する家屋に住み込みで雇われている人なので、ここにいることはおかしなことではない。

今までずっと暴れていたのだから、物音を聞いて気にかけていたのだろう。


動きやすいように髪をまとめている彼女は、人影が見えたので慌てて様子を見に来たといった雰囲気ながら、ある程度は察した様子で切れ長の目を向けていた。


「危険物を処理していたんだ。中はもう安全だが、あいつらは責任取って辞めたよ。それでも行きたきゃ、好きにしろ」

「そうですか……」


シャルルの答えを聞いた彼女は、静かにそれを受け入れる。

決して嘘ではないものの、本当のところは若干ぼかした返答だったが、聡明そうな女性はすべてを理解したように施設を見つめていた。




~~~~~~~~~~




死体処理場の敷地内から出たシャルルは、そのまま家に帰ることなく首都キルケニーへ向かう。

目的はもちろん、処刑人協会に立ち寄って会長のマシューに報告をすることだ。


直接彼の口から受けた任務ではないが、暗に解決を期待されていたことなので、放置というのもよろしくない。


それに、愛用のギロチンがない状態で半強制的に受けさせられ、あれだけの強敵を始末したのだから、今度こそちゃんと休暇がもらえる可能性もあった。


たとえ休暇がなくても、流石に何かしらの特別な報奨くらいはあることだろう。

そんな様々な思惑があったので、処刑人は疲労困憊の中でも、さっさと嫌な面会を終わらせに来たのである。


「……はぁ、なんでここに来るといつもお前がいんだよ。

今何時だと思ってる? 大人しく寝てろよ性悪女」


馬車の御者台から降りたシャルルは、さも当たり前のような態度で目の前に立っていた少女――アビゲイル・ウィリアムズを見てため息をつく。


前回はち合った時も詮索されたので、あからさまに嫌そうな態度だ。しかし、彼女はそんな対応を気にすることもなく、動きやすそうながらも綺麗なドレスを揺らして笑いかける。


「時間を言うならあなたもでしょう? 人のことは言えないじゃない。私的には、別にいつも会うとも思っていないけれど……運命の赤い糸で結ばれているかしらね? うふふ」

「……キモいな、お前」

「失礼ね〜。それでそれで? 今日は何しに来たの?

ギロチンは直ったようだけれど、もしかして死体‥」

「うるせぇな。俺は今とてつもなく疲れてんだ。

テメェなんぞに構ってやる余裕はねぇ」


ふわふわとまとわりつくように付いてきながら、無邪気な笑顔を浮かべてい詮索してくるアビゲイルだったが、シャルルはテンション低くバッサリ切り捨てる。


相変わらず彼女は気にしている様子はなく、まとわりつくのもやめないが、問いただすことだけは素直にやめていた。

その代わり、どこか含みのある笑みを浮かべながらいかにも怪しい言葉を口にしていたが。


「あらら、それなら仕方ないわねっ! タイミング的にも、あなたにはちゃんと休んでもらわないといけないもの」

「……前回も今回も、いちいちうぜぇ匂わせをしてくんな。

今度は何を企んでんだ、腹黒クズ」

「ひっど〜い! あたしはあなたが心配なだけなのに。

でもいいの。あなたが元気であれば満足だから。

あたしだけは、いつでもあなたの味方よ?」

「お前が味方して良い結果になった試しはねぇけどな。

味方面して取り入ろうとしてくんじゃねぇよ、疫病神が。

お前は同僚を告発してぇのか、狂言師?」


ブレずに魅惑的な笑顔を浮かべ、心底あなたの身を案じているというような態度を取ってくるアビゲイルに、シャルルはより強く拒絶的な言葉を投げかける。


それでも動じない狂言師だったが、処刑人はもう一言も応じることなくその体を押しのけ、協会の建物に入っていった。




協会のドアを開いたシャルルは、前回同様に丁寧な挨拶をしてからチャーチチェアが立ち並ぶ聖堂を横断する。

相変わらず、そこにマシュー・ホプキンスの姿はない。


協会内に響くのは、延々とピアノを弾き続けるモーツァルトが奏でるクープランの墓-フォルラーヌ。


ノスタルジックで、どこか不安になるような音色は、たった今動く死体などの化け物達と戦ってきたシャルルの心情を形にするかのようだ。


シャルルはツカツカと彼の元まで歩み寄ると、目元より下が隠れた状態でもわかる不機嫌そうな顔で口を開く。


「モーツァルトさん、なんでこんな深夜にそんな曲弾いてんですか。そのせいで寝れねぇんなら馬鹿ですね」

「ふふ、私は基本的に眠らない。君も知っているだろう?

食事や睡眠に時間を消費するなど無駄の極みだ。

私は音色を奏で続けるだけで満足なのだよ」

「聞きたくねーって話なんだけどな。まぁいい。

どうせ会長もすぐに……」


ピアノを弾く手を止めないモーツァルトと、軽く会話をしてからシャルルは顔を執務室の方へ向ける。

すると、そこにいたのはいつも通りキチッとした正装をしている男性――マシュー・ホプキンスだ。


コツコツと杖を突きながらやって来る彼を見たシャルルは、演奏者を気にすることなく離れ、聖堂の真ん中辺りで上司と向き合った。


「こんばんは、ムッシュ。動く死体、蠢く軟体動物らしきもの、またはツギハギの怪物。そのすべてを排除して来ましたことを、ご報告させていただきます」

「うむ。既にジョン・ドウより報告されている。異変や秩序が乱れる予兆を治め、無事処刑を回避したな。何よりだ」


恭しく頭を下げて報告をする処刑人に、会長は尊大な態度で言葉を投げかける。どうやら情報屋から聞いていたらしく、その厳つい顔に驚きはない。


「ありがとうございます」

「ふ……報奨だろう? 心配するな、献身を無下にはしない。

貴様には五ヶ月の報酬と、二ヶ月の休暇をくれてやる。

ただし、何か問題が起こればすぐに対処せよ」

「了解いたしました」


マシューの態度は尊大で、放置したら本当に処刑対象にするつもりだったようだが、だからといって敵視していたりする訳ではないようだ。


彼はシャルルが考えていた内容を超え、報酬と休暇の両方を与えていた。問題が起これば消えるものの、二ヶ月の休暇はかなりのものである。


それをありがたく受け入れたシャルルは、すぐさま話を切り上げて心身の疲労を休めるべく帰宅し始めた。




~~~~~~~~~~




2人の罪人を処刑して、さっさと報告も済ませたシャルルは、最も安全な場所である自宅に辿り着くと、軽くフラフラとしながらドアを開く。


外から見た通り部屋は暗く、人がいるとは思えない。

だが、果たしてその場には……


「お帰り、シャルルお兄さん」

「お兄さんって呼ぶんじゃねぇよ、雷閃」


寝ずに待っていたらしく、家を出た時と同じようにテーブルに着いている雷閃が、ほんわかと出迎えてくれていた。



一章 屍臭乱舞-完

一区切りついたので、一週間ほど休載します。

その後は多分週一投稿になると思いますが、詳しいことは次回。


シリーズ恒例のキャラ紹介をこの一週間のどこかで投稿するので、そちらで軽く説明させていただきます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シャルルの心の疲弊。 その心情が丁寧に描かれていて、なんとなく心がぽっかり空いたような気持ちになった後の、おかえりがとても心温まりました。 素敵な一章の完結。二章も楽しみにしております
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