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虚の天秤  作者: 榛原朔
六章 虚数備録

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13-神を殺す死

天を覆う肉の巨木が少しずつ枝を伸ばし、暴走する狂気のまま殺し合う人々が、少なからず飲み込まれている中。


シャルル達5人は、再びペオルの本体がいる樹の頂上付近にやってきていた。当然、神秘は神秘でなくては殺せない。


しかし、単に死ぬことがないというだけで、まったくのノーダメージで傷一つ付かないという訳ではなく。


また、ジャックが手に入れていたルーン石やギロチンに乗り移ったフランソワ、醜悪な魔女会として得た機能などは隙を見つけさえすれば殺すことが可能になる力だ。


そのため、醜悪な魔女会のように人工的な紛い物ではなく、正真正銘の神としてこの場に立つペオルも、流石に無視はできずに彼らを見下す。


「おやおやおやぁ、また来たのですねぇ。

面倒ですが、いいですよぉ。あなた方の殺し合いは、とても面白かった! もっとグロくエグい方が好みではありましたが……えぇ、えぇ。同士討ちとは、とても滑稽で愉快極まりない見世物でした。その醜悪さを評価して、私も手を貸すとしましょう。もっと苦しむ顔を見せてください!!」

「テンメェッ!!」


醜悪な肉の巨木に変化はなく、上空でも相変わらず蠢いて足場が不安定だ。その頂上に埋まっている紳士も、やはり小綺麗な見た目に反して嫌悪感しかない言動をしていた。


骨がないかのようにぐわんぐわんと揺れ動く体、誰もがドン引きするような恍惚とした表情、これまでに起こった悲劇を楽しんでいるという趣味の悪さ、そしてそれを当事者に対して言い放つ煽り方。


醜悪を体現した彼は、ただそこにいるだけで嫌悪感を覚える神秘である。だが、あれはそれが許されてしまう程の、仮に反感を持っても口に出せないだけの強さを持っていた。


それこそ、キッドやエリザベート、ルイ、ジャックすらも、表情を歪めるだけですぐには動けない程に。


しかし、ただ1人。直前に誰よりも大切な幼馴染みを殺してきたシャルルだけは、その圧迫感に負けることなく飛び出していく。


「ちょ、ノイ……シャルル!?」

「わはー! 怖いもの知らずかよ、我が弟子は」

「しょ、正気じゃねー……」


少し遅れて気が付いた仲間達は、みんなその行為にドン引きだ。兄も、師匠も、同盟相手も、たった1人の少女を除いて固まり、何も出来ずに駆け上るシャルルを見上げている。


そう、たった1人の少女を除いて。

唯一彼の動きに反応したのは、自称姉という元からなかなかに頭がおかしかったエリザベートのみだった。


「おーっほっほっほ!! 流石はわたくしの妹ですわーっ!!

わたくしは製造番号7。このエンジェルナンバーが意味するのは、霊的な成長をしています! 無よりおいでませ、我が眷属たるアイアン・メイデンとぬいぐるみ達!!

足場はわたくしが作りますわ〜っ!!」

「助かるぜ、自称姉!! 俺は妹じゃねぇけど、なッ!!」


敵の意思によって制限される足場を離れ、仲間が作ってくれる足場に移ったシャルルは、さらに加速する。


カンカンッ、ボフボフっと飛び移り続けて登り、遂にはニタニタと笑うひたすら不快な怪人の前に。

ガチャガチャっと元のギロチンに戻ったフランソワを構え、一撃で吹き飛ばすように思いっきり振り抜いた。


「キッヒヒヒ……おぉ〜、怖い怖い。私の柔らかい肉など、簡単にグチャッと潰されてしまいそうですねぇ」

「潰れても次から次へと湧き出てくんだろうが、クソが!!」


巨大なギロチンは大量の肉塊を吹き飛ばすが、彼を守る壁のすべてを抉り潰すことはできない。

奥から湧き出る肉塊に押され、本体に届くことなく滑って外側に弾かれてしまっていた。


やや無防備な態勢で浮かんでいる彼に、ペオルはやはり不快なニヤニヤした笑みで話しかけている。


「あなた、口が悪いですねぇ。しかし、その内に隠した感情は、私には丸見えなんですよぉ。気持ち悪いですかぁ?

怖いですかぁ? その感情、醜悪に歪めて差し上げましょうかぁ? 強がりなんて、私には……」

「へー、それは誰のどういう感情かな?」

「……おや。あなた、人格が複数あるのですねぇ。

隠していたと思ったものも、あなた? うぅ〜む、いまいちよくわからないかもしれません。キヒヒヒッ」

「笑ってられるのも、今のうちだよ!」

「背後の足場を使うといいですわ〜っ!!」


心でも体でも、より醜悪に歪めてしまう魔人ペオル。

だが、捉えたと思ったものが変わってしまうと、流石に能力の対象外になってしまうようだ。


混乱している様子の彼は諦めて笑い、交代したシャルロットはすかさず置かれたアイアン・メイデンを蹴って急接近していく。


もちろん肉塊は湧き出てくるが……一連のやり取りをしている間に、他の仲間たちも気を取り直していた。


空飛ぶぬいぐるみに乗っかったキッドの狙撃、瞬く間に接近してみせていたジャックのナイフ、同じく割り込んだルイの妙な引力。


様々な援護によって道は少しずつ開かれ、シャルロットは雷を帯びた刀を鋭く振り抜いた。


「捉え、た……!?」

「おやおやおやおや、あなたは肉塊と人間の区別がおできにならないと。そこにあるのはただの肉塊ですがぁ?

私、既に脱出して身代わりを立てております」

「ウザったいなぁ……」


シャルロットの刀は、今度こそ肉塊の壁に阻まれることなくペオルがいた辺りを斬り飛ばす。しかし、実際に斬ることが出来たのは、怪人と同じ大きさの肉人形だった。


湧き出る肉塊によって視界が遮られている間に入れ替わっていたようで、彼はいつの間にか少し下でひょっこりと不快な顔を見せている。


肉に下半身を埋めているという時点で、ある程度想定できていたことではあるが……

これはつまり、醜悪な肉塊があり続ける限りペオル本体には攻撃することが出来ない、ということだ。


おまけに、この肉塊は天を衝くほどの巨木であり、無限かと思える程に湧き出る以前に人がどうこうできる代物でもないだろう。


たとえ本体だけでも、物体でも精神でも醜悪に歪ませることができる能力に、醜悪に増え続ける肉塊、そもそも相対するだけで心をかき乱されるなど、厄介極まりない。


その上、この巨大過ぎる肉塊の大樹に引きこもっているのだ。あまりにもどうしょうもなく、状況はこれ以上ない程に絶望的だった。


低めの声で毒づいたシャルロットも、流石にこの場でできることなどないと悟り、後退している。


「シャルロットちゃん、あなたこれどうしますの!?」

「そうだよシャルロットー。今のとこまるで通用してない。

僕的には、たくさん肉を切れて楽しいけど……あはは!」


先頭に立っていたシャルロットが引いたことで、仲間たちも足止めをしているルイとキッドを除いて隣に来る。

肉塊の触手を操るペオルは、やたらとルイに引き寄せられて狙撃の的になっていた。


その様子から目を離さないまま、彼女は小型化して首飾りになっていたギロチン――フランソワに問う。


「うーん……相棒さんはどう思う?」

『おや、君も僕を相棒と言ってくれるのかい?』

「まぁ、シャルルも僕だし。人格別に見るとしても、君は弟のお友達。必要なら頼らない手はないよね」

『オッケー了解。生まれた順ならともかく、精神面では兄姉逆になると思うけど……とりあえず、作戦立案任された』


快く受け入れたフランソワは、再びガチャガチャと駆動すると生前と似た人型になって側に立つ。

あのフランソワが作り、変形しているのだから、それはもちろんただのロボットのようなものではない。


おそらく、すべて人工的なものではあるのだろうが……

肌は人と同じような色と形で、触っても柔らかそう。

ポニーテールになっている髪も、一本一本が魅惑的に揺れていた。


「……!? 君、人の姿にもなれるんだね……?」

『当たり前じゃん。ギロチンから首飾りになるのに、人型になれないなんてことがある? それも、僕が作ったのに』

「あはは、すっごーい……」

『ともかく、作戦だ。君があれを殺すためには、僕か雷閃君の刀のどちらかを当てるしかない。問題は、敵の防御力。

それを突破できるだけの、味方の火力』

「うん。僕もみんなも、そんな力はない。どうしよ?」

『いや、あるにはあるよ。ルイはマリーと同じで、生前には戦う力なんで持ってなかった。彼女の名前がギロチンと結び付き、近くて扱いやすい鎌になったように。彼にも、多くの残虐行為を受けてすべてを奪われたという面で強化がある。

彼は攻撃を引き寄せて、溜めたそれを放出することができるはずだよ。限界まで溜めた力は、きっと大樹を砕く』

「っ……!! そう、なんだ……お兄ちゃんに」

『それから、君も。君はこのセイラムを体現する者だ。

ペオルを殺すことで、完全に死と成る。今はまだ、その座を競い合っている状態ではあるけれど……

その刀の補助も受ければ、斬り倒せるよ』

「え、本当に!?」

『うん。力を溜めるんだ、シャルロット。

君は死だ。大自然そのものに至る概念だ。

であれば、その雷は君のもの。死を呼ぶ災害を作るんだ。

その時間稼ぎは、ここに集った生き残りがするから』


國を揺るがす技師――フランソワ・プレラーティは、とある兄妹の力を解き明かす。その言葉を聞いたシャルロットは刀を構え、ジャックとエリザベートは時間を稼ぐために飛び出していく。


「僕は死、大自然そのものである概念。雷閃ちゃん……君の力を借りて、この醜悪を討ち滅ぼす災害を……!!」

「任せておきなさい、シャルちゃん!! この偉大なる吸血姫であるわたくしが、あなたの邪魔をさせませんわーっ!!」

「ま、どうせ僕は処刑される身だからねぇ。

せいぜい最後まで楽しませてもらうさ」

「む……!? おやおや、この力……

能力が効かず、神秘である私すら殺せるエネルギーを持つとは、やはりあなたは天敵なんですかぁ?」


納刀した刀の鞘口からは、近くの肉塊を焼く程の雷が迸る。

その脅威に気付いたペオルは触手を差し向けるが、すかさず時間稼ぎに入ったジャック達が潰していた。


この國の命運を決める戦いは、死や罪と向き合い続けた少年少女の戦いは、今ようやく決着がつく。

肉塊の大樹を操る怪人vs雷を纏う処刑人、その最終局面だ。


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