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虚の天秤  作者: 榛原朔
五章 月光死域
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7-混乱の調査

セイラムの混乱、マリーの死、デオンの暴走。

たった1日の間にそれだけのことが起き、傍目には平静そうなシャルル達の精神も限界だ。


辛うじて情報屋に依頼した後は、気持ちを落ち着かせるためにただ報告を待つ。キッドは普段いる場所ではないが……

それでも、この状況と心情を唯一共有できるだろう彼らと共に、静かにソファに腰を落ち着けていた。


「……」


普段は軽薄でありながらも、リーダーの精神が壊れたこととその原因になったことへの怒りは強い。

シャルルが静かに怒りを燃やしているのと同じように、彼も苛立ちを瞳に映していた。


とはいえ、今できることがないのも事実だ。

シャルルが依頼したジョン・ドゥ、キッドが組織の実質的な新リーダーとして命令したピーピング・トム。


感情を反映した薄暗い部屋の中で、彼らの報告を待ちながら紅茶やオレンジジュースを飲み、燃え滾る熱を冷やしている。


待つこと、数十分、数時間、数日。

セイラム全体が殺戮の死界となっているため、活動は危険度と同様に難易度も上がっていた。


しかし、彼らはこの國で最高の情報屋と組織で情報を任されていた者なのだから。きっちりと仕事をこなした情報屋達は、数日後に情報を持って彼らの前に現れる。


「はぁ、まったく……とんでもなく大変な仕事だったよ。

もう処刑人じゃないんだから、気にしなきゃいいのに」

「ま、まぁ、放置してて巻き込まれるのも、やだしね?」


なぜか揃って現れたジョン・ドゥとトムは、セリフの割には元気そうな雰囲気だった。片や、ヘラヘラと肩を竦めながらこれ見よがしにため息を付き、片や、ビクビクしながらも達成感で満たされたような喜びを浮かべている。


ちなみに、今回のジョン・ドゥは小さな幼女だ。

小馬鹿にしたような態度の彼女に、シャルルは苛立ちを隠しもせずに文句を言う。


「処刑人じゃなかったとしても、この國に生きてんだから無関係でいられるかよ。つうか、元でも狙われんだろ。

あと、てめぇなんでガキで来やがった。女だし」

「え? 同性の方が落ち着くでしょ〜?」

「俺の人格は男だし、てめぇも本当に女かわかったもんじゃねぇだろうが。前にガキはやめろとも言ったぞ」

「じゃあ、隣りにいるガキはなに?」

「これはこの國最後の良心だ」

「物あつかい? シャルルお兄さん、ひどいな」

「お前も面倒な返事をやめろ」


目の前に生意気な幼女、隣に柔らかく微笑む和服の少年。

子ども2人から……少なくとも見た目は子どもの2人から口々にからかわれ、彼の表情からは険しさが少し抜けていた。


最初からリラックスさせることが目的だったのか、それを確認したジョン・ドゥはようやく本題に入る。


「さて、じゃあ早速報告に入ろっか」

「早速?」

「今回依頼されたのは、4人の殺人鬼とセイラムを揺るがす混乱に人々を叩き落とした原因の詳細についての調査。

ということで、わたし達は彼らの名前と見た目、戦闘能力、よく出没する地域なんかを調べてきたよ」


ソファに座ったジョン・ドゥ達は、机の上にセイラムの地図を広げながら報告を始める。名前や戦闘能力などの情報は、いつも通り既に書類で纏められているようだ。


今回は助手のような立ち位置にいるトムが、次々に紙の束を出して地図の上に邪魔にならないように並べていく。

キッドが点けた明かりの下で、シャルル・アンリ・サンソンが殺すべき人間のあらゆる情報が並べられていた。


「まず、君が恨んでる4人の殺人鬼からだね。

1人目――顔のない女、ハイルブロンの怪人。

本名……は別にどうでもいいか。年齢15歳。

ナイフを使用し、とても素早い身のこなしで殺す少女だよ。

少し前まで普通の子だったはずなんだけど……今では獣並みの身体能力を持ってるね。特徴的なのはギザ歯。服装も身軽でスポーティーなもので、まさに野獣のような子だ。

2人目――ニューオーリンズの斧男。41歳。

巨大な斧で家でも人でも軽々真っ二つにする巨漢。

彼も例によって、少し前まではここまでの巨漢じゃなかったのに、協会が滅びた後から急激に変化しているね。

もはや元の人間なんて関係ない。ただの怪人だよ。

特徴的なのはもちろん巨体と斧。3メートルはあるんじゃないかな? そこのところ、どうだった?」

「せ、正確な身長は多分314.8。斧は少し歪んでて199.42。

見た目からも分かる通り、ど、どっちも質量の塊だよ。

1人目の……なんとかの怪人はかなりスタイル良くて164.5。

ナイフに拘りはないみたいだけど、だいたい小振りなもの。

ま、まぁ20センチくらいを想定したらいいと思う。

スリーサイズは‥」

「待て待て待て!! なんだその詳細過ぎる視覚情報は!?

直接測ったのか? んな訳ねぇな、気持ち悪!!」


流れるように情報を伝えるジョンだったが、トムに交代してからはより気持ち悪い方向で詳細さが増す。

最初から少し引いた様子だったシャルルは、流石に耐え切れなくなって声を荒げて話を遮ってしまっていた。


だが、他の面々からしても、ピーピング・トムの気持ち悪さは共通して感じているもののようだ。

同じル・スクレ・デュ・ロワの幹部で、今までも活用しており馴染みのあるはずのキッドすら、ドン引きしている。


ミリ単位で身体情報が提示されたのだから、無理もない。

その刺すような視線にビビりながらも、彼は素直にシャルルの疑問に答えていく。


「……え、えっと、もちろん直接測ってなんてないよ。

目測だけど、ストーキングして見れば大体わかるから」

「イカれてんな。視覚情報だけってのは知ってたけど、特化してる分マジで洒落に……」


予想が肯定されたことで、彼らはさらにドン引きしている。

目測で大体わかるのも大概おかしいが、それがストーキングの結果だというのだからより気持ち悪い。


しかし、あくまでもその技能に対して引いた発言をしていたシャルルは、途中で不自然に言葉を切って体を抱いていた。

これまた不思議に思い、彼らが一斉に視線を向けると……


「っ……!!」

「え、何? きゅ、急にどうかした……?」


明らかに人格が入れ替わり、シャルロットになって嫌悪感を露わにしている少女の姿があった。


この場にいる女性は彼女と一応ジョン・ドゥ。

ジョン・ドゥは何食わぬ顔をしているが、彼女は会う度に姿が変わっているので、つまりはそういうことである。


最初はどうしたのかと首を傾げていた男性陣も、トムを除いた2人は遅れながらも気がついたようだ。


「さっき、スリーサイズって言った」

「え……? う、うん。女性だと、割とそっちも運動能力に関係してると思って、ひ、必要かなと」

「まさか、僕のも測ってないよね!?」

「……モチロン」


直接問いただされたことで、ようやくトムも何を責められているか気がついたらしい。あからさまに目を逸らしながら、かなりの棒読みで否定の言葉を口にする。


測ったことを否定しているのか、測っていないことを否定しているのか、それは彼のみが知ることだ。

……どう見ても、明らかではあるが。


それを察してしまったシャルロットも、すぐに顔を赤くしてトムに詰め寄っていく。


「何その棒読み!?」

「今すぐ、その目を、閉じてっ!!

何なら、潰して、あげるから、一生、物を、見るなっ!!」

「そ、そんな……僕の唯一の生き甲斐を奪うなんて……」

「人に不快感を与える生き甲斐なら、そんなもの奪われて当然でしょう!? 守られるべきは女性の尊厳!!

あなたに拒否権なんてないから!!」

「で、でも、役に立ったしこれからも役に立つのに……」

「ジョン・ドゥで足りてます!!」

「ひぎゃあーっ……!!」


トムはすぐさま目を閉じるが、それで収まる怒りではない。

雷閃やキッドが控えめに止めたことで、流石に目を潰すほどのことはしなかったが……さんざん責められ、最終的に彼はしばかれて悲鳴を上げていた。


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