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やがて始まるリベリオン  作者: 塚上
第一章 悪役として
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第六話

 トーク山脈。ストーリーの本筋では立ち寄ることが無い、岩肌が目立つ物静かな場所へ二人は訪れていた。 

 道中での戦闘は一度も無かった。バジリスクの棲家とされているため、他の魔物が寄り付かなかったのではと作中では考察されていた。


「魔物の姿が何処にも無い。やはり本能から竜種を避けているようですね」


「雑魚は鬱陶しからな。ちょうどいい」


 初めての戦闘で高揚感もあったが同時に恐れもあった。バジリスク前に軽く戦闘を行う試みは頓挫する形となった。


(数体はいると思ったけど0ですか。ここまで来て帰るわけにもいかないよな)


 良くも悪くも全てが原作通りではないと考えていた浩人だが、山脈の地形や魔物の有無、バジリスクの棲家とされる場所まで概ねゲームと変わらなかった。ゲーム画面と現実世界での違いは多々あるが、それを考察する余裕は無い。


「そしてあの洞穴が」


「奴の気配がするだろう。さっさと取り掛かるぞ」


 ジークの足取りを近くで見ていたブリンク。迷いは無く目標最短ルートでここまで到達した。何故ここまで詳細に把握しているのか疑問に思うが、それは全てが解決した後でいい。


「手筈通りいく。準備しろ」


 洞穴入り口に球状の物体を複数配置する。

 これは『麻痺煙玉』と呼ばれるもので、文字通り麻痺効果をもたらす煙を発生させる。屋外では風で流されるため効果は薄いが、洞穴のように密閉された空間では猛威を振るう。

 麻痺で行動に制限を掛け戦闘を有利に進める。真正面からわざわざ戦う必要はない。


「予定通り煙が充満してますね。これなら毒竜にも届くでしょう」


「……届きはしたようだな。――来るぞ!」


「グギャャャァーーーーーーー」


 大気が震えるほどの轟音が辺りに響き渡る。

 毒々しい見た目の怒りで眼を血張らせた竜種が現れた。


「バジリスク……」


 体高は大したことはないが、体長は4メートルに及ぶ。四足型の竜種で鋭い鉤爪や牙を持ち頑丈な鱗で覆われている。見た目の割に俊敏で、突進を受ければ大ダメージになる。

 バジリスクが標的を捉え、二人に近付くが


「ドオォォーン!」

 

 爆発音が何重にも響き渡り、地面が大きく揺れる。二人が仕掛けたもう一つの罠が作動した証だった。


「よし! ちゃんと命中した!」


『アンダーボム』。設置型の小型爆弾で、一定の負荷が掛かると自動で爆発する補助アイテムの一つである。威力は高くないが、複数同時に起爆することでダメージが増加する。

 ゲームではシステム上扱いづらいが、現実世界では有効な戦法になる。


「安物だが雑魚にはちょうどいいみたいだな」


 爆発の影響で自慢の鉤爪や鱗が所々ひび割れている。大ダメージとはいかないが、先手を取った形になった。


「貴様は手を出すなよ。周囲の警戒をしておけ」


「分かりました。しかし緊急時は参戦しますからね!」


 実戦経験はブリンクの方が明らかに多い。しかし対バジリスクにおいては、ジークの方が多様な情報を持っている。慣れない共闘をしてジークの強みが損なわれるくらいなら、信じて待つと決めていた。


「随分無様な姿だな。竜を騙るトカゲか?」


 ジークが剣を構えバジリスクを見据える。

 それが挑発に感じられたのか、怒りの咆哮を上げながら突進してくる。

 ジーク(浩人)初めての戦闘が開始された。  




✳︎✳︎✳︎✳︎ 




 前足による連続の薙ぎ払い、尻尾を使った叩きつけ、重心を下げた突進。どれも強力な攻撃だがジークは最低限の動作で躱す。攻撃パターンはゲームと概ね同じなため読みやすい。

『麻痺煙玉』の効果もあり本来のスピードが出てないことから回避に余裕が生まれ、『アンダーボム』による鱗の傷口へ的確な攻撃を与える。


「随分辛そうだな、寝起きには応えるか?」


 敢えて正々堂々戦う必要はない。ゲームのようにリトライ出来ないのなら手段は選ばない。勝ちさえすればそれでいいのだから。


 バジリスクが頭を下げ尻尾を上げる。次の瞬間口から紫色のガスを吹き出した。固有の猛毒ブレスである。


「遅いんだよ。鈍足トカゲ」


 本来であれば溜め無しのブレスがくるが、麻痺の影響でワンクッション生まれる。どんな強力な攻撃でも当たらなければ意味がない。避け、いなし、反撃する。パターンを組み上げ確実に追い詰めていく。


(彼の異常性は理解していたつもりだったが。仮にも竜種相手にここまで戦えるのか)


 一度も攻撃を受けることなく一方的な戦闘になっていた。バジリスクも理解しているのか怒りにより攻撃が雑になる。


「そろそろか」


 攻撃の手を緩めなかったバジリスクが急に動きを止める。


「キシャャャャァーーー!」


 大きな叫び声を上げた後、バジリスクの体が毒ガスに包まれる。全身を鎧の様に覆い周囲には毒ガスが漂う。


「何ですかこれは⁉︎」


「貴様は黙って役目を果たせ。絶対に近付くな、風下にも立つなよ」


 お互い接近での戦闘を続けていたが、毒ガスの影響でジーク(浩人)は距離を取るしかない。しかしバジリスクの場合は決定打が無くとも、少しでも毒を与えれば勝機に繋がる。追い込まれたことで生存本能が刺激され、動きが俊敏になる。


「遠距離手段が無い以上ここは一旦引くべきです! 魔法を使える援軍を!」


 叫びながらバジリスクが高く飛び上がる。巨体で5メートル近く跳ねジーク目掛けて突っ込んだ。


「――っ! ジーク様!」 


 衝撃音が辺りに響き渡る。毒ガスによりジークの状況が分からない。

 いくら戦闘技術に優れていても、十二歳の少年が二百キロ近くあるバジリスクの突進を受ければひとたまりもない。

 今すぐにでも駆けつけたい衝動を必死に抑える。安易に近付けば毒ガスによって自分がやられる。なによりジークにかけると決めた以上、信じて待つしかない。




✳︎✳︎✳︎✳︎




 辺りへ広がった砂埃や毒ガスが晴れていく。健在のバジリスク――そして氷壁に覆われたジークの姿が現れた。


「これは魔法……」


「バカが。いつ魔法が使えないと言った」


『アイスクルプロテクト』。氷でできた強固な壁が衝撃や毒ガスを完全にシャットアウトしている。

 突進の反動によりバジリスクは身動きが取れていない。呻き声が漏れ出す程のかなりの衝撃だったようだ。


「剣技だけではなく魔法まで」


「どうやらここまでのようだな」


 ジークが詠唱を始める。

 

 初めて魔法を使おうとした時は半信半疑ではあったが、失敗することなく普通に成功した。今思えば不思議と失敗するビジョンは浮かんでいなかった。

 

 作中のジークは多彩な氷魔法でプレイヤーを苦しめた。近付けば剣術で圧倒され、離れれば魔法の集中砲火が飛んでくる。何でそんなに詠唱が早いんだよと悪態ついていたことを今でも覚えている。

 

 ジークは剣と魔法両方を扱う魔剣士タイプだったことから、浩人も参考にするつもりで考えていた。しかし先ずは剣を習うことにして結果的にブリンクに出会った。   

 ある程度形になったら次は魔法と決めていたが、期せずして実戦の場に赴くことになる。ぶっつけ本番だがジークに憑依した自分なら問題無いと信じていた。ゲームであれ程強かった憎きボスキャラがそう簡単にやられるはずがないと。


「もう沈め。アイスジャベリン」


 氷で出来た鋭い槍がバジリスクを貫く。寸分の狂いなく一瞬にして心臓を捉えていた。あれだけ暴れていたバジリスクだったが地に伏したまま動かない。勝敗が決した瞬間だった。 

 



✳︎✳︎✳︎✳︎




 バジリスクの死亡後漂っていた毒ガスは消失した。完全に沈黙を確認した上で魔法を解く。


「ジーク様!ご無事ですか⁉︎」


「バカか貴様は。今まで何を見ていた?」


 周囲の警戒に当たっていたブリンクが合流する。多少の怪我は承知で回復薬を用意していたが、どうやら無駄骨になったらしい。

 改めてバジリスクを見てみるが体長がかなりある。多くの魔物と戦闘を重ねてきたブリンクであったが、やはり竜種は特別で死した後も凄みを感じる。


(致命傷は氷の槍か。この少年はどこまで規格外なんだ)


 驚きと同時に嬉しさのような感情が込み上げてきた。

 優秀な貴族の子息はそれなりにいる。だがそれは子供としてはというレベルであって、実戦でいきなり竜を倒すことではない。

 剣だけでも底が見えない少年に魔法が加わり更に未知数となった。益々ジークの将来が楽しみになり彼に巡り会えたことを光栄に思った。


「何をにやけている気色悪い。さっさと処理をして次に行くぞ」


 バジリスクの死体を魔法で冷凍するジーク。この後の予定はバジリスクを解体して必要な素材を確保する。


「冒険者協会でよろしいですね。あそこは魔物の取り扱いに慣れていますから」


 ゲームやアニメでよくある冒険者協会が『ウィッシュソウル』にも存在する。協会に所属していなくても魔物の持ち込みは可能で、手数料を払えば解体や買取を頼める。今回は必要部位を集めて後は売り捌く予定だ。


「なら馬車を持ってこい。もうここに用はない」


 浩人としては時間が無いから早く行こうと言っているつもりだったがオート翻訳が働く。この分では一生友人はできないなと落ち込むがそれは後回しにする。ブリンクの息子の症状は聞く限りでは最悪の状況だ。

 急いで解体を済ませた後は薬師を訪ねて特効薬の調合を頼む必要がある。一番ネックなバジリスクの素材は解決し残りは一般に流通している。

 時間との勝負はまだ続く。

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