第四十三話
空間を揺るがすような振動と大地に木霊する爆発音が響き渡る。二つの戦局は同時に終焉を迎えていた。
「ヴァン! アンタ大丈夫なのッ⁉︎」
ヴァンが超至近距離で放った高位の火属性魔法サンバースト。本来は燃え盛る爆炎を相手の頭上に落として爆発させる破壊の象徴とも言える魔法である。だが魔法が苦手なヴァンに上級魔法のコントロールが出来るはずもなく。
魔法発現のギリギリまで溜めてフェルアートの目の前でぶっ放したのだ。爆発と爆風の影響をもろに受けた二人はそれぞれ別の方向へ吹き飛んでいた。
「あ、ああ……何とか生きてるぜ」
仰向けで倒れているヴァン。フェルアートとの戦闘によるダメージも多くあり、先程の自爆と合わせ重症のヴァン。無事とは言えないが命の危機が迫っているわけでもない。安心したエリスは回復魔法でヴァンの治療を始める。
「フェルアートは、どうなった?」
「……アイツはあっちで黒焦げになってるわ。いい気味よ」
ヴァンと違い動きがないフェルアート。死んではいないようだがこれ以上の戦闘は不可能に近い。
王都襲撃を巡る彼らの戦いは決着を迎えていた。
「お二人ともご無事ですか?」
二人に近付く影。グランツ達が戦闘を終え合流する。あちらも激戦であったことは間違いないが、四人とも負傷している様子はない。
「な、何とか……勝ったぜ」
「何が、何とかですか⁉︎ 重症じゃありませんか!」
シエルの勢いに気圧されるヴァン。身体を動かし無事をアピールしようとするが、動かないでくださいと逆に叱られシュンとなるヴァン。
シエルが紡ぐ神聖術によってヴァンとエリスの傷は瞬時に回復する。火傷に打撲、骨折含め全て治療される。回復魔法や治癒魔法では再現の出来ない神の奇跡に二人は目を丸くしていた。
「これが神聖術か。凄えな……」
「銀の聖女。噂通り……いえそれ以上ね」
仰向けの状態から立ち上がり身体を確認するヴァン。身体中ボロボロだったが今は何の異常も感じない。狐につままれたような気持ちになる。
「私には……これくらいしか出来ませんから」
全員の傷を完璧に治療して見せたシエル。だが心なしか悲しんでいるように見える。
「これくらい? 何言ってるのよアンタは」
「――え?」
「私にヴァンの治療は応急処置程度しか出来ないわ。グランツさんだって限度があるはず。シエルがいたからこそ取れた戦法なのよ。アンタがいるって、アンタを信じてたからヴァンは思いっきりいけたのよ。……じゃなきゃ私も止めたわよ」
少し照れたようにシエルへ言葉を投げかけるエリス。ヴァンはサムズアップしていた。
「シエル。だから言ったでしょ? ここには貴方を否定する人なんていない。誰も後悔はしてないわ」
「セレン……みなさん、ありがとうございます」
涙を浮かべながら満面の笑みとなるシエルに優しく寄り添うセレン。
「なぁ……ところでこの空気は何なんだ?」
「……ヴァンはまだまだお子様。剣でも食べてなさい」
「食べねーよ!」
笑顔に包まれるヴァン達。出会ってまだ日は浅いが一つのパーティが出来上がっていた。
「さて、みなさん。状況の整理をしましょうか」
パーティの纏め役であり最年長のグランツが場を仕切る。それぞれの持ち得る情報を共有していく。
「なるほど……興味深いお話ですね。となると――パリアーチと名乗るあの存在は」
「えぇ、心臓を貫かれても生きてるくらいだから。また現れるでしょうね」
過去にパリアーチと戦闘しているセレンとシエルの情報から、再び邂逅することになると予想するグランツ。不死身という話を聞いてヴァンとエリスは驚愕していた。
「ならフェルアートも不死身なのか?」
「それはないでしょう。ですが――そろそろ」
倒れ伏すフェルアートに突然変化が現れる。パリアーチが使っていた術式に似た魔法式がフェルアートを包む。
「させないわ。逃げる気よ」
セレンが魔導銃から弾丸を撃ち出すがフェルアートに届くことはなく弾かれてしまう。断絶された空間の中からフェルアートが言葉を発する。
「やっ、てくれた、な。ヴァン」
全身火傷を負いながらもヴァンを睨むフェルアート。その目には明確な殺意の色が浮かんでいる。
「覚えたぜ……この痛み。ヴァンにエリス。次は必ず」
――殺す。
その一言と共にフェルアートの姿は消失した。残されたのはヴァン達だけであった。
「時間差で発動する転移術式。対象の生死を問わず――といったところでしょうか?」
「分かっていたなら何で見逃したの?」
「それよりも重要なことがありますからね。色々話し合うべきことはありますが……今は先を急ぎましょう」
グランツの一言によりヴァン達の目の色が変わる。目的は戦闘ではなくマスフェルトを救うことである。
「シエル……まだ神聖術はいけるか?」
「任せてください。その為の神聖術です」
力強く頷くシエル。
ヴァン達は馬車に乗り込みマスフェルトの家を目指して進む。
✳︎✳︎✳︎✳︎
「ヴァンさん! 止まってください!」
「⁉︎ おお! どうしたんだよシエル?」
シエルの指示により急停車する馬車。馬車を降りたシエルは暗がりの中駆け出し声を上げる。
「道端に負傷した方達が! まだ息があります!」
神聖術で治療を始めるシエル。荒い呼吸をしていた負傷者達は段々と落ち着きやがて安定する。
「⁉︎ ……トレートおじさん」
「何だって⁉︎」
アトリの発言に反応したヴァンは駆け出す。街道に倒れた人物達、壊れた馬車、商材。ヴァンとアトリにとっては馴染みの深い、家族と言ってもいい存在――フリーク商会の面々との再会であった。
「い、てて……お前はヴァンか? それにアトリまで」
「いてて……じゃねーよ⁉︎ 大丈夫かよおじさん!」
ヴァンがおじさんと呼ぶ中年の男性。フリーク商会の古株でありヴァンとは幼い頃から親交がある。商会に拾われたアトリとも距離感が近く、二人にとっては頼りになる大人といった人物である。
「みんな無事でよかった。でも何があったんだよ?」
「……分からん。馬車で移動してたらいきなり襲われたんだ」
フリーク商会とも関係が深い剣聖マスフェルト。その彼の看病を定期的に担っていたフリーク商会の面々。トレート達はマスフェルトの自宅を目指していた時に突然襲われたという。
「フードを被った奴だったな。暗がりで顔までは見えなかったが……」
「物取りなのか? ふざけやがって」
「……みんな無事だった。それだけでもいい」
一安心する一同。――ただ一人、グランツだけは静かに馬車を見つめていた。何か違和感を感じているかのように。
「ヴァン。その盗賊は後で懲らしめるとして、私達は急いでいるはずだけど?」
「そうだった! おじさん、実はな……」
これまでの経緯を端的に説明するヴァン。時折他のメンバーが補足しながら情報を伝える。理解を示したトレートは先に行けとヴァン達の背中を押す。
「俺達は大丈夫だ。銀の聖女様に治してもらったからな。――早く行けヴァン。絶対剣聖様を助けろよ」
「ああ! 任せとけ。絶対お礼するから!」
ヴァン達の馬車は勢いよく進んでゆく。マスフェルトを救うという願いを叶える為に。
「本当に皮肉だな。……ヴァン、お前は、お前なら変えられるのか? この世界を」
✳︎✳︎✳︎✳︎
激しい戦闘を続けるジークとエルゼン。その間に割って入る小さな影があった。
「何かおかしいと思ったら……そういうことね」
「……何をしている? 足止めはどうした」
子供のような見た目をした人ならざるもの。この世の理から外れた存在。パリアーチはやれやれと首を振りながらエルゼンの隣に降り立つ。
「最低限の務めは果たしたと思うけど? そっちは……そっちも最低限はって感じだね」
ジークの背後で倒れ伏すマスフェルト。まだ息はあるようだが風前の灯火。結果はともかく、過程は計画通りであることを確認したパリアーチ。となればこの場に長居する理由はない。
「剣聖はもう助からない。時間の問題さ。引くよ」
「その剣聖よりも厄介な存在が目の前にいる。お前はこいつを放置して大願成就すると思うのか?」
視線をジークに向けたまま会話をする両者。ジークは様子を窺っているのか動きはない。
「ならこのまま戦い続けるのかい? 僕の力だって限度がある。正直言って――あいつは普通じゃない」
普段飄々としているパリアーチが見せる真剣な態度。目の前の存在を、普段見下している人間に対して本気の警戒感を露わにしている。
「――作戦を組み直す。やれ」
「賢明な判断だ」
エルゼンとパリアーチを覆う未知の術式。過去にジークも目にしたことのある転移系の魔法で二人は空間を飛ぼうとしていた。
「ジーク・ラギアス。お前とはまた会うことになるだろう」
「ふん、俺にその気はない。二度とツラを見せるなよ」
「――本当に興味深い餓鬼だ」
一瞬笑みを浮かべたエルゼンは消失した。
✳︎✳︎✳︎✳︎
エルゼン達の気配が完全に消えたことを確認したジークは振り返り歩き出す。背後に倒れ伏すマスフェルトに向かって。
「…………」
「勘違いするなよ。貴様がどうなろうが興味はない」
エルゼンの特殊な剣によって断ち斬られた喉と片腕には未だに得体の知れない黒い闇が蠢いている。エルゼンの致命傷を治していた黒い魔法式と酷似しているように見える。
「最後に何か言い残すことはあるか? この俺が特別に聞いてやる……まぁ碌に会話出来んだろうが」
言葉がマスフェルトに届いたのかは分からない。だが、マスフェルトは何かを託すように、力を振り絞りながら残った片腕をジークに突き出す。その手には鞘に納められた刀剣が握られていた。
「貴様の孫にでも渡せということか?」
小さく首を振るマスフェルト。この刀剣はお主に託す。言葉が話せないはずのマスフェルトから何故かそう言われた気がした。
「ふん、俺は武器に拘りはしない。気が向いたら使ってやる」
受け取った刀剣をベルトへ掛けるジーク。片手には血塗られた剣が握られていた。
激闘に次ぐ激闘を終え小さく息を吐くジーク。エルゼンという、剣聖に匹敵する実力者との戦闘は一瞬たりとも油断することがなかった。――だからだろうか。
気の緩みによりこちらに近付いてくる存在を認識することが出来なかった。この時、少しでも周囲を気にかけ、適切な行動が取れていれば結果は変わっていたのかもしれない。
「爺ちゃん!」
鬼気迫るヴァンの声がジークの耳に入る。気配を確認すればヴァンの他にもメインキャラ達の存在があった。
主人公達とジーク。この構図は浩人の頭に根強く色付いた物であった。敵対する者同士が命を懸けて戦う関係性。自然とジークの身体は彼らから距離を離すように飛び退いていた。
✳︎✳︎✳︎✳︎
「爺ちゃん! 何なんだよこれは⁉︎」
瀕死のマスフェルトを見て取り乱すヴァン。他の者達も合流し顔を青くしていた。
「シエル! 爺ちゃんを早く!」
「――リターン・オブ・セイント!」
銀の輝きが光の粒子となりマスフェルトに降り注ぐ。常闇を銀の光で上書きする神の奇跡。冥界へ進もうとする魂を現世へと呼び戻す最高クラスの神聖術でマスフェルトを治療するシエル。
銀の聖女と呼ばれるシエルの経験上、自身の神聖術で治療出来なかった者は一人たりとも存在しなかった。今回もきっと助かる。――そう信じて魔力を込め続ける。
「爺ちゃん! 誰にやられたんだ⁉︎ 誰がこんなことを……」
薄く目を開くマスフェルト。その目からは色が段々と失われてゆく。ヴァンが声を掛け続けるが反応はほとんどない。――神聖術が効果を発揮している様子はなかった。
「どうして……どうして私の力が……神聖術が通らないの?」
「シエル! お前は神聖術師なんだろ⁉︎ みんなを救う銀の聖女じゃないのかよ⁉︎ 早く爺ちゃんを助けてくれ! じゃないと……じゃないと」
取り乱すヴァンを押さえるアトリ。そのアトリの目には大粒の涙が溜まっていた。ヴァンだけではない。アトリもまたマスフェルトと共に過ごした思い出があったのだ。
マスフェルトの喉と腕を覆う黒い影。蠢く闇の塊は少しずつ小さくなってゆく。マスフェルトの命と同期するかのように。
「やめておけ。そいつに神聖術は効かん。時間と魔力の無駄だ」
ヴァンの想いとシエルの頑張りが功を奏すことはなかった。マスフェルトからは完全に生命の息吹が消失していた。呼吸は無くなり魔力の循環は止まる。黒い靄は風に掻き消されるかのように消えてしまう。
「マスフェルトさんから――生命を感じられません」
「そんな……じい、ちゃん……。どうして、なんで、こんな、ことに」
堪えるように静かに泣いていたヴァンは感情を抑えることが出来なくなり、次第に大きな声で泣き叫ぶ。アトリもつられるように涙を流していた。グランツは静かに目を閉じ、セレンはシエルに寄り添っている。エリスはジークをただ見ていた。
「……ジーク、教えて頂戴。どうしてシエルの神聖術が効果が無いと分かったの?」
「それを貴様が知る必要はない」
セレンの問いかけに対しジークはまともに答える気がないのか無碍に扱う。
「……質問を変えるわ。貴方の持つ剣、その剣に血が付着している理由は? この周囲一体が激しく損壊しているのはどうして?」
「剣に血が付着する理由だと? この惨状を見て貴様は何も理解出来ないのか?」
「真面目に答えて! 今の状況なら騎士団がどう判断するか分からない貴方じゃないでしょ! ラギアスである貴方がどのような扱いをされるのか……」
クククッと笑みを溢すジーク。何がおかしいのか、空に浮かぶ満月を背後に怪しく笑い声を上げていた。
「妙なことを言う。ラギアスである俺の発言を貴様らが一度たりとも信用したことがあったか?」
「ジーク、何を言って……「もう、いい。セレン」」
会話に割って入るヴァン。目を赤く腫らしたヴァンは涙を流しながらジークに問いかける。
「ジーク。教えてくれ。お前の腰にあるその刀剣はどこで手に入れた?」
ヴァンの発言により全員の視線がジークに集まる。ジークが腰に差している刀剣。見るからに業物だと分かるその剣には剣聖である証、時の王より授けられた紋章が刻まれていた。
「時代を彩る最強の剣士の証。王から認められた者だけが持つことを許されるその剣を――何でお前が持っているんだ?」
「さあな。気になるならそこの剣聖にでも聞いてみるんだな。……いや無理な話か。神聖術は何があっても死者を連れ戻すことはない。絶対にな」
「――お前は本当に気に食わない奴だった。でも、誰かを助ける優しさもちゃんと持っていた……そう思っていたのに。信じていたのに!」
「勝手に盲信して裏切られたと被害者ヅラをするのか? 本当に哀れだな貴様は」
柄に手を掛け力強く剣を抜くヴァン。怒りが剣に宿っているか、激しく鳴動していた。
「時代に取り残された魔術師に廃棄寸前の妾の子。剣聖に縋る世間知らずのガキに呪いに囚われたマヌケな貴族。どいつもこいつも見るに堪えんゴミ屑ばかりだな」
ヴァンが力強く踏み出す。その一歩は大地を深く抉る。一気にジークの元まで迫り剣を振りかぶるが全てを躱され逆に弾き返されてしまう。
「くッ……」
「目障りだ消えろ」
「お前は爺ちゃんの仇だ。お前だけは――俺の剣で殺す!」
「貴様の剣が俺に届くことはない。俺はこの世の何よりも特別だ」
引くことの出来ないヴァン。
選択を迫られる運命に囚われた者達。
そして――外れた者。
彼らが望んだ未来から大きく変わってしまった結末。ボタンの掛け違いから生まれた大きな溝。逆らうことの出来ない流れに否応無しに呑み込まれてしまう。――本当に欲しかったもの。最善は何だったのか。
答えを知る者は誰一人と存在しなかった。
第三章 届かぬ願い 終
✳︎✳︎✳︎✳︎
――カラン。
「――えっ?」
金属音が耳に届く。
ルークが任務や鍛錬、非番の時すら常に帯剣している細身の剣。派手さはないが名匠が作り上げた物だと見る者が見れば分かる名剣。その剣が根元から綺麗に折れていた。
冒険者を始めて間もない頃。今から四、五年程前の話。ジークの冒険者活動に勝手に付いて回っていた時に言われた一言。言葉と同時にある物を押し付けられていた。
「何だそのナマクラは? 俺の近くで醜態を晒すな」
乱暴な言葉と同時に手渡された剣。当時幼かったルークの背丈に見合った、業物と思われる剣を無理矢理握らされていた。
「こんな高価な剣もらえないよ!」
「バカなのか貴様は。――なら見合う騎士になって見せろ。まぁ、一生無理だろうがな」
冷たくあしらわれるルーク。容赦のない言葉ではあったが不思議と悲しくはならなかった。何故だか分からないが背中を押してくれている。そんな気がしていた。
ルークの成長と共に剣の大きさも合わなくなる。それでもルークは親友にもらった大切な剣だと拘って使っていたが、ある日ジークによってその剣が取り上げられる。
「返せ。これは俺の物だ」
いつものように強引だと苦笑いをしていたルークだったが、数日後再びジークから剣が手渡された。
今の背丈に合った長剣。光を浴び輝く刀身は伝説の金属、オリハルコンで鍛えられた名剣であった。
「ふん、偶々拾ったナマクラだ。お前にくれてやる」
さすがに無理があると突っ込もうとしたルークであったが、剣の柄を見て思いとどまる。見覚えのある柄は前にジークに渡された、今では短く感じていた剣、その柄が再利用された物であった。ルークが大切に使い、特別な想いを抱いていた剣だとジークは知っていたのだ。
「やっぱり変だ。何かがおかしい……」
折れてしまった剣を見てルークは言いようのない不安感に襲われる。
冒険者として、騎士として戦ってきたルーク。言葉では表せない勘をこれまで経験してきたが、そのどれとも違う感覚。何かが起こる前触れ。大切なものが消えてなくなり、何処か遠くへ行ってしまうのではないか。そんな気がしてならない。
ルークが剣を見つめていると同期のスキニーが慌てたように声を掛けてくる。
「ヤベェぞ、ルーク!」
「……奇遇だね。僕もだよ。大切な剣が折れてしまったんだ」
「マジかよ⁉︎ ってそっちじゃねーよ! それよりもヤバい事態になってんだよ!」
僕からすれば一大事だと口から出かけるが、余りにもスキニーが慌てていることから先ずは話を聞くことにした。
「落ち着いて聞けよ。剣聖が……マスフェルト・フリークが死んだらしい。病気や寿命ってわけじゃねえ。――殺されたんだよ」
「……殺された? 剣聖が、かい?」
剣の道を生きる者なら誰もが憧れる最強の存在。面識はないがルークもマスフェルトの数々の武勇を知っていた。
「その剣聖がだ。……ここから先の情報は確定じゃねえ。あくまでも現時点でだ。……取り乱すんじゃねーぞ?」
いつもに増して真剣な表情となるスキニー。ルークもつられて身が引き締まる。
「剣聖を殺した犯人は――――ジーク・ラギアスって話だ」
時が止まる。ルークの世界から音が消失した。
第三章完結




