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愛してる!

「別れよう……」

「!?」


 美月は絶句し、顔から光りが失われた。

体が石膏(せっこう)のように固まり、思考が止まる。


「俺と一緒にいると、美月はまっとうな人生を送れなくなる、だから……」


 美月は和人に抱きつき和人の胸に顔をうずめた。


「私の事……嫌いになったの?」

「違う」

「じゃあ……なんでそういうこと言うの?」

「……」


 和人は震えながら、自分にすがりつく美月を抱きしめ返そうとしたが途中で止め、腕を下にだらりと下げて応える。


「俺らの間に生まれるのは災厄種だ……そうしたらお前は自分の子供が世界を敵に回す苦しみと自分自身が破滅の元凶として周りから責められる苦しみを味わう、俺は、俺のせいでお前がそんな目に合うのはいやなんだ……」

「……っ……」


 美月は和人を突き放すとそのまま走り出した。


 和人は自分のもとから去っていく美月の後ろ姿を黙って眺めていた。


 悔しかった。自分の無力さが、どうしようもなく辛く、我慢できないほどに悲しかった。


 こんな空しい気持ちは初めてだ。


 そんな和人を嘲笑するかのように空からは雨が降り注ぎ、その勢いは強まる一方だ。


 和人はその豪雨の中で拳を握り締め、歯を食い縛る。


 自分達は一緒にいては行けない、なら追いかけてはいけない……そう思ったのに……。


「……ふざけるな」


 和人は走り出した。


 普段は押さえていた力を解放し全力で町の中を駆け抜ける、雨のせいで美月の匂いはわからないがとにかくカンを頼りに美月を探した。


 そうすると和人が走り出してから五分もしないうちに彼女の姿を確認することが出来た。


 二人がいつも帰りに別れる場所であると同時に二人が始まった場所でもあるあのT字路に美月はいた。


 美月は冷たい雨の中、まるで親に捨てられ帰る家を失った子供のように悲しげな顔で立ち尽くしている。


 和人は美月に走り寄ると肩に触れようと手を伸ばす。


「……美月」

「さわらないで!」


 美月の叫びに和人の手が止まるが和人はそのまま美月を後ろから抱きしめた。


「和人君……」


 美月は和人の名を口にすると振り向き和人に抱きつき涙ながらに訴える。

「やっぱり駄目、和人君に言われて、和人君のこと忘れようとしたけど、それに、こうやって抱きしめられてわかった……」


 和人を抱きしめる美月の腕によりいっそう力がこもる。


「やっぱり私は和人君がいないと駄目! 和人君と離れたくない! ずっと、ずっと一緒にいたいの! 和人君……駄目?」


 和人の目に涙ながら問い掛ける美月の顔が飛び込んでくる。


 やはりどんなに駄目だとわかっていてもあまりに愛しすぎる。


 本当に好き過ぎて誰よりも大切にしたくて何よりも優先して守りたいのにその相手は自分が一緒にいると不幸にしてしまう。気がつくと和人は叫んでいた。


「俺だってお前と一緒にいてえよ! 俺はお前のことが好きで! でも、俺はお前を破滅の元凶なんかにしたくねえんだよ! 刈羽さんい言われたんだよ! 今までの歴史上、世界に戦争をしかけなかった災厄種はいないって、自分達が唯一の成功例にしようなん思い上がりだって、ただの友達なら一緒にいられるかもしれねえ、でもこんなに好きなのにずっと友達のままでいられる自信なんて俺にはない! どうすりゃいんだよ? どうすりゃいいんだよぉおおお!」


 二人の間に長い沈黙が流れた。

 二人とも答えを出せない、問題の解決方法がどうしても思いつかないのだ。

 だから、美月は言った。


「じゃあ、約束して、和人君……」

「約束?」

「うん、ずっと、愛してくれるって、私は周りからどう見られてもいいから、周りからどんなこと言われてもいいから、ただ、和人君がずっと好きでいてくれたら我慢できるから……」


 苦しいのは自分なのに、自分はいくら辛くてもいいから一緒にいたいと懇願する美月の姿に和人は悔いた。


 自分はなんて弱かったのだろうかと、そして美月はなんて強いのだろうかと、こんなに好きなのに、こんなに愛しているのに、自分の気持ちは美月の母親に二、三何か言われたぐらいで揺らいだのに、親だけでなく自分にまで別れるよう言われても愛を曲げようとはしない美月に和人の心は救われ、全ての迷いを消されてしまった。


 和人は美月をよりいっそう強く抱きしめた。


「……ありがとうな美月、俺がバカだった、思い上がりとか自信過剰とか言われてもいい、俺は、自分の子供に破滅の道なんか進ませねえ、ちゃんと育てるから……たとえ世界に戦争しかけようとしてもそんときは俺が命に代えてでも止めるから、だから……」

「和人君……」


 和人と美月は互いの存在を確かめるように抱きしめあい、何も言わず互いの唇を求めた。

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