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暴走

 ビキ ベキ グチャ

 鈍い音のあとに光一の体は開放されドスンという音を鳴らして床に叩きつけられる。

 由美は羞恥のあまり両手で顔を覆う。


「それに、起きている時にエッチなのは駄目だって、そんなにしたいならあとでベッドの中でいくらでも……って、あれ?」


 由美が顔を覆っていた手を放し床を見るとそこにはピクピクと体を痙攣(けいれん)させながら白目を向いている光一の姿があった。


「コッ、コウちゃん!……ごめんなさい、私手加減できなくて!」


 由美が揺すると光一は意識を取り戻し目に光りが生気が戻る。


「ああ、気にするな、おかげで体が丈夫になったよ」


 それを聞くと由美は反泣きの状態で光一の胸に顔を押し当て「ごめんなさい」と謝る。


「それとな、結衣なら大丈夫だって」

「えっ?」


 泣き顔を上げて自分に「なんで」と問いかける妻に光一は優しく応えた。


「だって考えてもみろよ、人間が亜人間(デミヒューマン)嫌いばっかりだったら二口女なんてとっくの昔に絶滅してるって」

「そっ、それは、普通は夫に自分の正体を隠すから……」

「そんなわけないだろ」

「?」

「男だってバカじゃない、何十年も一緒にいて、気付かないわけないだろ、そう言われているだけで実際にはみーーんな気付いてるんだよ、妻も娘も人間じゃないってな」

「じゃ、じゃあなんでそれが原因で夫に逃げられる人がいないの?」


 すると光一は由美を優しく抱きしめ背中を二、三度軽く叩いた。


「そんなの決まってるだろ、男は女の子が大好きだからな、カワイイ奥さんの秘密の一つや二つは軽く受け入れちまうんだよ、それに、自分を傷つけないように正体隠してくれてるんだ、気付いてたって気付いてないフリする男だっているだろうしな、俺だって、お前がモンスターだって知ったうえで付き合って結婚したんだ。俺みたいな男なんていくらでもいるはずだ。だから今、結衣が好きな男はどうか分からないけど、いつかあいつの前にもそういう男が現れるさ……」


 その言葉に由美は嬉し涙を流しながら光一の名を呼び唇を重ねる。


 結衣はその一部始終をドアの隙間から見ていた。真二の事を両親に相談しようと降りてきたのだが今の父の言葉でその必要はなくなり、自分の部屋に戻り、窓際に置かれているベッドに座り携帯電話を開く、短縮から真二の名を選択し、決定のスイッチを押す。


 とても長く感じられる五回目のコールで真二は電話に出た。「どうしたの?」ときさくに話し掛ける真二、それに結衣は。


「うん、ちょっと今、ヒマで、少し話してもいい?」


 「いいよ」という真二の優しい声、その声に結衣はどこか満たされた気分になると二人は昔話から最近起こったことまで楽しい会話を続けた。


 本当に自然に、そして楽しげに、友達同士とも恋人同士ともつかない雰囲気で、そして結衣が明日、告白しようと決心し、そろそろ電話を切ろうと思うと。


 ビキ


 春にしてはおかしなくらい季節外れの冷風で寒い夜のため、閉めていた窓にヒビが入る、ヒビの中心には直径一センチほどの小さな丸い穴が空いている、その延長線上にあったのは結衣の背中だった。


 撃ちこまれた何かが結衣の体に侵入する。


 同時に結衣は携帯電話をベッドの上に落とした。携帯から真二の「どうしたの?」という声が聞こえてくるが体が言う事を聞かない、そして自分の意思とは関係なく髪が無限に伸び続け勝手に動き回る。


「いやぁあああ!」

「結衣ちゃん! 結衣ちゃん! どうしたの!? ねえ!?」


 携帯から発せられる真二の声が誰もいない部屋に染み込む。




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