その情景は何よりも綺麗で(後編)
風に乗り仄かに靡いたその髪は、観る者をどこか惹きつける。
「セシル!オイオイこんな時に久しぶりの登場かよ、こんチクチョウ」
なじる様にロビンはセシルに向かって吐き捨てた。しかし顔は笑っているように見受けられる。
俺の傷を一瞬で治すとそのままクルリと後方へ反転し、視界から一瞬で消え戦いの音が響き始めた。
魔法がはじける音、剣が
彼は俺達が総出であれほど苦戦した死霊の親玉をものの数十秒で討伐してしまったのだ。
「はははは……すごい。凄すぎる。これがSランク……最高の力を持ったプレイヤーの強さなんだ」
ケイが興奮した様子ではしゃいでいる。
呆気に取られていて、ボーとしていたことを悔いた。俺はすぐさまセシルにマウスカーソルを合わせる。
セシル=マフォルデ(S-980)
ギルド『Andante』『Crystal nights』所属。
HP8120
mana 4550
攻撃 3250
魔力 1860
防御(物理) 525
防御(魔法) 488
早やさ 1420
【装備情報】
クリスタルヘルム
魔戦の鎧
風樹の耳飾り
創世のペンダント
再生の指輪(LV.85)
狼王のブーツ
シルバーウイングエッジ(剣)
冥界の雫(盾)
そのステータス、身に着けている数々のレアアイテム……、それら絶品を眺めているだけでよだれが出てくる。
Sランクに到達した人間の、その凄まじい力がこの数値から容易に見て取れる。
「リーダー!来ていただいてありがとうございます。おかげでお目当ての【死者の杖】をゲットできました。今日は何でうちらの方に顔緒を出したんですか?」
ビビアンはもう早速死者の杖を装備している。
「これから向こうのギルドの方で、大規模な作戦が始まってね……またしばらくこっちに顔出せなくなりそうだから挨拶に来たんだ」
セシルはタカシとケイの方を見ながら言った。
「二人の有望な新人が入ったってロビンから聞いてたし、一目見ておこうと思ってさ」
「そうだ、せっかくリーダーも来てくれたことだし、みんなで頂上まで登らない?ここから上のモンスターは透明状態も見破る敵が多いし強いけど……
セシルがいればきっと大丈夫よね?」
レベッカの提案に皆が賛同し、エメラルドマウンテンの山頂を目指し始めた。
「みんな、頑張れ! もう少しだ! ここで諦めたらここまでの道のりがパァだぞ」
ロビンが鼓舞した。登り始めてから数時間、それからは皆、ほとんど口を開くことなくモクモクとただ上だけを見つめ歩き続けた。
「おお、ついに……」
疲れ切った表情だったケイの顔が変わった。
その瞬間に、9人全員が立ち会った。薄暗い霧がかる雲の合間から、一筋の僅光が射した。
それはここにいる9人を照らにはあまりにもか弱い、心細い光であったが、見る者をそれに釘づけるには十分な威光を放っていた。
この景色を、ここにいるメンバーを。全員がスクリーンショットに残したに違いない。
誰が言うまでもなく、自然と皆横一列になり朝日を背に立ち尽くしていた。
「ようし、降りますか」
暫くの静寂の後、カンタが我に返ったかのように言った。なぜか皆笑った。つられてタカシも笑っていた。
この場所の空気はおいしかった。
振り返って最後に一目、名残惜しそうにその眼下の景色を見ていたのが、タカシには印象的に感じた。
「今日はありがとうな、セシル」下山途中に少し他の7人とは距離を置いて、ロビンはセシルに話しかけた。
「新人が2人も入ったみたいだし、たまにはリーダーらしいとこ見せようと思ってね……顔を出してみたよ」セシルが少し照れ臭そうに微笑んだ。
「なかなかこっちに顔を出せなくて悪いな」
「いいよ、気にすんな。Andanteのことは俺に任せて、お前は向こうで思いっきり暴れてこい」
「ありがとう……ロビン」
二人は固い握手を交わした。
-第一章 完-




