表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンロード  作者: 影揺らぎノ尊
第一章
6/9

更なる高みへ

真っ暗で一抹の光さえ届くことはない。そこは拓けた空洞になっており、地下へと続く階段が空中に幾重にも別れ伸びている。

永遠とも感じられる地下への階段はまるで迷宮。先ほどの戦闘で垣間見えた、地下ダンジョンの階段をマリスは延々と下る。



マリス(A-520)


HP5400

mana 1615

攻撃 1580

魔力 820

防御(物理) 365

防御(魔法) 410

早やさ 1390


武器 【黒きバラのナイフ】

防具1【嘆く蛇のローブ】

防具2【血塗られし腕輪】

防具3【暗殺者のブーツLv.4】



 マリスは夜目が効くウルトラヴィジョンという特性を備えた眼を持っていた。低ランク時から、闇に紛れプレイヤーの後をつけスリをしたり、

時に背後から襲いキルを繰り返していたことによって視覚のスキルが発達していたのであった。そのマリスの眼を持ってしてもここは暗い。


 脚を踏み外した。階段がそれまでの単調な法則から外れ、急に直角に右方向へ曲がっていたのだった。そのままマリスは下へ下へと堕ちていくと、奈落の底へ到達した。

幸いにも下は水だったためダメージは受けなかったが、もしそうでなかったらゲームオーバーであった程、深いところまで来た。

辺りは暗くてよく見えないが、どうやら大きなフロアのようになっており、いくつか通路に続く道が見える。


 マリスは水面の僅かな揺れに気づいた。自分の動きに由来する波ではない、明らかに水中にいる。

目を凝らして水面を観ると、なんとギョロリギョロリ怪しく光る黄色い目をした何かが、こちらに近づいてくるではないか。


「ち―――」

それは獰猛なワニだった。しかも一匹ではない。ダンジョンアリゲーターと表示されるそのモンスターが数匹はおり、水面下を進軍してくる。

マリスは通路まで走った。全容が分からないダンジョンでのソロ活動においては、いちいち遭遇する雑魚モンスターを相手にしていたら命がいくつあっても足りないことは

高ランク帯のプレイヤーにとっては常識であった。


 そしてそのまま振り切り廊下に出た。廊下はフロアより一段高くなっており水はない。マリスはそのまま突き進む。

すると通路の突き当りに扉が付いており、中は小さな部屋になっていた。


 恐らくゴブリンかオークが生息しているのだろう。天井からつるされた生肉があり、床には焚火の跡。住処と思われる小さなテントが一つ佇んでいる。

向こうの壁には更に先へと続く道がある。

一見何の変哲もない部屋であったが、マリスはひとつの違和感を抱いた。


宝箱が既に開いている……?


テント奥に宝箱があることが、その入り口から見えた。しかし既に漁られた形跡が見受けられるのだ。

俺よりも早くこのダンジョンに侵入したプレイヤーがいるのか……。


 マリスはあるアイテムを探していた。そしてヴォイドジャングル内にある古代文明の痕跡や、古文書を調べることで、このダンジョン『棺のラビリンス』にそれがあることを突き止めていたのだ。

入り口を偶然発見できたのは、マリスにとってはとても幸運だった。





更に奥へと進むとそれは居た―――先客者。



「驚いたな……このダンジョン初の探索者は俺だと思っていたぜ」

その名はシンシア。マリスはカーソルで表示されたその女の名前を深く胸に刻んだ。


「あら、こんな奥深いダンジョンに私以外にソロで来ている子がいるなんて……」

シンシアは、不敵にも笑った。


「アンタもヴォイドジャングル周辺の街や村でここの在りかを嗅ぎつけてやってたはずだ。当然お目当ては、アレなんだろう?」


「これのことかしら……?残念ながらこのダンジョンのこれは全て採りつくしたわよ、一足遅かったわね」

シンシアは3つの赤褐色の石を手に持ち、マリスに示すと彼の顔色が変わる。


「お前……賢者の石を既に3つも」


 賢者の石を見るや否や、マリスは、魔法【ウルフソウル】を瞬時に唱え脚力を大幅に上げた。アイテムを巡ってのプレイヤー同士の戦闘。その高速の足でシンシアの背後に回り込む。暗殺者のブーツの効果によって足音はほとんどかき消される。

薄暗い石造りの通路の左右上下の壁をけって翻弄するような動きで、シンシアをかく乱し、そのまま黒きバラのナイフがシンシアの背に突き刺さり大きなダメージを与える。

しかしその後すぐにシンシアの体力は全快にまで回復し、それと同時に自分自身がダメージを受けていることにマリスは気付いた。


「お前、吸血魔術師(ブラッディメイジ)か……」

厄介だとばかりにマリスは一度距離を取った。


シンシアは不敵な笑みを崩さない。冷たく威圧するように両手で血の呪文のエネルギーをこねくり回している。



 吸血魔法はマナの代わりに自分の体力を消費して詠唱する。そして与えたダメージに応じて自分の体力を回復するんだ。

見たところ奴の吸血効率はほぼ100%……、神秘のベールによって見ることは出来ないが、ランクSのプレイヤーだと思って間違いないだろう。

そして吸血魔法は発動に自分の体力を消費するから、詠唱するタイミングがとてもシビアだ。奴の体力が低いタイミングで放った吸血魔法を躱し、トドメの一太刀を入れる。

 マリスは距離を取りながら、シンシアの隙をついて反撃すべく思考していた。



 ランクはA……、だけど

「ふふふ、面白い子」

シンシアは笑った。マリスのこの仮想空間で力強く生きようとする様を肌に受けてのことだった。



 再び距離を詰めたマリスの剣撃と彼女が放つ吸血魔法によって、シンシアのHPバーは左右へ忙しく揺れる。一歩、魔法の詠唱タイミングが遅れればそのままHPは0になりゲームオーバーだが、

シンシアの巧みな攻防の押し引きによって、あと一歩のところで踏みとどまり回復する。一方で、HPを繰り返し吸われているマリスの体力は確実に消耗していた。


強い……!


 ジリジリと追い詰められマリスは焦りを覚えていた。しかし勝負の女神は彼へと味方をする。

手に持った黒きバラが、シンシアへとクリティカルヒットしたのだ。シンシアの計算の倍以上のHPが一気に削れる。

「これで終わりだ」

 勝ちを確信し最後の一太刀を浴びせようとした時であったが、シンシアの体はドロドロと溶けだし、床には血の海が広がった。そしてその血の海はゆっくりと移動しマリスの元を離れると、離れた場所で再びシンシアの血肉を形作った。

驚くべきことにHPも4割ほどまでに回復していた。


「自身の体を血液に変化させる回避用の魔法か……」

あと一歩のところで勝機を逃し、マリスは追い詰められる。しかしシンシアにこれ以上戦意があるようにはあまり感じられない。


「あなた、まだAランクなのに私とここまで戦えるなんて凄いわ。ランクが同じくらいになれば私より強いかもね」

実に嬉しそうな表情をしている。


「もう戦いは止めましょう。Sランクプレイヤーを、更なる限界を超えて……ランクアップされることが出来ると言うこの【賢者の石】 あなたに一つあげるわ」

そう言うとシンシアはこの赤褐色に光る宝石を一つ、マリスに向かって投げた。


「いいのか? いずれ後悔するぞ」驚いた様子でマリスは言った。こんな貴重なアイテムを無償で他人に与えるシンシアの心理を推し量りかねていた。


「私は別に賢者の石を独占するつもりはないの。あなたのように潜在性があるプレイヤーに使ってもらいたいと思っている。

ただただランクによるステータス有利を振りかざすだけのSランクより余ほどね」


「お前は何者だ?」マリスの問いかけに、ふざけるようにして答える。「ただのゲーム好きのOLよ」



「それに賢者の石はそれだけではまだ効果を発揮しないわ。どのようにして使えばいいのかは私もまだ分からない。だからお互い情報を得たらコンタクトを取りましょう。

 私だっていずれはなりたいから。Sランクの更にその先……グランドマスターに」

シンシアはそう言うと、また血液魔法を詠唱し始めた。

「この魔法は戦闘以外にも使えて便利よ……例えばこのダンジョンの様な石を積み上げて作られた造りなら、壁の隙間から向こう側へ移動したりね」

そういうと彼女は、再び血の海の魔法を唱え、壁の向こうに移動した。先輩風を吹かせるつもりなのか、魔法の使い方を実践して見せ始めた。


 こうやって、この迷路のような広大なダンジョンを一人で探索したのかと、マリスは思った。


「ちょっと! 聞こえる? こっちまで来てみて。面白いものがあるわ」

少し間があった後、壁の向こうからシンシアの声が聞こえた。


 一つ壁の向こう側に行くために迷路のような通路を這いまわり、やっとの思いでシンシアと合流した。


「ここは……」マリスは驚いた。


そこは天井が高く大きな神殿のような作りになっており、奥には巨大なモンスターが座していた。

それは2本の曲がりくねった角を生やしており、背中には翼が折りたたまれている。さながら魔王サタンのような出で立ちをしている。


「邪神バディアス……このダンジョンのボス……。レイドモンスターね」

シンシアが言う。


「これは相当強力なモンスターよ……、恐らくAランク帯のプレイヤーでも討伐には数十人規模になる」

流石に、二人でこれを狩る勇気はないとばかりな仕草だ。


最後に良いものを観れて満足した二人は、それぞれ帰路に就いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ