新たなる冒険者
ハアハアハア。
俺は走っていた。右を見ても左を見てもただ同じような景色が続く、薄暗い森の中を。
一瞬だけ後ろを振り返ると背後にはまだ奴らがいる。
不気味に赤い目を光らせる骸骨、全身紫色の毒々しい様相をした大蛇、首だけで宙を舞っている一本の角を生やした一つ目の鬼など、数匹のおぞましい怪物の群れが列をなして俺の背後を猛追している。
タカシ(ランクE)
HP 30
mana 20
攻撃 20
魔力 15
防御(物理) 10
防御(魔法) 10
早やさ 10
俺はほんの数分前にアンロードをプレイし始めたばかりの初心者だ。
見ての通りキャラクターも初期の状態である。
最初の街に降り立ったら、いくらかこのゲームを先行している親友のケイと待ち合わせをし
イロハを教えてもらうはずだった。
こんな訳の分からない状況で死んでたまるか。
おれはそんな思いで背後からの攻撃をがむしゃらに避けつつ、何とかして活路を見出そうと奮起していた。
そんな折、視線の先に何やら青白い光源が見えた。
それが何なのか考える余裕がないまま、ただひたすらそこに向かって突き進んだ。
人だ。女性のキャラクターだ。
青白い光は彼女から発せられており、恐らく何らかの魔法なのだろうとタカシは思った。
彼女もこちらを向いた。すると今度は赤い炎の様なエフェクトが彼女の両手を包み込み、
そのままこちらめがけて飛んできた。
その炎は俺のキャラクターをすり抜け、背後に迫る怪物の群れを飲み込んだ。
数匹いた怪物たちはそのたった一発の魔法で全て消し炭になった。
「トレインを作って危なかったわね」
ひと段落するや否やチャットが返ってきた。それは彼女もプレイヤーで俺を助けてれたことの証明に他ならなかった。
「助けてくれてありがとう。ところでトレインって何?」
「さっきみたいにモンスターの群れに追われている状況のことよ。
モンスターが連なってまるで列車みたいに見えるからそう呼ばれるの」
「ああ、そうなんだ」
「ねえ。あなたEランクってことは初心者さん?」
「そうだよ。ほんの10分前くらいに始めたばかりなんだけど、スタート地点の建物を出た瞬間、多分他のプレイヤー?の魔法か何かでこの森まで飛ばされてしまって……
何も分からない状況でモンスターから逃げ回っていたんだ」
「それはいきなり災難だったわね。でもそれもこのゲームの醍醐味の一つだから。
そういった困難含めてこのゲームを楽しんで頂戴」
少し間があった後、彼女との会話はさらに続いた。
「ところで、この『無明の森』は高ランクのプレイヤーでも一人では結構危ないの。
初期キャラなら一回攻撃をもらうだけでゲームオーバーよ。あなた結構、センスあるかも」
「マジか~、なら俺、結構見込みありって感じかな」
お世辞かもしれないと思ったが、タカシはそう言われて気分がよかった。
「そうだ。よかったらこのアイテムを受け取って。」
【賢者の石】
地中深くから発掘された暗緑色に輝く魔を帯びた鉱石。
加工することで、様々な能力を発揮する。
唐突に彼女から、一つのアイテムを渡された。
「何に使うか分からないけど、結構レアリティ高そう…」
「うん。初心者のあなたにはこのアイテムの出番はそうとう後になるけど……
きっと使う時が来るって、私は思うわ。だからそれまで、よかったら手放さないでおいて」
彼女はシンシアと名乗った。
ひとしきり会話を終えた後、彼女の魔法で俺は元居た町「フリーデン」まで帰還した。
俺の冒険はこうして幕を開けた。




