独りだけの世界
少しゾワッとするような、不思議な小説です。
500文字以下と、大変読みやすい短編小説です。
俺の世界に色はない。あるのはモノクロの世界のみ。濃淡はあれど、色というものはないに等しい。真っ赤に染まった夕焼けも、透き通った青い海も、もう分からない。俺にとっては色なんてものは夢の中だけの話だったんじゃないかと思わされる。白と黒が織りなす世界は意外にも儚く美しかった。消えてしまいそうな存在が、自分みたいで同情できた。哀れに思われる悔しさを、虚しさを、お前も持っているのかと問いかける。すると風は俺をまくし立て身体をつき刺し、木々たちは枯れた口調で悪口を言い、乾いた空気はただ冷たく俺を見下した。世界が俺を嘲笑う。この世界も俺のことが嫌いみたいだ。フードを深く被り直し黙って歩き出す。オセロのようにどんどん奪われていく居場所。角がどんどん取られ圧倒的不利な状況に持っていかれる。もう“それ”はそこまで迫ってきている。俺は走った。フードは剥がされ、顔中が痛い。疲れていることも無視して走り続けた。走るしかなかった。でも、もう無理みたいだ。“それ”からは逃げられない。最期の悪あがきを終えた俺は笑った。ただ笑った。さようなら、色のない世界。さようなら、色のない自分。
今回三作品目となる小説を書かせていただきました。
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またお会いしましょう。