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鍵の怪物

「この方は女神。言葉を慎みなさい」


 町人は、僕の言葉に怒りをあらわにします。


「女神が地上にいていいわけがねぇ!」


 百姓の男はそう言いました。


「女神が降りて来たせいで、子供らは皆殺しにされちまった」


 どういうことでしょうか。さきほどの町の静けさは、やはり異常だったのですね。怪物は、あの一匹ではないのでしょうか。


「ローザ様は、リア様を助けるために黄金の椅子から降りてきてくださったのです」


「だったら、リア様はどうした?」


 僕らは石を投げられました。


「ぶ、無礼ですよ?」


「うっせえ、権力者が!」


 僕の役職は貧民層、特に農家の人々に嫌われています。ですが、女神に石を投げてはいけません!


「天上に帰れ! とっとと帰れ」


 胸が締めつけられます。


「いいのよ、ジュスト。さぁ、怪物を追うわよ」


 石はローザ様にも当たりました。赤い血が頬を撫でていました。痛々しい。見ているこっちがめまいに見舞われます。


 僕は目を半分閉じてローザ様の盾となり、洞窟に駆け込みます。町民の怒声。さっきまでいっしょに教会で僕の説教を聞いて下さった方々もいました。


「女神は地に降りてきたらだめなんだ!」


 嘆きの声でした。絶望の声です。僕だって泣きたい。ローザ様も気丈にふるまっておられますが、心は泣いています。


 町民の声が洞窟の奥まで木霊します。


「女神ローザ様。僕はローザ様が黄金の椅子を放棄したこと、決して間違いではないと思います」


「私は、もう女神なんかじゃ」


「いいんです。僕は女神ローザ様が人として降り立って下さったこと、間違いじゃないと思います」


 とにかく、怪物を仕留めなければ。


「あれは、鍵の怪物の仕業」


 ローザ様は、洞窟の中腹に差し掛かったころでぽつりとこぼしました。足元はじめっとした土。鍾乳石が突き出しています。裸足でうっかり鍾乳石を踏んでしまっています。


 痛々しい!


「あの、これで足を」


 僕のローブをまた止血代わりにちぎって渡しました。


「ありがとう」


 ローザ様が足を止めます。


「鍵の怪物とは魔物でしょうか」



「私が妹を聖女として地上に送り込むように、女神と対極にある悪、破滅が怪物を地上に送り込んだの」


 ローザ教では女神ローザと対極の位置にあるのは、「破滅」です。


 「破滅」とは姿を持つ存在ではないです。倒すこともできません。人が罪を犯すように「破滅」は、僕らの身近にあり続けますから。


 その「破滅」が鍵の怪物を地上に送り込んできたのです。


 これは用意周到な計画だったのではないでしょうか。


「私はリアを……人として生活させてあげたかったのよね」


「分かりますよ。聖女リア様が半神半人だということは、みな知っていますよ。僕らは聖女様として敬いながらも人として接してきました。だからみな、悔しいんです」


 石を投げられたけれど、彼らの思いも分かっています。


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