森の惨劇
僕を呼んだ神父とともに大聖堂を出ます。
泥道に血の跡が続いているのを見てしまいました。うわあ、失神しそうです。
血ですよ? これはもう既に誰かが亡くなっているのかもしれない量です。
僕は逃げ腰になるのを必死にこらえて、足を動かし続けました。
昼過ぎだというのに、獣道は夕闇のような薄暗さです。平和な森が、今日ばかりは口を開けて僕らを手招きしているように思えます。
「ジュスト様いました!」
神父が木立の影で絹をさらしている人影を指差しました。
「リア様!」
聖女リア様の長い銀髪に血が滲んでいます。青い瞳は木々の隙間から空を探しています。
リア様が苦し気に息を吐くたびに、鮮血が首から噴き出します。え、いや、いやああ。血、血いいいいい!
「ジュストお兄ちゃん。わ、私、こ、怖い」
「あまり話さないで下さい」
幼い聖女リア様でなかったら側頭していたかもしれません。僕は血が、血が、血があああ。苦手なんですよ。でも、お守りせねば。
僕は自身の黒のローブを破きました。これで、リア様の首を止血します。
リア様のすぐそばに、農夫が倒れています。彼らがぴくりとも動いていないことで、死を悟りました。
木々のさざめきが、人の死を嘲笑っているかのようです。
怖いです。僕も死にそうです。ですが、血を見ただけで死ぬわけにはいきません。
僕がリア様を抱えると、神父が物おじした様子で言います。
「い、遺体の回収は諦めましょう。まだ、近くに奴がいるかもしれません」
ほんとうに野犬なのでしょうか。傷口が大きすぎます。
「ぐあああああ」
僕の真後ろで後輩の神父の声が跳ね上がりました。振り返ると、そこに神父の胴を食らいついた灰色の獣がいました。
狼のような前かがみの姿勢。全身を覆う剛毛。体格は熊ほどもあります。
神父の吐息が大きく吐き出され、胴が上下に裂けました。
大腸が大きなミミズのごとく飛び出します。
だめですだめです。怖い怖い怖い。一瞬、意識が飛びかけました。
怪物の唸り声が、次の獲物は僕たちであることを告げています。
足を動かすことだけを考え、走ります。
「ジュストお兄ちゃん、後ろ!」