バッドエンド
まぶたの上から訴えかけてくる温もり。鼻に漂ってきたその刺激臭に思わずのけぞって目が覚めた。
これは、唾液?
わたしの顔の上に、覆いかぶさっているのは怪物!
灰色の唇からよだれを私のまぶたに滴り落としているじゃないの。
「ジュスト! 助けて!」
私の悲鳴で怪物はその体躯をよじらせて頭をかかえた。灰色の剛毛がたゆたっている。
顔面は醜く歪み、鼻は膨らみ荒々しい息を吐く。眼球は黒く、瞳孔は黄色い。さながら狼のようないでたちで、服をまとっておらず、筋骨隆々とした灰色の肉体は成人男性よりひと回りも大きい。
「グガアアア」
怪物は自身の頭から手を忌々しげにふりほどき、天井を仰いで咆哮する。薄暗い洞窟内で鼓膜まで震えた。
助けて……助けてジュスト。どこにいるの!
私と同じく金髪の頼りなげな顔の青年を思い浮かべる。血を見るのも苦手な彼に短剣を握らせてしまったのは私。
怪物の黄ばんだ鋭い爪が空を切る。
反射的に私は上体を起こす。今までずっと台座の上で横になっていたことに気づく。それだけじゃない。
短剣が置かれている。私の手元のすぐ近くに。これは、ジュストの。じゃあ、ジュストはどこ。
考えている暇はない。私の妹を殺した怪物を殺す!
私は復讐の女神。今度は私が奪う番。
短剣を突き刺す。噴き出す血も灰色。
「醜い化け物!」
妹の仇。
心臓のある右の胸へ。
「グバッガアア」
怪物の吐血した灰色の血。私の金髪に未練たらしく降りかかる。
「さっさと死になさい」
こいつが私の妹の首に食らいついたように、私はこいつの喉をかき切ってあげるの!
私は両手が鮮血でぬめり滑っても、柄を固くつかみ続けた。
短剣を引き抜く。後方に倒れる怪物。
私は怪物の太い首筋を突き刺す。
ごぼごぼと音を立てて唾液と血反吐が混じって吐き出されていく。
妹リア……あの子は、最期に天を仰いだ。私の存在する天を見上げてくれたの――。
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