11話 彼の好きなタイプ
本日2話更新します。
「ふ~悠里、アンタもさっさと浴びてきなさい」
祖父が寝て少しして、母がシャワー室から出てきた。タオルで髪をゴシゴシ拭きながら私に向かってくる。
「うん・・・。分かった」
私は袖で涙をかき消すように拭くと立ち上がって母の方を向く。母は私の顔を見て驚いていた。
「悠里・・・どうして泣いてるの?おじいちゃんに何か・・・」
母は慌てて祖父にかけより脈に測ったり口に手を当てて様子を見ている。
「大丈夫・・・だよ。寝るって言ってただけだから・・・」
「ならなんでアンタは泣いてるの?」
「ちょっと・・・嬉しいような悲しいようなことがあって・・・」
「どういうこと?」
母は首を傾げている。
「もしかして父さん・・・和也たちから何か連絡があった?」
私はゆっくり首を振り母の言葉を否定する。
「そうじゃない。そうじゃないんだけど・・・」
「?それじゃあどうしたっていうのよ」
「ううん。今は言えない」
「言えない?言えないってどういうこと?」
「分かんない。何て言っていいか分かんないの」
「そう・・・なら一度さっぱりしてきなさい。それと父さんには何もなかったのよね?」
「うん。ちょっと起きて話しただけ」
「そう。貴方が来る時はいつも起きるのね。父さんは・・・」
母はそう言って祖父を見つめている。その目は祖父を責めているようでも拗ねているようでもあった。
「母さん。タオルとかはどこ?」
「着替えの所に置いてあるわ。そこに貴方の着替えも置いてあるからそれを着なさい」
「分かった」
私はシャワー室に入り着替える。中は着替えが出来る場所と浴室が分かれておりかなり広かった。こうやって介護などをやりやすいようにだろうか。浴室も広い。私はシャワーを浴びながら考える。祖父の言葉を本当に喜んでいいのか。祖父が私を安心させる為だけに言ったんじゃないのか。
祖父が言ってくれたことは本当に嬉しかった。私の事を大事にしてくれていて、失いたくないと言ってくれた時なんて最高だった。そして同時に思うのだ。私や母が祖父にとっての重しになっているんじゃないかと。私たちが居なければ祖父は見たい景色が見れるはずだったんじゃないのかと。
答えは出ない。それを持っているのは祖父だけだから。その祖父が言ってくれた言葉を私は信用出来ずにいた。
そしてその考えは一晩経っても変わらなかった。
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「悠里、起きなさい、悠里」
「何・・・母さん」
窓から入る柔らかな光と母の声で私は目が覚める。ベッドが固くなったのかと思って見ると、自分の部屋ではなく病院の一室だった。
「何じゃないわよ。学校には行くって言ったでしょう?」
「分かった・・・」
私は眠い目を擦りながら起き上がる。そして顔を洗うべく周囲を見回す。
「洗面台ならシャワー室のを使いなさい」
「ふぁい」
欠伸と返事が重なり変な感じになる。そのまま私はシャワー室に入り顔を洗い意識をしっかりさせる。顔をしっかりと洗ってシャワー室から出て母に挨拶する。
「おはよう、母さん」
「おはよう、良く眠れた?」
「うん。ちょっと体が固くなった気もするけど」
「だから私が代わるって言ったじゃない」
「ダメよ。母さんはずっとここにいるんだから。私はいいの」
「もう・・・」
母には簡易ベッドを持ってきてもらって私は適当に床で寝た。それの質があまり良くなかったせいで体がバキバキだ。
私は着替えて制服を再び着る。そして母が購買で買っておいてくれた歯ブラシで歯を磨いたり軽くご飯を食べた。
「それじゃあ行ってくるね」
「ええ、行ってらっしゃい」
「おじいちゃんも行ってきます」
「・・・」
私は二人にそれだけ言うと病室を出た。看護師や医師が既にかなりの数来ていて、準備をしている。私はそんな人達の間をゆっくりと進んだ。ぶつからないように気を付けながら。
学校の時間にはちゃんと間に合い、遅れることなく朝のホームルームの10分前には到着することが出来た。私は席について一安心する。
「ねぇ~ちょっと相談あるんだけどいい?」
「すこ~し話に付き合ってくれるだけでいいからさ」
「何?」
教室についてすぐにお団子とボブカットの二人が近づいてきた。というかこの二人が私よりも早く来ていたことが驚きだ。
二人は厄介ごとを頼むつもりなのか媚びる様な表情をしているがそれが通用するのは男子だけだろから私にやるのは止めて欲しい。
「イヤー昨日は紹介してくれて助かったよー。実は野球部休みだったらしくてさー。一緒に遊びに行ったんだよねー」
「そうそうーそれで健太ってば優しくて面白いしさー凄い良かった訳よ」
「そう、良かったね」
真島も楽しんでくれたのかな?それなら私も罪悪感が薄れるので助かる。
「それでさーあたしら真島の好みとか知らないから何かあったら教えてくんね?」
「そうそう、どんな女子がタイプーとか髪型とか性格とか何でもいいからさ」
「んー知らないよ?私が真島と仲良かったのって小学校4年くらいまでだから。それ以降は中学校でもほぼしゃべってなかったし」
「そうなの?」
「そうよ。だから何で高校になってあんなにしゃべりかけて来るようになったのか・・・あ」
確か高校に入った時にそう言えば少しだけ話したような・・・?でもそんなに沢山話した記憶もないし・・・だけどその時以来しゃべりかけられるようになった気がする。
「どうしたの?何か思い出した?」
「そうそう。細かいことでもいいからさ」
「何でもない。特になにか話した気がするわけじゃないし。真島・・・確か小学校の頃は強い奴が好き・・・みたいなことを言ってた気がするけど・・・」
でもあれって戦隊ののヒーローとかに影響されてた気がするだけだからな・・・なんか違う気もする。しかし二人にとってはそれでも良かったのか満足そうな顔をしている。
「強そうな・・・ね。サンキュ」
「ありがとー」
二人はそう言って去って行った。
(ごめん真島、やっぱり変な方向に行くかも)
心の中で真島に謝っておく。それから私は適当に授業を受け続けた。体育で着替えた際には母の中々派手な下着を着ていたのを忘れて、クラスメイトに見せてしまい少しだけクラスがざわついてしまったが、それ以外は特に何もなく進んだ。
私はそんな授業を集中できずに聞き流していた。ずっと祖父と『風景屋』の事を考えていたのだ。祖父の笑顔、苦しむ寝顔。
私は迷っていた、迷っても時は刻まれる、誰も老いを止めることはできない。




