4月15日(運のいい人、悪い人)
今のところ、人生は平等じゃない。
平等だとしたら、これから先、私には嫌なことは何もなく、幸せだけが続いていくはずだと思う。
この大学4年間で好きなことを見つけて、いい就職先を得て、水を得た魚のように生き生きと、忙しく働く。経済的に何も心配がなくて、いい化粧品を使って、エステにも通えるから見違えるように綺麗になるに違いない。そして運命的な出会いをして、恋をして、結婚する。毎年海外へ行って、生き生きと仕事をしながら、仲睦まじく暮らす。
楽しかったー!といって終わる。
はー。。
だから、好きなことって?何だろう。
とりあえず今のことろ英語は好きだけど、海外に一年くらい住んだ人に、受験勉強だけしてた私が勝てるわけがないし。それは強みにならない。
最初の段階で躓いているんだけど。
こんなんで、そう急に逆方向に方向転換できるものかな。
まあ普通の流れなら、とにかく生活が戻ればバイト探さなきゃ、かな。
このまま4年間何もやりたいことが見つからない可能性もある。
とにかく就職しないことには生きていけないから、どこでも入れる会社に入らないといけないだろうな。
働いて、疲れて帰ってきて、それでもやりたいことを探し続けられるものかな。
世の中には、自分から流れ弾に当たりに行っても当たらない人もいれば、閉じこもって用心に用心を重ねていても、どういうわけか当たりまくる人もいる。
一切弾に当たらない人から見たら、人生はもっとずっとイージーなものなんだろう。
そういう人たちから見たら、なんでできないの?何やってるの?と不思議に映るかもしれない。
とにかく個人差と言うものはある。
夏に蚊に刺されやすい人もいれば、ほとんど刺されない人もいるみたいに。
最近、大学のwebサイトにある掲示板をちょくちょく見ている。
生徒が自由に記入できるようなので、雰囲気も分かる。ちゃんと管理されているし、学生証の番号を入力しないと入れないから、比較的安全な気がする。女子大だから、という安心感もある。
そこに、ここから歩いていける範囲にあるコンビニの、マスク販売状況が載っていた。
「店員さんに聞いたところ、午前10時くらいに入荷しているそうです!」と。
このあたりには大学がいくつかあるし、うちの学校の生徒も結構住んでるのかもしれない。
いい情報ゲットかな?
マスクはもうすぐなくなりそうだし、買い物ついでに行ってみることにした。
マスク売り場は、ガラガラだった。
今後入荷の予定はありません、と張り紙が貼ってある。
デマだったのかな。騙された!
牛乳とヨーグルトと昼ごはんを買って外に出ると、知らない女の人が声をかけてきた!
「あの、○○女子大の方ですか?」と。
びっくりして咄嗟に、「え?えっと・・・」
と言ってしまった!
これじゃ「そうです。」といってるようなもの。シュミレーションしておくべきだった。今後は絶対に気をつけなきゃ。
同じ年ぐらいで化粧ッ気のない、どちらかというと素朴な感じの女の子だなあと思ったら、
その子は、自分も○○女子大の掲示板を見てきた、と言った。
マスクなかったですね。どこで買えるんだろう、などと話した後、「あの、何年生の方ですか?」と聞かれた。
他人と話すのは久々で、何だか面食らって聞かれるままに「一年生です。」と答えてしまった。
「ほんと?私も一年なの!」「知り合い居なくて寂しくて」と食いつき気味にまくし立ててきた。
彼女は、美優、と名乗った。
ソーシャルディスタンス!
一歩離れたかったけど、あからさまに失礼な気もするし。。
少し背中を反らした体勢で固まってしまった。
そこへ通りかかった別の女の子に、美優は私にしたのと同じように話しかけた。
きれいな子だった。髪は巻いて、薄く化粧もしてる。服もカバンも、私の目からも明らかにいいものだと分かった。雑誌から出てきたみたい。都会の女の子ってこんな感じかな。
祖父からもらった登山帽が急に恥ずかしくなった。
「ね、せっかくの御縁だし、良かったらlineしよう」と美優は提案してきた。
一瞬怯んだ。
私は、巻髪の女の子がどう出るか窺うことにした。
「あ、ごめん。私急いでるんだ。またね!」
と去ってしまった。
私も去らなきゃ。
「わたしラインやってないんですよ。ごめんね。」
と引こうとすると
「あ!じゃあメールアドレス!交換しよ!。学校の情報共有できるし、一人でも知り合いがいるって安心感あるしさ。ね。」
と食いつかれた。
う~ん。。
確かに、誰か一人でも知り合いがいるって心強いかも、と思い直した。悪い子じゃなかもしれないし、これを機に友だちになれるかもしれないし。。。
美優とメールアドレスを交換した。
途中まで一緒に、と美優はくっついてきた。自分は長野県からきたのだと話し始めた。
何となく、住んでるところを知られるのは嫌だな、と思った。同じように上京してきて、寂しくて声かけてきただけで、悪い人じゃないかも。
でも会ったばかりだし。
どうしようか困っていると、
「じゃあ、私こっちだから。」と途中で別れることになった。
あ~よかった!ホッとした!
自分が美優に対して、ものすごい警戒心を持っていたことがわかった。
いつも必要以上に警戒しすぎなんだよなあ。ちょっと反省。
せっかく新しい世界に出てきたんだから、今までと同じじゃもったいない。意識して見聞を広げなくては。
マンションの入り口でさっきの巻き毛さんに会った!ここに住んでたのか。。
どうしよう、と思いつつ、会釈した。
巻き毛さんは私の顔を見て、「あ、さっきの。」と言った。
彼女は
「先、行っていいよ。」といって入り口付近に設置してあるベンチに座ってバッグからスマホを取り出した。
あ、そうか。エレベーター一緒に乗るの気まずいからかな、と思ってエレベーターのボタンを押した。
「ちょっと待って!」と後ろから声がしたからびっくりした!
「余計なお世話かもしれないけど、階段から上がったら?私は見ないけど、見ようと思えばあなたが何階で降りたか分かっちゃうんだよ?」
「え?あ!そっか!すいません!ありがとうございます!」
私より用心深い人がいた!見た目派手なのに意外!
「ノリコっていいます。名前聞いていいですか?名字だとポスト見たらわかっちゃうから名前で。」
ノリコ!古風な名前!
「あ、タカコです。」(私もか)
ノリコは、機会があればよろしく、と言ってスマホ画面に目線を戻した。
なんかかっこいい。
帰ったら美優からメールが来ていた。
大学の掲示板を見たら、マスク入荷するそうです!という記事が削除されていた。