4月10日(はじまり。モスグリーンの理由)
新しい季節。地方から進学してやっと一人暮らしが始まったというのに、まさかの感染症による非常事態宣言。
学校再開のめどはたたないし、バイトを探そうにも、募集がない。
良く言えば、与えられたことをまじめにこなしてきた、悪く言えば考えることをせず安全と思しきレールに疑いもせず乗ってしまった”私”、ことタカヤマタカコさん。
初めて与えられた”何にもしなくていい時間”に戸惑っています。
おばあちゃん、起きたかな。今日はどっちが早いだろう。
相変わらず、朝一番に布団の中で考えてた。
ここはみんながいる、あの家じゃない。
慣れないフローリングの床と、カーテンの隙間から細い光の筋が見えた。
目覚ましはまだ鳴らない。
1人なんだし、予定もないし、いくら寝てたって誰にも怒られないんだから、目覚ましなんてセットしなくていいのに。
実家にいた時と同じ6:30にセットしている。
しかも、目覚まし時計とスマホ、二重で。
もうすぐ一斉に鳴りだすから止めとこう。
カーテンの色って、部屋の大部分を占めるんだな。
それならもっと考えればよかった。
深緑色のカーテンは自分で選んだ。
(ホームセンターで)
深緑色、嫌いじゃないんだけど、別に好きってわけでもない。
外から見て、性別も年齢も判断できなさそうだから、これにした。
防犯上、これがいいと思った。
しかも、分厚い遮光カーテン。夜、光が洩れて危ない人に目を付けられないように。
これからここで一人で暮らすんだから、できるだけ隙は見せない方がいい。
都会は怖いと言うし。
今日の予定は、ない。
4月6日に感染症による非常事態宣言が出てからと言うもの、学校の再開のめどは立たないし、バイトを探そうにも募集もない。
予習しようにも、教科書の配布もまだ。
なにもやることがない。
落ち着かない。何をすればいいんだろう。
政府が”何もしなくていい時間”と言っているんだから、しなくていいんだろうけど。
どうすればいいの?
せっかく新しい町に越してきたのに、探検することもできないし。
誰一人知り合いもいない。
とりあえず
窓際に座布団を二枚並べた。
自分用と、母が上京した時用の、二枚だ。
その上にごろんと寝そべって、積読の本を読む。
家事が済んだ祖母が、よく畳の部屋でこうやって本を読んでたな。