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3話

「作るって……。あなたたち、廃墟で寝なくちゃいけないようなホームレスなんでしょ?」

「大丈夫だ。キッチンにはアテがある」


 リディアの疑わしげな視線に、ダニエルは意味ありげな笑みで応える。

 彼が弾むような足取りで向かったのは、ごく普通の民家だった。


「おばちゃーん! キッチン貸してくださーい!」

「普通に借りるんかい!」


 リディアのツッコミを背中に受けながら、ダグラスがドンドンとドアを叩くと、ドアが内側から開けられた。出てきたのはごく普通のおばちゃんだ。


「あら、ダニエルくん! いらっしゃい」

「あれっ。おばちゃん、髪切ったね!」

「わかる〜?」


 やたらダニエルと親しげな様子である。


「今日は何するの?」

「ラーメンを作るんです」

「楽しそうねぇ。どうぞどうぞ」


 とつぜん家を訪ねたホームレスに何の警戒も見せず、おばちゃんはドアを大きく開けて全員を中に招いた。


「あっさり貸してくれるわね……」

「おやびんは人たらしなんです」


 驚きを通り越して呆れているリディアの隣で、タマが淡白に言った。

 さっそくキッチンに立ったダニエルが、黒手袋を薄手のゴム手袋にはめかえている。リディアは彼の隣に歩み寄った。


「何味のラーメンにするのよ?」

「うーん……おばちゃん、調味料って何がある?」

「これこれ」


 おばちゃんが戸棚を開けた。中に瓶詰めの調味料がずらっと並んでいる。


「コンソメと塩コショウ……」

「塩ラーメンね」


 ダニエルは、家の中のものを勝手にいじっていたポチとタマに財布を預けた。


「ポチタマ、おつかい行け」

「うーい。行くか、アネキ」

「はい、アニキ」


 ポチとタマが連れ立って家を出ていく。それを見送ったリディアは、背中側で自分の手首を軽く掴み、ダニエルを見上げた。


「あの子たち、ダニエルの子ども?」

「違うよ」

「じゃあ兄弟?」

「他人だけど。ちなみにアイツら同士も他人」

「えっ」

「えっ」


 驚くリディアをダニエルは意外そうに見下ろし、視線を彷徨わせた。


「あの……アイツらは俺の子分、的な」

「子分……」


 複雑な関係のようだ。

 ダニエルはボウルをテーブルに出すと、粉に水を加え、混ぜてぽろぽろになった生地に濡れフキンをかぶせた。


「これでしばらく寝かせます」

「はあ(爆弾のこと忘れてないよね、この人……)」


 ダニエルは生地を寝かせているボウルのそばで、自分も眠るようにまぶたを閉じている。

 しばらくの後、カッと目を開くと、生地から濡れフキンをどけた。黄色みを増したぽろぽろの生地を一つにまとめていく。

 ぽろぽろだった生地は、だんだんと固まっていき、やがて一つの丸い塊になった。


「爆弾みたい」


 ダニエルが柔和に微笑んでリディアを見る。リディアは微笑み返しながら(殴られたいのか?)と思った。

 そのとき、お使いに行かせていたポチとタマが帰ってきた。


「おやびん、お野菜を買ってきました」

「お釣りはお小遣いにしていいよな?」

「しょうがねぇな。大事に使いなさいよ」


 二人が買ってきたのは、ニンジンと白菜とネギ。これをスープの具にする。


「じゃあ二人ともお手伝いして」

「何すんの?」


 興味を示した二人の前で、ダニエルはボウルから取り出した生地を、打粉をまぶした台の上に乗せた。


「こうして」


 生地を伸ばし、


「こう」


 まとめる。


 要約すれば簡単な作業だが、お手本を見せたダニエルはすでにちょっと息が上がっている。


「やる!」

「任せた」


 義手をキレイに洗ったタマが、丸い生地の上に軽く握った拳をかざした。

 そして叩く。ひたすら叩く。一秒間におよそ七回。みるみるうちに生地が広がる。

 ある程度生地を伸ばすと、ポチが横から丁寧に生地を丸め直した。それをタマが再び連打する。

 それが終わると、ポチが麺棒で地道に生地を伸ばした。生地をセットされたパスタマシンのハンドルを、タマが滞りなく回す。

 二人が麺を作っている間に、リディアとダニエルは悠々とスープ作りに勤しんでいた。白菜と短冊切りにしたニンジンをスープで煮込み、完成した麺を茹でる。お湯から上げて水を切り、どんぶりに盛り付けた麺に、スープをかけた。


「できたー!」


 ダニエルが達成感に満ちた声を上げる。


「お肉がないと寂しいわねぇ。ちょっと待ってね」


 のぞきに来たおばちゃんが、わざわざ持ってきた焼豚をスライスして、それぞれのどんぶりに盛り付けた。


「ありがとう!」

「いいのいいの」

「おばちゃんの分も作ったよ!」

「あらぁ〜」


 ダニエルにどんぶりを見せられ、おばちゃんは嬉しそうに頬を押さえた。


「できたー!」


 二回目である。

 厚意により焼豚を得て、ダニエルの声がさっきより若干高い。

 おばちゃんを含めた五人は仲良くダイニングテーブルを囲み、できたてのラーメンを実食した。


「あたし……いきなり知らない人たちとご飯食べてる……」


 まだ手を付けていないラーメンを見下ろし、リディアは呟いた。どうしてこうなった、という感想が強い。


「すごくおいしいです!」

「一生ついていくぞ、おやびん!」

「ふふふ……お前らが手伝ってくれたからな」


 ダニエルとポチタマは非常にいい雰囲気だ。


「ダニエルくんは料理が上手なのよ」

「あ、はい……」


 おばちゃんに愛想笑いをして、リディアは麺をつるつるすする。


「ホントにおいしい」


 ホントにおいしい。

 リディアは目を丸くして顔を上げた。


 しっかり後片付けまで済ませ、おばちゃんに丁寧に感謝を伝えて、一行はもとの位置まで戻ってきた。


「ふー、満腹満腹。で、なんだっけ?」

「爆弾!」


 あまりに緊張感のないダニエルに、リディアが声を張り上げる。

 周囲の人々の視線が一斉に彼女に集まった。


「ちょっと! 大きな声で言わせないで!」

「そっちが勝手に大きな声出したんじゃん……」


 リディアからちょっと距離を取ったダニエルが、唇を尖らせた。


「片足突っ込んじゃいましたね、おやびん」

「こうなりゃもう雇われてやるしかねーよ」

「そうみたいだな……」


 ラーメンを一から作って食うという意外と長いプロセスを間に挟んだが、おかげでダニエルが多少はやる気になってくれたようだ。


「ゴールは何? 俺の仕事は何をすれば終わりなワケ?」


 あからさまにしぶしぶ尋ねてくるダニエルに、リディアはキッパリと言い放った。


「ヒュドラを見つける」

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