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2話

「すごい! あんた、もしかして腕利きの傭兵か何か!?」


 大興奮のリディアが男に駆け寄る。


「は? 傭兵? 何言ってんだこのアマ、おやびんはな――」

「ポチくーーーん!! 知らない人が来るとすーぐ無駄吠えするんだから、もー!」


 男が大声で少年を遮った。耳をふさいで嫌そうな顔をする少年は、ポチというらしい。


「よく分かんねぇが、ワケアリみたいだな……。ぶっちゃけ怖いし関わりたくないけど、一緒に警察行くくらいならしてあげるよ」


 男はズボンのホコリを払いながら、リディアに目を向けた。


「警察に行っても、信じてくれないよ……。まずは話だけでも聞いて」

「あ……話しちゃう? 聞いてないのに事情話しちゃうんだ?」

「フット・イン・ザ・ドアの手口ですね」


 少女が冷静に口を挟む。


「ヤツらが狙ってるのは、コレ」


 リディアはそう言いながら、首にかけているネックレスをつまんで持ち上げた。透き通った青色の、雫型の石がついている。


「キラキラ、欲しいです。よし買った」

「タマちゃん! さっき露店でオモチャの指輪買ってあげたろ!」


 少女が男にコツンと頭を叩かれた。少女の方はタマというようだ。


「で、何それ?」


 タマと男をよそに、ポチが話を進める。


「これは、爆弾の起爆コード」

「きばくこーど!?」


 リディアが答えると、男はポチとタマを腕に抱えて、猛烈な勢いでリディアから距離を取った。


「死にたくない! 殺さないで!」

「これ自体は何の害もないわ。でも、これを爆弾の遠隔起爆装置に入力すると……」


 リディアは声を落として語り、握った両手を合わせた。「ドン」と言って両手を開く。


「ひいぃ……」


 男の顔が青ざめる。


「爆弾は起爆コードとセットじゃないと使えない。だから爆弾を売ろうとしてるアイツらは、なんとしてもコードを手に入れたいの」

「ア、アイツらって……?」

「食いついちゃダメですよ、おやびん!」

「あっ!」


 タマにつつかれ、男は慌てて口を押さえた。


「テロリストと癒着してる密輸組織よ」

「ほらー、聞いちゃった」

「うぅ……」


 リディアがすかさず答えると、ポチが顔をしかめる。男はバツが悪そうにうめいた。


「あなた、名前は?」

「……ダニエル」


 リディアの質問に、男――ダニエルは、観念して答える。

 リディアは表情を引き締め、ダニエルと向き合った。


「ダニエル。あなたの腕を見込んで、仕事を依頼するわ。あたしの用心棒になって」

「いやです」

「オッパイ触ったくせに!」


 ポチとタマが「え……」と声を揃えてダニエルを見上げる。ドン引きだ。


「あれは事故! 事ー故!」


 ダニエルは顔を真っ赤にして叫んだ。わざとらしく咳払いして、真面目な顔つきになる。


「明日、警察に行こう」

「だから無駄だって」

「女の子だから信じてもらえないんだ。男の俺が行けば、絶対動いてくれる」


 リディアは納得いかなさそうだ。


「今夜は俺のところに置いてやる。明日は絶対警察に行くんだぞ」

「わからずや」

「なにをぅ!?」


 結局、リディアが何を言ってもダニエルの意思は変わらず、四人は場所を移して夜を明かした。

 ――次の日。

 ダニエルは朝一番で警察を訪れた。


「だーかーら! 爆弾持ってる悪いヤツらが、女の子の命を狙ってるんだって! 信じてよ!」

「わかったって言ってるだろ。ちゃんと捜査するから、帰った帰った」


 気だるそうに応対してくれた警察官は、足を組んでタバコをふかしながらガリガリと頭をかく。


「絶対信じてねぇじゃん!」

「やかましいなぁ。しつこいと逮捕だぞ」


 警察官はうっとうしそうにダニエルを睨むと、低い声で脅迫した。

 どんなに一生懸命訴えてもぬかに釘。ついに根負けしたダニエルは、つま先で小石を蹴りながら警察署を後にし、外で待っていたリディアたちと合流した。


「うぎぎ……善良な一般市民の声を踏みにじりやがって……」

「おやびんみたいな二十八歳独身マザコン足臭ホームレスの言うことなんか、誰も信じないぞ」


 ポチが頭の後ろで両手を組みながら言う。ダニエルはぐっと背をかがめて、ポチと目の高さを合わせた。


「臭くない」

「臭い」

「臭くない!」


 おそらく一回り以上年下のポチ相手に、むきになって言い返している。リディアは軽い頭痛を感じて額を押さえた。


「このお姉ちゃんに判定してもらいますか?」

「よーし」


 タマにそそのかされたダニエルが、張り切って靴を脱いだ。リディアは苦い虫でも噛み潰したような顔で飛びのく。


「無関係なあたしを巻き込まないでよ!」

「「「お前が言うな!!」」」


 ダニエルたちが声を揃えて抗議した。


「あー……腹減った。とりあえずなんか食べよう」


 ダニエルが困り顔で頭の横を手のひらで押さえた。


「食べよー!」

「食べましょう!」


 ポチとタマがそれぞれ右手と左手を挙げた。


「自分で雇っといてなんだけど、ホントに頼りになるのかな、この人……」


 白い歯を見せて笑いながらポチとタマの頭を撫でるダニエルを横目で眺めて、リディアは呟いた。


「ランチのリクエストがある人は?」

「ボクはなんでもいいよー」

「右に同じです」

「そういうのが一番困るんだって!」


 あっさりした答えを返すポチとタマに、ダニエルが苦笑する。

 おずおずと手を挙げたリディアに、三人の視線が集まった。リディアは恥ずかしそうに斜め下に視線を落とす。


「ラ……ラーメン……」

「らーめん?」


 三人が目を丸くしてオウム返しした。


「知らないの?」

「俺たち、あちこち旅してるからな」

「しかも全員チ○カス並みの身の上」

「知らない料理があっても、さもありなんです」

「…………それにしてもチ○カスはひどくない?」


 ダニエルが真面目な顔でポチを見下ろす。ポチは聞こえなかったフリをした。


「ラーメンっていうのは……」


 リディアは三人にラーメンのことを詳しく説明した。聞いているうちに三人の目がらんらんと輝き始め、口からヨダレがあふれてくる。


「聞けば聞くほどおいしそう……」

「今日はもうラーメンの気分だ。おやびん、よろしくー」

「タマもラーメンがいいです」


 満場一致でラーメンだ。


「よし! 作ってみますか!」


 ダニエルは腕まくりして、張り切った声で言った。

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