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×6 偶然出会った4人目の仲間、そして新たな目的

 


 大図書館二階、本棚近くのテーブルにシェリィたち三人はついていた。


「3だ! いちにぃさんっと、恋人が出来るだってー! 気力が全回復! ひゃほー」


 外すことの出来ない腕輪が、彼女たちの記憶喪失に関係しているはずだと考え、腕輪のことを調べるためにこの大図書館までやってきたはいいのだが……


「私の番だね、えいっ……やった、6が出たよ。……え~仕事をクビになる……収入がゼロに……」


 呪物などに関する本や資料が、何者かによって持ち去られてしまっていたのだ。

 現在三人は犯人を捜しているのだが、まるで手掛かりが掴めていない。


「おっしアタシの番ね、おりゃ! はぁ!? 1って……ゲッ!? 便秘が悪化して切れ痔になる……今後順番が来る毎にダメージって何よコレ!」


 犯人は犯行現場に戻るかもしれない、というルキの提案を聞き。現在、本棚を監視出来る位置で張り込みを行っているのだ。


「んが~! もうこのゲーム飽きた! 毎回ルキが勝つし!」

「そりゃそうだよー、あたしイカサマしてるもん」


 テーブルの上にサイコロを転がすルキ、出た目は6だ。


「アンタこんなことまで出来たの……」

「回し方と力加減をちょっと工夫すれば行けるかな? って思って試してみたら意外と出来た! なはは」

「凄い! どんなゲームしてもルキちゃんが一方的に勝っちゃいそうだね」


 張り込みは今日で二日目、最大の敵は……飽きる事だった。


「はぁ~~~~~、ほんっと暇ね。そもそも犯人が戻って来るってのも怪しい話だし」

「次の本を取りに来るって可能性に賭ける感じかなー」

「なんの手掛かりも無く、この大きな町を探して周るよりはマシかなって思うよ……」


 そうは言っても望みが薄いことに変わりはない。三人そろってため息をついてしまう。その時だった――


「んんっ!?」


 ルキが本棚の方を見て何かに反応する。


「なによ、またうんこ?」

「い、いた……」


 本棚の方を指差すルキ。シェリィとクイナもそちらに目をやる。

 空になった本棚の前に、一人の女の子が立っていた。

 年齢はクイナと同じくらいだろうか。ピンク色の髪を二つ結びにした、とても可愛らしい女の子だ。

 ゆったりとした、法衣のような服を着ている。


「下手人だぁ! ひっとらえろー!」


 ルキの声と共に三人は素早く動き、女の子を取り囲んだ。


「はええ!? な、なんですかぁ?」

「うらぁ! 捕まえたぞー!」

「単刀直入に聞くわよ。ここにあった本を知らない? 最近盗まれちゃったみたいなんだけど」


 ルキが羽交い絞めにした女の子に、クイナが問う。

 指をポキポキ鳴らしながら威嚇も忘れない。こういった状況で暴力をチラつかせるのは基本である。


「し、知らないよぉ……わたしも調べたいことがあって来ただけだし……」

「ホントかしらぁ!? ああん!?」


 涙目の女の子に、クイナがぐいっと顔を近付けた。

 血走った目が限界まで開かれている。怖い。


「クイナちゃん、この子怖がってるからもっと優しく……ね?」

「ん……シェリィが言うなら」


 引き下がるクイナに代わって、今度はシェリィが問う。


「私たちも調べたいことがあって来たんだけど、本が無くて困ってたの。どんな小さなことでもいいから……何か知らないかな?」

「わかんない……」

「ほんとかー? このだらんとした服に本でも隠してんじゃねーだろーなー」


 ルキは女の子の服に手を突っ込みまさぐり始めた。指の一本一本を器用に動かし念入りに。


「ひゃあっ!? やめてやめ……あぁっ」


 女の子は頬を赤く染め、逃げ出そうとするもルキの魔の手からは逃れられない。


「ハァッ!? こ……この女ぁ……」


 何かを見つけ、ルキが目を見開く。


「どうしたのルキ!?」

「で……でかい!!! シェリィよりも!!!」


 シェリィとクイナは黙り、女の子の胸へ視線をやる。


「それとこの子、あたしたちと同じ腕輪つけてたよ」


 女の子の袖をぐいっとまくり腕を露出させる。そこにはシェリィたちと同じ黒い腕輪があった。


「そっちを先に言いなさいよ!」

「じゃ、じゃあもしかしてこの子も私たちと同じ!?」

「へっへっへ、巨乳のねーちゃんよ。ちょっとツラ貸してもらおうじゃねーかー」


 女の子の前で勝手に話を進めていく三人。ルキに至ってはほぼチンピラである。


「な、なんなのぉ……この人たち……」


 何の説明も無しに宿の部屋へと彼女を連行していく。やっている事が完全に人さらいだ。



 宿の部屋へ女の子を連れ込みベッドに座らせ、シェリィが事情を説明していく。

 最初こそ警戒されていたものの(当然と言えば当然だが)話を続けるうちに、次第に女の子の態度は柔らかく変わっていった。


「それで、大図書館で待っていたところに現れたのがあなただったの。ごめんね……びっくりさせちゃって」


 説明が終わり、あらためて謝罪するシェリィ。


「そうだったんですね……シェリィさんたちもわたしと同じ……」

「やっぱり、アンタも過去の記憶が無いわけ?」

「うん、気が付いたらお寺にいて看病されてたの」

「お寺?」

「この町にある寺院だよ。親に捨てられてたわたしはそこで育ったんだって。覚えてないんだけど……」

「記憶が無い状態で故郷にか、クイナちゃんと同じだね」

「記憶を失う前のアンタが何やってたかは、聞いてないの?」

「それが……」


 少し言い淀んでから、女の子は語りだした。


「わたし、『勇者様』と共に『魔王』と戦わなきゃならないって言いだして、お寺を飛び出しちゃったんだって……それから行方が分からなくなって……戻ってきた時にはお寺の前で気絶してたって……」

「な、なんだか話がずいぶん大きくなってない!?」


 魔王といえば魔族の頂点である。圧倒的な力を持ち、数百年に一度現れ人類に害をなす存在。

 しかしその都度、人類側から現れた英雄によって倒されてもいた。


「わたしだって信じられないよ。でもわたし、お寺ではかなり強い力を持ってたみたいで、誰も止めなかったし疑わなかったって」

「んでさ、その魔王って今どうなってんのー?」

「え~とね、魔王軍の本拠地があった大陸に今は行けなくなっちゃったから、確認は取れないらしいんだけど……最近各大陸でモンスターがバラバラに動き始めてて、何者かによって魔王が倒されたんじゃないかって噂になってるみたい」


 シェリィは以前戦ったオークや牛男の事を思い出していた。彼らは確かに好き放題動いていたように思える。


「最近……か。アタシたちが記憶を無くした時期と重なるっちゃあ重なるわね」

「えー! それってあたしたちが魔王を倒した勇者様ってこと?」

「あくまで時期が重なるってだけよ」

「結局……本当のことなんて、記憶が戻らなきゃ分からないってことだね……」


 少し残念そうに、シェリィが締めくくった。



「あ! わたし自己紹介まだしてないよ」


 パチンと手を叩いて立ち上がる女の子。


「わたしはね、『メリル』っていうの、よろしくね~」


 間延びしたような話し方で、メリルは可愛らしく、花が咲くように笑った。


「ぐわー! 眩しい! 癒しオーラが眩しい!」


 わざとらしく目を手で覆うルキ。


「メリルはさ。強い力を持ってるって言ったけど、何が出来るのかしら?」

「操気法っていう、気を操る技が使えるよ~」

「木?」

「人間の生命エネルギーのことを気って呼ぶんだけど、その気を操って怪我を治したりとか、色々出来るんだよ」

「怪我を治せるの!?」


 珍しく大きな声を出すシェリィ。


「うん、ルキちゃんちょっとこっち来て~」

「お? なんだなんだ」


 メリルが腰かけているベッドに、ルキがサッと近付いた。


「ルキちゃんのほっぺたのとこ、ちょっと傷が出来てるよね」

「んあ?」


 ルキの頬を指差し、シェリィとクイナに確認する。


「これを、こうしちゃいます」


 ぽん、と軽く両手を合わせ、人差し指でルキの傷をなぞるメリル。

 すると、白い煙をあげながら、ルキの傷が塞がっていく。


「じゃ~ん、綺麗になっちゃいました~」

「おおー!」


 驚きの声をあげ、シェリルとクイナが拍手をした。さながらマジックショーだ。


「メリルちゃん! これって私にも出来ないかな?」

「シェリィさんの才能にもよりますけど……早くても十年はかかると思います」

「十年かぁ……」


 がっくりとうなだれるシェリィ。怪我が治せれば、ルキやクイナの役に立てると思ったのだが、そう簡単ではないようだ。


「他者の肉体や空間に作用する外気功は、生まれ持った才能と修行が不可欠なんです。普通は何十年も修行して出来るかどうか……ですね」


 これが出来る私は結構凄いんですよ~、と大きな胸を張るメリル。だぼっとした法衣の上からでも強調される。


「すげー! メリルすげー! (むほー! デケー!)」

「へぇ、凄いじゃない……(で、でかいわね……)」

「メリルちゃん……凄いね……(大きいなぁ……)」


 顔よりもちょっと下に目線を向け、メリルを褒める三人。

 長くなるので省くが、気を操るメリルは本当に凄いのだ!



「みんなはこれからどうするつもりなの?」


 首をかしげながらメリルが聞いてきた。動作がいちいち可愛い。


「私たちも困ってるの……手掛かりが何も無くて」

「正直メリルと出会えたのが最大の収穫よね。奇跡って言ってもいいくらいだわ」

「本を持ってった犯人もみつからねーしなー」


 冷静に考えれば考える程、どん詰まりに近い状況である。三人のテンションは低い。


「その、本の事なんだけどね。まだちゃんと確認出来てないんだけど……取られちゃったのは、呪物なんかの本なんだよね?」

「そうだけど……メリルちゃん、何か考えがあるの?」

「うん! みんなと会うまでは確信が持てなかったんだけどね。記憶が無いのが腕輪のせいだって分かってるなら、なにも腕輪の事について知らなくてもいいと思うんだ」

「どういう事よ?」


 腕組みをしたクイナが訝しげに尋ねる。


「だからね、腕輪を何とかする方法を調べちゃえばいいんだよ! 呪いを解く魔法とか、道具とか、探したら何かあるんじゃないかなぁ」


 雷に打たれたような顔で固まる三人。口を大きく開いたままメリルを見つめている。


「……あれ?」


 困惑するメリルから視線をそらさず、プルプルと震えだす。


「な……なんでそんなことに気付けなかったのかしら……」

「私たち……あれだけ本がある中で何やってたんだろ……」


 ボードゲームしてたね。


「ひゃっほー! メリル最高だー!」


 元気を取り戻したルキの手がピヒュンと走る。そしてその手には、パンツが握られていた!


「こ、これは! フリフリのピンクじゃあねーか!」

「……えっ!? あれっ? えっ? ……そ、それわたしの……か、返してぇ……」


 頬を赤く染め、涙目でルキに寄るメリル。


「くっ……反応まで百点満点じゃあねーか!」


 かわいそうだったのですぐに返してあげました。



「あっさり……見つかったね」


 神秘! マジックアイテムの世界! という、胡散臭い本を開いてシェリィが複雑そうな顔をする。

 開かれたページには『解呪の石』という物が紹介されていた。名前だけでも効果が伝わりそうだ。

 現在四人でこのページを覗き込んでいる。


「なになにー? 『どんな呪いもこれ一つあれば大丈夫! カエルにされたお姫様も、一瞬で元通りになりました!』……だってさー」


 やや高めの声で、早口気味にルキは読み上げた。こう読まれると余計胡散臭い。


「いや、絶対怪しいでしょコレ。実在したとしてもホントに効果あるか分かりゃしないわ」


 クイナは腕組みをした状態で目を細める。


「あっ、でも『ランジール』って国のお城で保管されてるみたいだよ~。王様に取材しに行った話が載ってるもん」


 少し希望を持った様子のメリル。国で管理されているというのであれば、一気に信憑性も増す。

 ちなみに取材は断られたらしく、本にはランジール王への不満が並べられていた。


「解呪の石……譲ってもらうのは無理だと思うけど、事情を説明すれば貸してもらえるかもしれない……」

「ま、他にアテもないし、行ってみるのもいいんじゃないかしら」

「行こう行こう! 図書館にこもってるのはもう飽きたよ!」

「あの、わたしもみんなと一緒に行っていいかなぁ? やっぱり記憶のこと気になるし」

「もちろん、メリルちゃんも同じ境遇の仲間だもんね」

「アタシもいいわよ、気の使い手なんて面白いし」

「行こう行こう! メリルもいこー! 仲間は多い方が楽しいよ!」

「えへへ~よろしくね! みんな!」


 失われた記憶を求める新たな仲間、操気法士メリルを加え、シェリィたちはレイドルの町を旅立って行く。

 目指すはランジール王国の解呪の石。腕輪を外し、過去を取り戻すための旅は、まだ始まったばかりだ……




 視点は変わり、ここはレイドルの港。

 出港直前の船の上で、謎の少女が本を開いている。

 指輪をいくつもつけた手であごを掴み、何か考え込んでいた。


(大きな……勘違いをしていた……この腕輪は『呪物ではない』)


 本をぱたん、と閉じて、取り出した小さな革袋に入れようとしている。

 明らかに革袋の方が小さいのだが、本は吸い込まれるように入っていった。

 謎の少女は考え事をしながら、船室へと向かって歩いて行く。


(記憶を取り戻すためには、腕輪についてもっと知らねばならない……)


 そんな事をしながら歩いているせいで、目の前の段差に気付いていない。足が引っかかりそうだ。


(そのためにも向かわなければ、『妖精族の城』へ!)


 足が、引っかかる。


「えっ? ふぎゃっ!」


 すてーんと前方に大きく転んでしまう。スカートがぶわっとめくれ上がり、可愛いパンツが丸見えになってしまった。


「おっ! ラッキー」


 たまたま近くにいた、他の客の声が聞こえた。


「だ、誰ですかぁ!? 見ましたね!? わたくしの下着を見ましたね!? 潰してやる! 目を潰してやるぅ!」


 真っ赤な顔で飛び上がり、片手で刀を抜き放つ。もう片方の手は電気をまといバチバチと音を立てていた。流石に怒りすぎだ。


「ふーっふーっ……くそっ、逃がしたか」


 パチン、と刀を鞘に納め、気分を落ち着かせる。


「まったく下品な……これだから男という生物は……ぶつぶつ……」


 なにやら呟きながら、再び船室へと向かって歩き出した。これだとまた転ぶんじゃないかなぁ……


「ふぎゃっ」


 ほらね。







 







 



































 










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