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×40 思い出シーカー 『シェリィ』



 大きな、大きなイビキに包まれて、彼女は目を覚ました。

 彼女の名前はシェリィ。長い黒髪を持つ、美しい影の魔人。


「フフッ……」


 お腹を出して寝ているルキを見て、クスリと笑い、服をなおしてやる。

 ここは旅館ジュリ屋の二階。畳の大広間。

 昨夜遅くまで宴会をしていたため、まだ全員が寝ている。

 皆を起こさないように、彼女は一人でそ~っと部屋を出て行った。




「シェリィさん、おはよう!」

「おはようございます」


 町の人から挨拶をされて返事をする。

 美人の彼女はイカホでは人気者だ。

 明るく輝く朝日を全身に浴びながら、彼女は町の中を歩く。


(こんなにも……あたたかいものだったんだな……)


 幸せそうに町を歩き、立ち寄った店でお茶をする。

 店の主人とはもう顔馴染み、何気ない会話をしてから店を出た。




「……ただいま」


 小さな声で言いながら、ジュリ屋へと戻って来た。


「おかえりシェリィ。早起きだな? 素晴らしいぞ!」


 受付でふんぞり返っていたのは魔女ジュリアンテ。


「丁度えるくが二階へ朝メシを持って行ったぞ? 食べて来るといい」

「はい、いただきますね。あの……ジュリアンテさん」

「なんだ?」

「エルクちゃんのこと……お願いします」

「くはは……何を言い出すかと思えば! 迷惑をかけるのはこちらの方だな? くははは!」


 その言葉を聞いて彼女は困ったように笑う。

 冗談で言っているわけではなさそうだ。

 エルクの胃と血管が心配になる。



 シェリィはそのまま台所へ、寝癖で髪がボサボサになったオウカがいた。


「う~~~……昨夜は飲み過ぎたな、本当に……魔王が倒れたと聞いて気が抜けてしまったのかもしれん……」


 オウカは水を飲んでため息をついている。


「オウカさん、おはようございます」

「ああ……おはよう、シェリィ。元気そうだな……そういえば昨夜は飲んでいなかったな」

「今日は……行かなければならない所があるので……」

「そうか、私は部屋で寝直すとするよ……」

「あの! オウカさん……」


 部屋に戻ろうとしたオウカを呼び止めた。


「なんだ?」

「今まで、本当にお世話になって……ありがとうございました」

「ハハ、お節介が好きだと言っただろ? 気にするな! 君たちのおかげで頼りになる助手も確保できそうだしな!」


 笑いながら、オウカは部屋に戻って行った。



 次は二階へ向かって階段を上がる。

 丁度、えるくが上から下りてきた。


「お、しぇりぃか! あさめしのよういをしておいたぞ! はやくあがってくえ! さめたらあじがおちる」

「うん! えるくちゃん。いつも美味しいご飯をありがとう」

「かまわんかまわん、かまわ~ん!」


 そう言って一階までジャンプしたえるく。

 無表情ではあるが、なんだか嬉しそう。

 それを見た彼女は一瞬心配そうな顔をするが、すぐ笑顔に。

 再び階段を上り始めた。



 階段を上り、二階が近づくと騒がしい声が聞こえてくる。

 ここからでは会話の内容は分からないが、聞きなれた四人の声だ。

 聞いていると、胸がいっぱいになる声だ。


「フフッ……」


 笑いながら、彼女は階段を上がっていく。



「ただいま、みんな」

「あっ! シェリィ! おかえりー!」

「もっしゃもっしゃ……おはへりへひい(おかえりシェリィ)」

「シェリィさんどこ行ってたの~? 心配しちゃったぁ」

「おかえりなさいシェリィさん。朝食先にいただいてます」


 既に食事を始めていた四人、彼女にとって、かけがえのない仲間だ。


 自分の席に座り、彼女は少し考え始める。

 ルキがその様子に気付いて、食事の手を止めた。


「シェリィ……?」


 他の三人も気付く、視線が彼女に集まる。


「あっ……ごめん、食べながらでいいよ?」


 そう前置きをして、シェリィは話す。


「今日ね、行きたいところがあるんだ。この五人で……なんだけど……いいかな?」

「わたくしは構いませんが……」

「アタシも良いわよ?」

「わたしもいいよ」

「……分かったよ、シェリィ」


 少し間を開けてから、ルキが聞いた。


「どこ行くの?」


 彼女は、笑顔で答える。


「…………魔王城まで」




 朝食が終わり、準備をしてから、五人は魔王城の入り口へ転移した。


「あんまり食後に来たいところじゃないわね……」

「フフッ……ごめんね、クイナちゃん。これで最後だから……」


 何のためらいもなく魔王城に入って行く彼女、四人は黙って追いかける。




「…………昔……聖王が生まれるよりも遥か……ずっと昔、この世界を奪い合い、神と神が争っていた……」


 彼女は先頭を歩きながら、ゆっくりと……四人に語り始めた。


「聖龍アルキレウスと魔龍エルディオス。対の力を持つ二体の神龍……戦いは……アルキレウスの勝利で終わった」


 遭遇したモンスターを、影の剣を使い一瞬で分解する彼女。


「傷付いたエルディオスを、アルキレウスは暗黒界と呼ばれる世界に封じた。こうしてアルキレウスが世界を支配したの。何を考えていたかは分からないけど、アルキレウスは戦いに勝った後、私たち人間の祖先を生み出した」


 淡々と語りながら、彼女は魔王城を歩く。


「でもね、アルキレウスもまた傷付いていた。傷を癒すため、彼女は自らの体を大きな樹に変え、眠りについたの……それがあの世界樹だよ」


 四人は歩きながら聞き入っている。


「一方、暗黒界に封印されたエルディオスもまた、力を取り戻すために体を大樹に変えた。でも回復が上手くいかなかったみたいでね。彼は魔族と、それを統べる者である魔王を生み出し、暗黒界にゲートを開け送り込んできたの。目的は……私たち人間の負の感情エネルギーを奪う為……アルキレウスのマイナスのエネルギーをね」


 魔王城の階段を下りて、彼女は地下に向かって行く。


「それを知ったアルキレウスは対策を打つ、自らの魂を切り離し、人間としてこの世に誕生させた。それが後の聖王アレスなの」


 階段を下りきると、目の前には大きな扉が。


「アレスは魔王に勝った。そうして人間は救われた……でもね、エルディオスの分身でもある魔王は、再びゆっくりと時間をかけて再生するの。魔王と魔族は……エルディオスがいる限り蘇ってしまう……だから、今から数百年後の未来……必ず魔王はこの世に現れる」


 扉を開けた先は神殿のようになっていて、中央の台座には……赤く光るオーブが。


「あのオーブが、エルディオスが作った暗黒界のゲート。魔王と魔族を現世に送り込むための移動装置……エルディオスの……闇の魔力を持つ者だけが通れるの」


 オーブの前まで行き、彼女は四人に振り返った。


「ひとつだけあったんだ……私にしか出来ないことで……みんなの……この世界のみんなの為に出来ること。暗黒界に乗り込んで、エルディオスと戦う! 彼を倒すことが出来れば、魔王の復活を阻止できる! みんなの子供たちの……この世界の未来を守れるんだ!」


 ずっと黙っていたメリルが口を開く。


「ま、待ってよシェリィさん……そんな……神様みたいな存在と戦うなんて無茶だよ! 一人で勝てるわけない! ……い、いいじゃない別に……未来のことなんて……わたしたちには関係ないよ……」


 それを聞いて、彼女は笑顔で答える。


「メリルちゃん、これはね? 私の償いでもあって……そして救いでもあるの……この方法ならきっと……私が殺めた人よりも多くの人を救うことに繋がるんだよ」


 今度はエルクが、手を上げてから口を開く。


「…………わたくしからもいいですか? 暗黒界と言いましたね? その通り道はエルディオスが作り、彼の力で維持されているんですよね……? なら、仮に勝てたとしても……シェリィさんは暗黒界から戻ることが出来なくなるのではないですか?」


 その言葉に、ルキ、クイナ、メリルが強く反応した。

 彼女はエルクの質問には答えない。


「フザッッけんな!!!」

「ッ!?」


 クイナが、彼女を殴り倒した。


「ふざけんな……ふざけんなよ! だったら……何のためにアタシたちはあんなに悩んだのよ! こんな……こんなことのためじゃない……みんな……シェリィといたかったから……」


 大粒の涙をぽろぽろとこぼし、クイナは怒る。

 彼女は……立ち上がらない。

 ずっと見ていたルキが彼女に近付いて、立ち上がらせた。


「あはは……こんなこと言い出すんじゃないかって、何となく分かってた。でもさ、シェリィ? あたしたちに認めてもらう必要があるって言ってたよね? あれどういうことなの?」


 ルキは笑顔で言った。


「……みんなの……聖王の腕輪を貸してほしいの……五つすべてが揃っていれば、それだけ大きな力が出せる……傷付いたエルディオスなら……今の私の力と、五つの腕輪が揃えば勝てるかもしれない」


 彼女の言葉に、全員が黙ってしまう。

 もしかしたら本当に勝てるのかもしれない。

 それは、それこそ数えきれないほどたくさんの人を救うことになるだろう。


「シェリィさん……それだけの覚悟があるんですね?」

「うん……ただ死ぬ事よりも……よっぽど意味のある事だと思うから……」


 エルクは顔を歪め、ぐっとこらえるような仕草を見せた後、自らの腕輪を外し、彼女に手渡した。


「なら……ば……お願いします……このことは……姫様の意志でもありました……姫様と共に……悲劇の根源を断ってください……」


 エルクは泣きながら、龍の胃袋から聖剣フィルナノグを取り出すとシェリィに渡した。


「この剣は、アニタ様の子孫でなければ真の力を出すことが出来ませんが、普通の剣としても素晴らしい物です。きっと……魔龍の体を貫く事も出来ると思います……」

「ありがとう、エルクちゃん……アルシアだと思って……連れて行くね……」


 彼女は聖剣フィルナノグを背負い、ベルトを使って固定した。


「シェリィさん……あなたは……アレス様すら超えるつもりなんだね……」


 メリルも腕輪を外し、涙をこらえながら彼女に渡した。


「ありがとう、メリルちゃん。あなたも頑張ってね……」


 エルクとメリルの腕輪をはめながら、彼女は言った。


「クイナちゃんの腕輪も貸してほしい……ダメかな?」


 彼女は俯いているクイナに言った。


「…………やだ」


 クイナは涙声で、子供のように言う。


「そっか…………」

「……だぁー! もう! 分かったわよ……どうせ渡さなくても行っちゃうんなら……」


 クイナは腕輪を雑に外し、彼女に突き出した。


「どうせ行くんなら……勝ちなさいよ! う……ああああ……」

「ありがとう……クイナちゃん……絶対勝つからね」


 泣き出してしまったクイナを優しく抱きしめる。


「……行ってほしくないけどさー。それがシェリィの意志だってんなら……仕方ないよな……」


 ルキも腕輪を外し、彼女の腕にはめる。


「ルキ……ごめんね……でも……今度は私、間違えないから」

「うん……寂しいけどね……これも持って行ってよ」


 腰に付けたルクセリアの短剣を、ルキは渡した。


「お父さんの短剣……」


 もう、自分にこれを持つ資格は無いと思っていた。


「シェリィ……あたしはね……まだ諦めてないよ? シェリィのこと。ずっとそばにいるって言ったもんな!」


 そう言ってルキは八重歯を見せて笑った。


「ルキ!」


 最後にもう一度、彼女はルキを力いっぱい抱きしめた。



「みんな、本当にありがとう。みんなとの出会いが無かったら、私は多分……こうなれなかった」


 全員と話して、いよいよその時が来る。

 彼女はオーブに手を置いて、振り返りながら言った。


「この腕輪をみんなだと思って……みんなの想いを力に変えて……みんなの未来を守るために……戦ってくるからね!」


 涙を流しながら見送る四人に笑顔を見せて、彼女は暗黒界へと消えていった…………

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