×3 キノコを食べたら……キノコ生えちゃった!?
「シェリィ! 一匹そっち行ったわよ! 気を付けて!」
ツノの生えた兎のようなモンスターが、シェリィの方へ向かって行く。
「う、うん」
へっぴり腰で剣を構えたシェリィが迎え撃つ。
「ピギー!」
両手で剣を持ち、飛び掛かって来る兎モンスターへ切っ先を向ける。
そして十分に接近したタイミングで――まっすぐ前に剣を突き出した!
「グギャアア!」
「ナイス、シェリィ!」
慌てて近付いて来ていたクイナが足を止める。シェリィの剣はモンスターを串刺しにしていた。
「勝てた……」
「やるじゃん、戦闘にもちょっとは慣れてきたんじゃない?」
彼女たちは現在町の近くの森で戦っている。
大量発生したモンスター退治の仕事を受けてきていた。
「おほ~、沢山やっつけたね」
木の上から声がして、大きな袋を担いだルキが飛び降りてきた。
ルキは短剣を抜くと、シェリィが倒した兎モンスターのツノを頭からはぎ取り、袋に入れる。
「倒したのはいいけど……ツノの回収が面倒ね……」
辺りは一面モンスターの死体だらけだ。
倒した証拠として、ツノを持っていかなければならない決まりになっているので、全て集める必要がある。
クイナは面倒くさそうに短剣を取り出すと、転がっている死体からツノをはぎ取り始めた。
「愚痴らない愚痴らない! このツノがお金に変わるんだからさぁ」
ルキは楽しそうにはぎ取り作業をしている。手際良くツノをはぎ取り地面に転がしていく。
「モンスター退治って聞いた時は不安になったけど、私にも手伝える事があって良かったよ」
二人が転がしたツノを大きな袋に詰めながら、シェリィは笑顔になった。
戦闘では足手まといだが、こういった作業ならシェリィにも手伝う事が出来る。
「……シェリィが元々は強かったって話なんだけどさ、アタシにも何となく分かってきたよ。オークの時も思ったんだけど、いざとなったら敵を殺す事に迷いが無いのよね、シェリィはさ」
「そう……かな?」
「戦う前こそおっかなびっくりなんだけどね、実際命がけの場面になると冷静に動いてる。さっきだって、モンスターに飛び掛かられた瞬間には目付きが変わってて、相手の急所を正確に貫いてた……」
声にほんの少しだけ恐怖を滲ませながら、クイナは言った。
それは技でもなければ力でもない、戦う者としての精神的な才能。
クイナやルキでは思わずブレーキをかけてしまうような場面でも、恐らくシェリィは止まらない。
「私……」
シェリィは自分の手を見つめる。過去の自分が使っていたこの手。自分は一体どんな人間だったのだろうか。
クイナの言葉を聞き、何故だか自分自身が怖くなってきてしまう。
「くぉらクイナ! 喋ってないで手を動かせー! 手をー!」
手を止めていたのはシェリィも同じなのだが、クイナにだけ怒るルキ。露骨な差別だ。
「シェリィの十倍食べたんだから十倍働けー!」
そういう理由もあったらしい。
「かー! うるさいわね! 働きゃいんでしょ働きゃ! おりゃおりゃおりゃおりゃ――」
凄い勢いではぎ取りを始めたクイナ。作業をしながらどんどん移動していく。
「心配する事なんてないよ、シェリィ」
「ルキちゃん……」
クイナが遠くへ行ったのを確認して、今度はルキが話し掛けてきた。笑顔を見せながら――
「あたしを助けてくれた時のシェリィはね、すっごく優しそうに微笑んでた。怖い人なワケないよ! あたしが保障する!」
「ありがとう、ルキちゃん」
二人で笑顔になり顔を見合わせる。そして仲良く作業を再開した。
「おりゃおりゃおりゃおりゃー!」
「うるっさいなぁ……雰囲気ぶち壊しだ……」
「オナカヘッタ……」
「またか! さっき持ち込んだお菓子食ったでしょーが!」
大きな袋をサンタのように担いだルキが、クイナへ振り向く。
現在時刻は夕方、暗くなる前には町へ帰ろうと、三人で森の出口へ向かって歩いている時の事だった。
「困ったなぁ、もう食べられるもの持ってないよ」
背負っていたカバンの中を確認するシェリィ。
「うっ!」
クイナは突然足を止める。その視線の先には……美味しそうな赤いキノコがあった。
食欲を刺激する香りがプンプンする。
(お、美味しそう……でもでも、十六にもなって拾い食いなんて……二人に見られたら恥ずかしいし……でもお腹減ったなぁ……こんな状態で町に着く前に倒れたりしたら二人にも迷惑が掛かるわよね? そうよ! ここで自分のプライドのために我慢なんてしたらアタシは厄介者でしかないじゃない! でも毒とか大丈夫かしら? 大丈夫よね? こんなに美味しそうな見た目と色と香りなんだから大丈夫に決まってる! それにアタシの事だからきっと記憶を無くす前には胃袋だって鍛えてたに違いないわ! 毒キノコなんか怖がってたら武道家なんてやってられないわよ!!!)
クイナの思考は一瞬で巡り、一つの答えに辿り着いた。
「いっただっきま~す!」
キノコを引き抜くと大口を開けてかぶりついた。
「むしゃむしゃ……んまー!」
「ク、クイナちゃん……それは流石に危ないよ」
「あ~あ、やっちまったか。いつかはやると思ってたぜ」
拾ったキノコを幸せそうに食べているクイナを見て二人は引いている。
「何よ二人して、お腹減って倒れるよりマシでしょ?」
「で、でもそれ……毒とかじゃ……」
「ヘーキヘーキ、アタシの胃袋鉄で出来てるからね~」
「クイナ、せめて死ぬ前に金は返しておくれ……未練を残さず成仏しろよ。なむ~」
手を合わせてクイナへ拝むルキ。
「縁起でもないからやめなさい! ほら、とっとと町へ帰るわよ!」
そう言ってクイナは荷物を持ち、つかつかと歩いて行く。
一見元気そうだが……本当に大丈夫?
そして夜……三人は仕事の報告をして金を受け取り、宿の部屋へと戻ってきていた。
「へへー、頑張っただけあって結構儲かったなー」
上機嫌に財布の中身を確認するルキ。
「これで船に乗れるわね」
「うん、やっとレイドルの図書館を目指せるね。腕輪の事何か分かるといいけど……」
「ま、急ぐ旅でもないんだし、ダメならダメで観光でもしながら世界を周りましょうよ。アタシ達の事知ってる人とかいるかもしれないし……アタシちょっとトイレ行ってくるわね」
クイナは立ち上がり部屋から出て行ってしまった。
「……トイレか、船賃すら払えなくなるほど食ったんだ。きっと凄いの出してくるぞ……」
「ル……ルキちゃん……」
その時だった――
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
二人はすぐに反応し動き出す。クイナの声だったからだ。目指すは宿の共同トイレ。
「クイナちゃん!」
二人がトイレに着くと、そこから涙目のクイナが現れた……何故か『股間』を抑えて。
「ア……アア……アアア……」
股間を抑えてガクガク震えている。
「なんだよ平気そうじゃん、痴漢モンスターでも潜んでたか~?」
「ハハハ……ハエ……ハエ……」
「ハエ?」
「生えてる……」
「生えてるって何が?」
ルキにそう言われると、クイナは黙って股間から手を放し、二人に自らの下半身を見せる。
「!?!?!?!?!?」
「きゃあっ! クイナちゃん……それってもしかして……」
クイナの股間には……大きなキノコが生えていた!
「あはははははははははは!!! クイナが……ぷっくく……クイナが男になっちゃったー!!!」
いつまでもトイレの前でキノコをさらしているわけにもいかず、ルキはクイナを連れて部屋に戻ってきていた。
シェリィは騒ぎを聞きつけやってきた、宿の主人へ事情を説明しているので遅れている。
「なんで……なんでアタシがこんな事に……」
「はっ!? もしかして元々男であたしとシェリィを騙してたとか!? いや~ん、変態! ぶはは!」
「ンなわけないでしょー!!!」
その時ドアが開き、シェリィが部屋に帰ってきた。
「ふぅ、ただいま」
「おかえりー、なんて説明してきたの?」
「流石にその……生えちゃったなんて言えないから、気持ち悪い虫が出てきてビックリしちゃっただけって言ってきた……他のお客さんの迷惑になるからってちょっと怒られちゃったよ」
「ううう……ごめんねシェリィ……アタシのせいで……」
「クイナちゃんは悪くないと思うんだけど……なんでそんな事になったんだろうね……」
「山で食べてたキノコじゃないのー? やばい色してたしさー キノコ食べてキノコ生えちゃったとか……あはははははは!」
「笑うな! こっちにとっては深刻なのよ!」
「お医者さん……行ってみる?」
シェリィが控えめに尋ねる。
「う……行きたくない」
クイナは拒否、医者に診てもらうという事は股間のキノコを見てもらうという事である。
「でもどうなってるか気になるなー、ねぇ、もっかい見せてよクイナ」
ズイッと顔を近付けてくるルキ、相変わらず近い。その目は好奇心で輝いていた。
「い……嫌よ……」
「でも何か分かるかもしれないし……私からもお願い、クイナちゃん」
シェリィまで近付いてきた。
「ううう……シェリィがそう言うなら……」
二人の前で立ち上がり、パンツを下ろすクイナ。股間のキノコがぽろんと現れた。
シェリィとルキは顔を近付けてじ~~~っくりと観察する。
「こ、これが……クイナちゃんの……」
ゴクリ、と唾を飲み込むシェリィ。
「へー、ふーん、こんなんなってんだなぁ。えいっ! つんつん」
「うひゃあ! くぉらルキィ! 触んな!」
「あはは! ごめーん」
「も、もう終わり……」
クイナはパンツを上げてキノコを隠してしまう。
二人に見られていたらなんだか変な気分になってきたからだ。
「終わりかー、ちぇっ」
「やっぱり何も分からなかったね……」
結局恥ずかしい思いをしただけで終わってしまった。
「はぁ、アタシもっかいトイレ行ってくる……ビックリして出来なかったし」
今考えたらよく漏らさずにすんだわね……と内心自分を褒める。
「あたしもいくー! おしっこ出るとこ見たい見たーい!」
ルキが目をキラキラさせながらクイナの服を引っ張った。
「冗談じゃない! ついてくんなバーカ!」
これ以上弄ばれてはたまらないと、ルキの手を払い急いでトイレに向かう。少し泣きそうになっていた。
傷付いた心を立て直しながらトイレに着き、いざ用を足そうとしたクイナ。そこで、気付く。
「ちょっと待って! これ……どっから出るの!?」
慎重に、下腹部に力を入れる……じょ~~
なんと! キノコの先から出始めた!
「ぎゃはは! まっすぐ飛んでる~」
なんか結構楽しんでるね!
そして翌朝、ベッドで目覚めたクイナは体の違和感に気付く。いや、正確にはキノコの違和感だ。
「な……なによこれ……」
クイナは宿の寝巻きを着て寝ていたのだが、目覚めるとズボンの股間部分が不自然に盛り上がっていた。
直接目で確認してみる。
「ひぃ……」
クイナのキノコはガチガチに硬くなりいきり立っていた。
昨夜見た時の倍近いサイズがある。おぞましいその姿に思わず小さな悲鳴が出る。
その時、部屋のドアがいきなり開いた。慌ててキノコを隠すクイナ。
「ん~……クイナ起きてたのか……おはよ~」
目を擦りながら現れたのはルキだ。
トイレにでも行っていたのだろう。髪は寝癖でボサボサで、着ている寝巻きも所々乱れている。
「はぁはぁ……おはよう……」
おかしい、何かが変だ。ルキの乱れた衣服から覗いている肌が気になって仕方がない。
眠そうにとろんとした顔が妙に色っぽく見えてくる。
クイナの呼吸は荒くなり、ルキの体から目を離す事が出来ない。
何か強烈な欲望に脳が支配されてしまっている。思わず飛びついてしまいたくなる衝動に必死で耐える。
「……どうしたの?」
「はぁう!」
ルキがクイナの顔を覗き込む。これは刺激が強かった、はだけた胸元から小さな谷間が見えている。
「な、な、何でもない、何でもないから……ふーふー」
このままここにいてはマズイ……とクイナは考える。
ルキ相手ですらこれなのだ。となりのベッドで眠っているシェリィが起きてきたら、どうなってしまうか分からない。
「ア……アタシ……ちょっと出て来る……」
一刻も早くこの部屋から脱出する必要がある。もし着替えなど始められてはたまったものでは無い。
「寝巻きのままで行くの? 着替えていきなよ」
「ト……トイレだから……大丈夫……長くなるかもしれないけど、心配しないでいいわよ」
平静を装いながらベッドから立つ。盛り上がってしまっている股間部分が目立たないように前かがみの姿勢になった。
どうみても不自然だがならざるを得ない。硬くなったキノコを見られるよりマシだ。
ルキにバレてしまえば間違いなく玩具にされるだろう。
クイナは前かがみの姿勢のままちょこちょこ歩き、どうにか部屋を脱出した。
「変なカッコ……ふぁ~、まだ寝てよ……」
ルキはもぞもぞとシェリィのベッドに潜り込んでいった。
宿の廊下にある椅子に座り、クイナは体が落ち着くのを待っている。
足を組んだ姿勢で座っていれば、股間が目立たないのだ。
最初はトイレの中に籠ろうかとも思ったが、他の客の迷惑になってしまうので流石に控える。
(はぁ~……こんな事になるんだったら、拾い食いなんてするんじゃなかった……)
仮に過去に戻れるのであれば、キノコを食べようとしていた昨日の自分を殴り倒してでも止めているだろう。
(アタシずっとこのままなのかな……これじゃホントに男みたい……)
一人でいると気持ちが後ろ向きになってしまう。
これならばいっそルキに笑い飛ばされて怒っている方がマシなのかもしれない。
(これじゃ結婚だって出来ないわよね……あれ? もしかして女の子と結婚する事になるのかしら?)
何やら妙な方向に考えが進んで行く。
(ルキはありえないとして、シェリィだったら……きっと馬鹿にしないで分かってくれるわよね……男になったアタシがプロポーズしたらどんな反応するかな……)
彼女の中でルキは論外だったらしい、興奮してたくせに。
そんな妄想をしている間に大分時間が経っていた。
心もキノコもすっかり落ち着きを取り戻している。
そろそろ部屋に戻ろうかと思い立ち上がると――
「おー? クイナじゃん。トイレ行ったんじゃなかったの? いつになっても戻ってこないからシェリィが心配してたよ」
ルキが歩いてきた。既に着替えを済ませており、いつもの格好になっている。
「ごめん、ちょっとね……(良かった、キノコは反応しない)」
「ふーん、まぁいっか。あたし出かけてくるからさ。シェリィと部屋で待っててよ。そんなに遅くはならないから、戻ってきたら今後の事三人で相談しよう。クイナが不安なら、腕輪より先にキノコの事調べてみてもいいし」
なんだかんだでルキもクイナを心配していたようだ。
「分かった、ありがとね。ルキ」
「んじゃなー」
ピッと手を上げてルキは近くの窓から外に出て行く。ここは二階なのだがお構いなしだ。
ルキを見送り、いつまでも寝巻きでいるのもなぁ、と考えクイナは部屋に戻る事にした。
シェリィが心配していると聞いてはこれ以上フラフラしているわけにもいかない。
「ただいま……うっ!!!」
「あ、クイナちゃんおかえり。起きたらいなかったから心配したよ」
部屋に戻ったクイナを出迎えたのは……着替え中のシェリィだった。
下着姿なので大事な部分は隠れているが……先程まで妙な妄想をしていたせいか、強く意識してしまう。
「……ちょっとね」
シェリィの方を見ないようにしながら返事をする。
子供っぽいルキとは違い、シェリィのスタイルは抜群だ。下着姿だと尚更それが強調される。
キノコはあっという間に寝起きの時以上に硬くなり、クイナは再び前かがみの姿勢を取る事になる。
「……もしかして……昨夜のキノコの事で何かあったとか……?」
「う、うん」
まぁ察しは付くわよね……と思いつつも頷くことしか出来ないクイナ。
ルキにムラムラして出て行ったなどと言えるわけがない。
そんなクイナの様子を見て、シェリィは少し考えこんでから、何かを決意したような表情で口を開いた。
「やっぱりね、放っておくのは良くないと思うんだ」
クイナに近付いてくる。下着姿で。
「え? え? な、なに?」
「安心して、今ならルキちゃんもいないし……笑われる事も無いよ」
そう言ってシェリィは、クイナのズボンとパンツに親指を掛けた。両手でがっしりと。
「もう一度しっかり調べてみよ? クイナちゃん」
「ストップストップ! 待って待って待ってー!」
脱がされないように片手でズボンを抑えつつ、もう片方の手でシェリィを払いのけようとする。
だが前かがみ状態で焦って動いたために、クイナはバランスを崩してしまった。
「うわわわわ!」
「えっ!? きゃあっ!」
クイナとシェリィはもつれ、近くのベッドに倒れ込んでしまう。
下着姿のシェリィを、クイナがベッドに押し倒したような形。
「あ、あ、あああ、ああ……」
シェリィの体が密着し、キノコは更に硬さを増す。
強烈な欲望が脳を支配していく。クイナの心はもう限界に来ていた。
「あれ? クイナちゃん……ズボンの中に何か硬いものが……」
そう言ってシェリィは触る、クイナのキノコを。
この瞬間、クイナの中で何かが弾け飛んでしまった。
「ああああああ! シェリィ~~~~~~!!!」
「ただいま~……うわぁ! 何やってんの二人とも!?」
「ぶええええええええええ」
ルキの登場で我に返ったクイナはすぐさまベッドから飛び上がり距離を取る。
腕の肉をつねり、痛みで欲望を誤魔化す。姿勢は今までで最高の前かがみだ。
背中に何か物が置けそうなくらいに上半身を倒している。
「あ、おかえりルキちゃん」
「うわーん! あたしのシェリィが変態キノコ女に汚されたー!」
「人聞きの悪い事言ってんじゃねーわよ! セーフ! セーフだから!」
血走った目で腕をつねりながらクイナは声を上げる。
「ってゆーかシェリィはアンタのもんじゃないし! ちっくしょー!」
そのまま走って出て行ってしまうクイナ。
「二度と拾い食いなんかするもんかぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
結局、この後半日程度でクイナのキノコは消えていきました。ご心配おかけしました!