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×22 下着ドロを追え!



 ~前回のあらすじ~

 温泉に入っていたルキとエルクは服と下着を盗まれたのだ!

 ちなみに財布と武器とバスタオルは残されていた。優しい(?)泥棒だったようだ。


「ああああ……どうするんですかルキさん!? このままでは……」


 裸にバスタオルを巻いただけのエルクがルキに詰め寄る。もう泣きそう。


「どうするって……こうするっきゃねーだろー」


 ルキもまたバスタオルを巻く。

 財布の紐を巻き込んでかなりきつめに。

 これで動き回ることが出来る。


「外に出るんですか!? こんな格好で!?」

「ここでもたついてたら犯人を逃がしちゃうからなー。エルクはここで待ってなよ。すぐ取り返してくるから。駄目そうならジュリアンテかえるくに来てもらう」

「…………いえ、わたくしも共に行きます……ルキさんだけに恥ずかしい思いをさせるわけにはいきません」


 犯人を追うにせよ、ジュリ屋に行くにせよ、バスタオル一枚で外に出なければならない事に変わりはない。


「無理すんなよー? 泣きそうじゃないか。あたしは今更失うものなんて無いし気にすんな」


 強引に唇を奪われた(クイナに)過去を持つだけあって一皮むけているルキ。

 エルクの頭に手を置いて爽やかな笑顔を見せる。あらやだイケメン。


「ふっ……そんな事を言われたら尚更引けませんね」


 仕込み杖を手に取り笑顔で返すエルク。


「んじゃ、行くか」

「はい」


 二人で脱衣所の出口を見て気合を入れる。

 なんかカッコいいやり取りしてるけど裸バスタオルである。


 脱衣所から飛び出して受付のおばちゃんに話を聞く。

 ローブに身を包んだ怪しい奴がついさっき出ていったのを見たそうだ。

 顔まではフードで見えなかったらしい。


「マヌケな奴め! ローブなんて着てたら目立つだけだぞー!」


 外に出た途端近くの建物に登るルキ。

 忍者のようにするすると登りあっという間に屋根の上へ。

 すぐ下では見えてしまうのではないかとハラハラしながらエルクが見守る。


「見つけたー!」


 叫ぶと共にルキは飛び降りた。そして凄い速さで走りはじめる。


「ルキさん! あんまり派手に動くと……その……見えてしまいますよ!」


 注意しつつもバスタオルを抑え、自らも駆け出すエルク。恥ずかしそうにしながらもしっかりルキに付いて行く。

 周囲の視線が二人に集まるが気にしている余裕はない。

 ぐんぐん速度を上げローブの人物へ近づいて行く。


「まーちーやーがーれー!!!」


 走りながら叫ぶルキ。

 その声に気付いて、ローブを着た人物は振り返った。

 目に飛び込んできたのは……バスタオル一枚で武器を持って全力疾走してくる女の子。

 それが二人。


「げっ!? マジかよ! あんな恰好で追ってきやがった!」


 男の声だ。犯人じゃなかったら絶対に言わない台詞を吐いているのでもう確定でいいだろう。


「ちっ、近寄るんじゃねぇ!」


 そう言ってローブの男は自身の指を見せた。そこにはいくつかの指輪が。


「魔導輪!? コソ泥のくせに魔法が使えるのか!」

「かんけーねー! ぶっ飛ばす!」


 お構いなしに突撃していく二人。

 ローブの男は舌打ちすると指輪に魔力を込め始める……


「くらえ! トルネード!」


 手を振り下ろすと同時に小さな竜巻が発生した。


「ふっ……情けない威力だ。魔力の質、量、ともに低レベル。この程度なら避ける必要すらない」

「まっ、待てエルク! 危険だ! 止まれー!」


 何かに気付き制止するルキ。

 しかし既にエルクは大分踏み込んでしまっている。


「えっ? わああああああ!」


 なんと、吹き荒れる風にバスタオルが攫われそうになっている!

 エルクは咄嗟に武器を手放し、バスタオルを抑えうずくまった。ギリギリセーフだ。

 流石にこんな所で全裸になるのは抵抗があるようで、ルキも動けていない。

 非常にマズい状況。


「ふはははははは! さらにくらえ! ウインドカッター!」


 ローブの男が唱えると、無数の風の刃が二人に襲い掛かる。

 その魔法は修行不足がすぐ分かるほど貧弱ではあったのだが……


「あっ!? あああああああああああ!」


 バスタオルが、少しずつ裂け始める。


「これで動けまい! さらばだ!」


 振り返って走り出すローブの男。


「待てっ! くそぉ……」


 うずくまったまま涙目になるエルク。あんな相手に負けた事が悔しくて仕方ない。


「泣くなよーエルク」


 風が収まり、ようやく動けるようになったルキがエルクに近付いてきた。


「ううう……ルキさぁん……」

「大丈夫! ローブの隙間から着てる服がチラッと見えたから」

「えっ……」

「何処から来た奴なのかは大体わかったって事さ。逃げてった方向から考えてもね」

「ほ……本当ですか!?」

「ああ、けどその前に……ジュリ屋に戻って服着てこよっか」



 建物の陰から陰へ、二人はぼろぼろのバスタオル一枚でジュリ屋を目指す。

 通りすがりの誰かと目が合ってしまう事もあるのだが、ルキは愛想笑いで誤魔化している。

 一方エルクは人が来ると真っ赤になって俯いてしまう。恥ずかしくないわけがない。


「もう嫌だ……どうしてわたくしがこんな目に……」

「あはは、エルクは多分美人になるから、こういう事は今後も沢山あるぞー」

「喜ぶべきなのか悲しむべきなのか……そういった意味ではシェリィさんたちも大変でしょうね」

「あー……あの三人はそうだろうなー」

「メリルさんはよく男性に声を掛けられてます」

「可愛いしデカイからな……」

「シェリィさんなんてすれ違った人が皆振り返りますよ。女性も含めて」

「そこはシェリィだからなー、へへへ」

「なんでルキさんが照れるんですか……」

「あれ? なんでだろ」



 人目を避けながらもジュリ屋へ到着。

 滑り込むように中へと入る二人。

 公衆の面前で全裸になる心配ともこれでさよならだ。


「ふー! 流石のあたしも恥ずかしかったぞー」

「はぁ……このような恥辱を受けたのは初めてです……」


 二人そろって安堵の息をつく。


「……おかえり、二人とも。その恰好で外を歩いて来たのか……」


 受付に座っていたジュリアンテが引き気味に声を掛けてきた。


「ひっ、引くなぁ! 頭のおかしい奴を見たような顔をするんじゃない! 貴様にそう思われたらおしまいだぁ!」


 ぼろぼろのバスタオル一枚でキレるエルク。


「怒るなよぉ? ストリーキングは理解できんが悪い事とも思わん。趣味は人それぞれさ。なぁ?」


 近くにいたえるくに話を振る。


「……へんたいなのはじゆうだが、かおがおなじだからわたくしはこまるぞ。おりじなるよ、すこしじちょうしてくれ」

「きあdgbぃあfはぃすh!!!」


 怒りすぎてまともに言葉が出てこないエルク。今までにないくらいのキレっぷりだ。


「なんだぁ騒々しい、これではゆっくり読書も出来ん」


 奥の廊下からすい~っと現れたのはオウカ。


「あっ、おばあちゃん!」

「ルキよ、おばあちゃんはやめ……その恰好はどうした!? 何があったんだ?」

「いや~、実はさぁ――」


 やっと話が進みそう。



 そしてここは何処かの建物の中。

 薄暗い室内に入ってきたのは、ローブを着た謎の男。


「親方、ただいま帰りました」


 部屋の中にいた、スキンヘッドの男にそう言った。


「おぅ! けぇったか。で、例のブツはどうなった?」

「ハイ! ここに……」


 持っていた袋をしゅるっと開き、中身を床へ。

 袋から出てきたのは女物の衣類。ルキやエルクの着ていたものもある。


「へへへ……いいじゃねェか……後付けられたりはしなかったろうな?」

「大丈夫です。二人ほど追っかけてきたのがいましたが、俺の魔法でヒィヒィ言わせてやりましたよ」


 あの状況じゃなかったら五秒も持たずに倒されてたと思う。


「今まで集めた分と合わせりゃあもう十分だろう。これで古の悪魔が復活するぜ……」


 下着を握って笑みを浮かべるスキンヘッドの男。

 その視線の先には、怪しい赤いツボがあった。


「ですが……親方。ほんとにこんな方法で悪魔が復活するんですかね? 俺はちょっと信じられませんや」

「バカヤロウ! てめぇ俺の家に伝わる文献がパチモンだって言いてぇのか!?」

「そ、そんなことは……」

「なぁに試してみりゃすぐ分かるさ。ホレ! 入れろ入れろ!」

「は、はいっ!」


 二人はツボの中に服や下着を投げ込んでいく。


「親方ッ! これで最後です」


 最後のパンツを放り込んでツボに蓋をした。


「よしっ! 離れろ!」


 ツボを見守る二人。

 するとツボがカタカタと震えはじめる。

 その揺れはどんどん大きくなっていき、そして――


『あのボケ女ァアアアアアアアアアアアアア!!!』


 おぞましい叫び声とともに、ツボは粉々に砕け散った――



「おばあちゃんまで付いてこなくてよかったのにー」


 武器を持ち、浴衣を着て走るルキとエルク。

 その隣をオウカが飛んでいた。


「いいや、私も行く。嫁入り前の娘にあんな恰好をさせて……ガツンと説教して根性叩き直してやる」

「それよりもルキさん。次の道はどっちへ?」

「ああ、左だよ。そこ曲がったら見世物小屋はすぐそこさ」

「しかしルキ、本当に見世物小屋の従業員だったのか?」

「間違いないよ。一瞬だけど目に焼き付いてる。あそこの服は分かりやすいしねー」

「超人的な動体視力だな……あの運動能力といい、戦闘の才能だけならば君が一番――」


 その時だった。

 建物が吹き飛び、倒壊する大きな音が町中に響く。


「――なんだ!?」

「見世物小屋の方だ!」


 全速力で走り出すルキ。オウカとエルクもそれを追っていく。



『ぶふぅううう……何処の町だぁ……?』

「うわ!? なんだあの化け物!」


 走って来たルキが足を止める。

 見世物小屋は滅茶苦茶に吹き飛んでおり、そこにいたのは一匹の怪物。

 黒い体毛に覆われた人間のような体に、山羊の頭を持つモンスターだ。

 身長は三メートルを超えている。


「あれは……『ブーマー』じゃないか! 何故封印が解けた!?」


 追いついてきたオウカが空中でピタッと止まる。


「知っているのですか? オウカさん」


 同じく走って来たエルクが足を止め、仕込み杖を抜いて尋ねる。


「五百年前の上級魔族さ。我が強すぎるせいで魔王軍を追い出されたハグレ者だ」

『おっ? お前あのアホ女の金魚のフンやってた羽虫じゃねーか。相変わらず色気のねー体してやがんな。ヒャハハ』

「久しぶりだなブーマー。出来れば会いたくなかったよ」


 心底嫌そうな顔でオウカは言った。


『ヒャハ! 言ってくれるじゃねーか。それよりあのアホは何処だ? 女とはいえもう容赦しねーぞ』

「…………アニタなら死んだよ。君にとっては一瞬だったんだろうが、こちらでは既に長い時間が経過している」

『ンだと? なら魔王の奴はどうした?』

「アニタが倒した」


 今度は誇らしげに、オウカは答えた。


『……まぁ、あのアホならやらかすかもな……チッ、死んじまったのかよ』

「そういうわけだ。もう復讐の相手はいない。ブーマー、ここは大人しく――」

『なら、もう俺の邪魔出来る奴はいねーって事じゃねーか!』


 集まって来ていた野次馬をちらりと見て邪悪に笑うブーマー。

 そして手を振り上げると強烈な光がイカホの町に広がった。


「くそっ! やはりこうなったか! だから殺しておけと言ったのにあのアホめ!」


 光に包まれながら呟くオウカ。

 死後数百年経ってなおアホアホと言われてしまう勇者様も不憫である。


『よぉ~し! 大分俺様好みになったなぁ、うん』


 激しい光は徐々に弱まっていく。


「……何をされたんだ?」


 ゆっくりと目を開くルキ。


「な、なんじゃこりゃあ!」


 びっくら仰天。

 周りにいた野次馬の男達が全員石化している。

 そして女性はバニーガールやら巫女やらメイドやらの服装に着替えさせられていた。

 大混乱に陥るイカホの町。


「もしかして……」


 ルキも自分の恰好を恐る恐る確認してみる。

 白い体操着に紺色のブルマ、猫耳と尻尾まで生やされていた。


「うええ!? なんだこの服ー!?」

『そりゃあジパングって国の伝統衣装の一つさ。イカしてんだろ? 猫耳と尻尾は俺様の好みの女にだけサービスしてる。誇りに思えよ』


 相変わらず妙ちくりんな存在には気に入られるルキ。


「死ね! ヘンタイめ!」


 いつの間にかブーマーに飛び掛かっていたエルク。仕込み杖の刃を光らせ斬りつける!

 ちなみに彼女はスクール水着を着せられている。


『っとぉ! あぶねーな』


 エルクの斬撃を片手で容易く受け止めたブーマー。


「腕一つ! ライトニングランス!」


 もう片方の手に雷の槍を持ち、突いた!


『ハイ残念』


 そちらも片手であっさりと掴まれる。


「腕二つ! ルキさん!」

「まっかせろー!」


 既にブーマーの足元に潜り込んでいたルキ。

 ぴょんと飛び上がり短剣で横薙ぎ一閃。

 ブーマーの首を見事に切り裂く。


『ご……お……』


 首から血を噴き上げ仰け反るブーマー。

 着地したルキとエルクは笑顔でハイタッチ。


「油断するな! ブーマーは再生するぞ!」


 だぼだぼのワイシャツ一枚で戦いを見ていたオウカが叫ぶ。

 しかし遅かった。

 敵から目を逸らしていた二人は次の動きに対応出来ない。


『うおうりゃあ!』


 両手を使いルキとエルクを同時に殴りつけたブーマー。

 殴られた二人は大きく吹き飛ぶ。


『上級魔族との戦闘は初めてか? 闇の魔力による再生を知らねーとはな』


 黒い煙をあげながらブーマーの傷が治っていく。

 一方殴られた二人は立ち上がれない。

 それほどまでにダメージは大きかった。


「ルキ! エルク! 大丈夫か!?」

「~~~~効いたぁ……」

「……油断した……オウカさん、逃げてください……」

『別に逃げる必要は無いぜ? 俺は攻撃されなきゃ手は出さねぇ。女には特にな。奴隷にはするけどよ! ヒャハハ』


 笑いながら倒れた二人に近付くブーマー。


『お前ら二人は結構好みだからよ、今からたっぷり可愛がって――ン?』


 ふわ~っと、ブーマーに大きなシャボン玉が近づいて行く。

 目の前まで来るとぱちん! と弾け、謎の液体がブーマーの体にかかった。


『うわっ!? キタネーな、なんだこりゃ』


 次に現れたのはマッチョの石像。

 お手本のようなフォームでシャカシャカ走りブーマーに向かって行く。


『違う意味でキタネーな! 俺は男が大っ嫌いなんだよ!!!』


 蹴り一発でバラバラに破壊される石像。

 しかしその中から一人の少女が飛び出してきた。


『え?』

「あるてぃめっとふぃすとー」


 飛び出してきた少女は無表情に、ブーマーの腹に拳を打ち込む。


『ゴッッッッッハ!!!』


 これが物凄い威力だった。

 貫通してしまうのではないかというほどにブーマーの腹が凹む。

 血反吐をまき散らしながらのた打ち回るブーマー。


「くははは! 再生は出来てもダメージそのものは消せないらしいな? 感度倍増薬を塗ってからのえるくの拳は痛かろう」


 高笑いしながら現れたのは、黒いマントを羽織った金髪の大女。

 魔女ジュリアンテ。


「ジュリアンテにえるくか! 助かったぞ!」

「オウカ殿、二人を安全なところに頼む。私の大切な部下だ」


 エルクが何か言いたそうにしているが、ダメージのせいで声が出ない。


『……やってくれるじゃねーか。今のは痛かったぞ……テメーは全力でぶっ殺す!』


 いつの間にやら空中に浮かんでいたブーマー。

 背中には大きな翼が生え、空からジュリアンテを見下ろしている。


「飛んでくれたのは好都合だな? これで周りへの被害を気にしなくて良くなった」


 ジュリアンテはそう言って、小さなカエルの玩具を取り出した。


「音痴なカエルは人懐っこいぞ?」


 そして魔力を込めてからブーマーに投げつける。

 カエルの玩具はまるでミサイルのように飛んでいきブーマーに着弾、直後に大きな爆発。


『ぐあああああ!』


 ジュリアンテは空中を見上げながら満足そうな顔をして、さらにカエルの玩具を大量に取り出す。


「カエルぴょこぴょこ、三ぴょこぴょこ。合わせてぴょこぴょこ、六ぴょこぴょこ」


 玩具に魔力を込めると全て空中に放り投げる。


『じょっ、冗談じゃねェ!』


 カエルの玩具は一人でに動き出し、それぞれが逃げ回るブーマー目掛けて誘導弾のように飛んでいく。


『うぎゃあああああああああ!!!』


 次から次へと着弾し爆発、そして爆発、さらに爆発。

 イカホの町に連続した爆発音とブーマーの悲鳴が響き渡る。


「動きが止まったな? えるく、トドメだ」

「おっけーますたー」


 足元をしっかり固定しえるくは空中を見上げる。

 やがてその小さな体を雷の魔力が覆い始めた。


「いれいざーびーむ」


 カパッと口を開けると……そこから雷の魔力が強力な光線となって放たれた!


『ちくしょぉおおおおおお! 覚えてやがれぇぇぇぇぇ!』


 光線はブーマーを直撃。

 再生も追いつかぬ程のスピードで体を破壊しながら、ブーマーを遠い空の彼方へ吹き飛ばしていった……




「ぎゃははは! それでエルクの奴元気ないのね~」


 ジュリ屋二階の大広間、訓練から戻って来たクイナが下品に笑う。


「ジュリアンテとえるくに助けられちゃったからなー」


 クイナに事件の顛末を説明していたのはルキ。

 エルクは部屋の隅っこで膝を抱えて落ち込んでいた。


「でさ、見世物小屋の連中はなんでそんな化け物を復活させようとしたのよ? バリバリむしゃむしゃ」


 話しながら煎餅をかじるもんだから畳にカスがぽろぽろ落ちてしまっている。

 食うのか喋るのかどちらかにしろ。


「経営が上手く行ってなかったらしいよー? ブーマーを見世物にして客寄せしたかったみたい」

「もしゃもしゃ……そりゃまた無謀ね」

「そもそもあんな方法で封印が解けるようになっていたという事が信じられん」


 会話に割り込みながら部屋に入ってきたのはオウカだ。


「あっ、おばあちゃん。勇者様はどうしてあいつを倒さずに封印してたのかな?」

「ブーマーは自分勝手でスケベで最低な奴ではあったが、人間を殺す事だけはしなかったんだ。魔王の言う事も聞いていなかったしな。協力したことも実はある。結局最後は戦うことになってしまったが……アニタは奴に止めを刺す事が出来ずに封印という方法を取ったんだ」

「へ~、勇者様って案外甘いのね。むっしゃむっしゃ」

「私は殺せと言ったんだがな……それをあのアホめ……だからこうして後の者が困る事になった」

「アニタ様に向かってアホなんて言えるのもオウカくらいのもんよね~、バリむしゃ」

「君たちは実物を知らんからな。アニタは戦闘以外はからきしだぞ」


 それでも、アニタを語るオウカの様子はどこか嬉しそうで。


(そういえば、ブーマーも勇者様の死を知らされた時、ちょっとだけ寂しそうな感じだったな……)


 そんなオウカを見ながら、ルキは遥か昔の勇者の事を考えていた。

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