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×19 探索開始、古代のダンジョン



「酷い状態だな、これがあの美しかった森か……」


 シェリィたち五人の前を飛びながら、オウカは眉をひそめる。


「本当に、城に寄らなくていいのですか?」


 遠慮がちにエルクは聞く。


「構わん。森がこの状態なら行かずとも分る。誰も居ないし何も分からんよ」

「何故です?」

「本来この森には外敵避けの結界が張ってあるのさ。それが見事に剥がされている。術者である長老が逃げたか、殺されたか……あの堅物共が森から離れるとも思えんし、後者だろうな」


 荒れた森を見た時とは違い、無表情に仲間の死を口にするオウカ。


(なんかオウカの奴同族には冷たいわよね。なにがあったか聞いてみなさいよ)

(えぇ……わたくしがですか? 嫌ですよ……)


 肘で突っつきあいながら、小声でヒソヒソ話すクイナとエルク。

 牢に入れられていたという事から、絵に描いたような悪党を五人は想像していたのだが、実際に会ってオウカから受けた印象は大分違っていた。

 それだけに投獄されていた理由が気になる。


「何をこそこそしてるんだ。古代人の遺跡にはもう着くぞ」

「な、なんでもないわよ!」

「なんでもない、です」

「……?」



「さぁ着いたぞ。ここが入り口だ」


 遺跡……というよりは洞窟の入り口だ。

 森の中の岩壁に、大きく抉られたような穴が開いている。

 オウカの案内で五人は中へと入って行く。



 洞窟を進む。奥に行けば行くほどに道は狭くなり、暗さを増していく。

 モンスターも、虫やコウモリも見当たらない。生命が一切存在しない不気味な空間。

 しばらく進むと、石で出来た大きな扉のようなものが見えてくる。


「この奥からが本番だ。少し待っていろ」


 え~っとここだったかな確か、暗くてかなわん。

 そんな事を呟きながら、オウカは洞窟の壁を調べ始めた。


「おお、あったあった。こいつだ」


 ニヤリと笑って、壁にあった小さな穴に手を突っ込んだ。

 すると大きな石の扉が、ゴゴゴ……と音を立てゆっくりと開く。


「さて、私の案内はここまでだ」

「えー? おばあちゃん帰っちゃうのか」

「ルキ……おばあちゃんはやめろ……」


 本気で嫌そうな顔をする。見た目だけならば十代の少女だ。見た目だけならば……


「ここから先は世界樹を守るための罠があるらしいからな……相当な手練れでもない限りは入れんよ。私が付いて行っても足を引っ張るだけだ」

「ここで……お別れなんですか?」


 寂しそうな顔で聞くシェリィ。


「心配せんでも逃げたりはしないよ。君たちの記憶が戻るまでは近くにいよう。しばらくはあのイカホとかいう町に滞在して情報収集さ」


 笑顔でそう言って、手をぷらぷら振りながらオウカは去って行った。


「……良い人……だったね」


 離れて行くオウカの背中を見ながら、シェリィが呟く。


「ちょ~っと話が長いのと、口うるさいのが玉に(きず)かしらね~」

「あはは、おばあちゃんだからなー」

「ですが、あの方の知識はとても頼りになります」

「わたし……初めて会った時……悪い人だなんて言っちゃったけど……謝らなくちゃ」


 五人でオウカを見送りながら、そんな話をしていると……


「あれ? 戻って来たわね……」


 くるっと反転して気まずい顔で戻って来たオウカ。


「……今の森にはモンスターが徘徊している事を忘れていた。すまんメリル、イカホまで送ってくれないか?」


 暗い洞窟の中に、五人の明るい笑い声がこだました。



 オウカをイカホに飛ばし、石の扉を通って洞窟のさらに奥へ進む。

 暗く狭い洞窟から、だんだんと人工的な石造りの遺跡へと周囲の様子が変わっていった。

 何かしらの技術なのか、それとも魔法によるものなのか、遺跡の中は明るい。


「いかにも! って感じだなー」


 先頭を歩いていたルキが足を止め、腰に手を当てて言った。

 それまで歩いていた通路のような道とは違い、広い空間に出た。

 空間の中央付近、床には何やら文字が書かれた石板が。五人はそこまで歩いて覗き込む。


「何か書いてあるけど読めないね……古い時代の言葉かな?」

「シェリィさん、これ魔造碑文だよ。確か、魔力を流し込む事で内容を理解できる特殊な文字」

「わたくしも知っていますね。読んでみましょうか」


 エルクは石板に手を当て、魔力を纏わせた指を使い、書いてある文字をなぞっていく。


『偉大なる大霊の樹を目指すものよ。汝の目的は聖地を侵すに足るものか? もしそうだというのであれば、汝の力と知恵と勇気を示すがいい』


 だ、そうです。と言って、エルクは石板から指を離した。

 その時、まるで爆発でも起こったかのように、石造りの壁が音を立てて吹き飛んだ。

 壁の中からは土で作られた人形が出現する。

 人間の大人程のサイズがあるその人形は、同じく土で出来た剣を持っていた。

 そして他の部分の壁が四か所同時に吹き飛び、そこからも土人形がそれぞれ槍やハンマーなどの武器を持って現れる。

 武装した土人形は合計五体。


「まずは力を示せって事かしら? 頭数がこっちと同じなのも偶然じゃないかもね」


 首や肩をほぐし始めるクイナ。

 別々の方向から近付いてくる土人形に対して、それぞれが構える。


「一対一で戦うの?」


 不安そうに聞いてくるメリル。


「乱戦になるよりは戦いやすいかと思われます。わたくしは賛成です」

「あたしもいいよー? 楽しそうだし!」

「確かにぐちゃぐちゃになるよりはいいかもしれない……早く終わったら他の人の援護にまわろう!」

「「了解!」」


 シェリィの提案に四人が大きな声で応え、それを合図に全員が駆け出した!



(時間を稼ぐだけならいくらだって!)


 札を取り出し両手に一枚ずつ持ったメリル。

 両手持ちのハンマーを持った土人形と睨み合う。


(……あれ? 動かない)


 ピクリとも動かなくなってしまった土人形、数秒見つめた後、壊れてしまったのか? と考え、一瞬気が抜ける。


(みんなは大丈夫かなぁ?)


 視線が泳ぐメリル。それが、命取り。距離があるという油断も心のどこかにあった。


「――ッ!」


 大きなハンマーを持っているとは思えない程の速度で土人形は動き出す、走り込んだ勢いを乗せハンマーを横にスイング、鈍い音を響かせてメリルの顔面に打ち込んだ。


「……残念でした!」


 その場からあっという間に姿を消す土人形、殴られながらも手を触れて転移させていた。


「気の防御が一番有効だからハンマーさんを選んだのです。こんなに上手く行くとは思わなかったけど」


 通常の人間だったら即死だったはずだ。


「転移の行き先はぁ――」


 ぺろっと舌を出してウインク。


「オウカさんのいた地下牢獄♪」


 多分二度と出てこられないと思う。




 槍を持った土人形が鋭い突きを連続で繰り出す。

 その全てを見切り、クイナは間合いを詰め、土人形の顔面に正拳を打ち込んだ。


「ハイィ!」


 しかし、僅かに仰け反らせただけだ。

 不安定な姿勢で技を繰り出したため、拳に十分な威力が乗らない。

 即座に槍で薙ぎ払われる。これをバク転で華麗に回避した。

 そのまま数回バク転を繰り返し、一旦間合いを開ける。


「…………素手で剣と渡り合うのには、相手の三倍強けりゃいいんだっけ?」


 槍を構える土人形に話し掛け、不敵な笑みを見せる。


「剣で槍と戦うのにも、たしか三倍だったわね。あれ? じゃあ素手で槍と戦うのには何倍必要なのかしら?」


 計算は苦手だが、クイナは既にこの戦いの答えを知っている。


「まぁ、十倍ありゃ足りるわよね!」


 全力で走り出したクイナ。ぐんぐん速度を上げて目標へと迫っていく。

 走り寄るクイナに対して、土人形の槍が突き出された。クイナはこれをギリギリで回避して飛ぶ。


「どっらぁあああああああああ!」


 走り込んだ勢いに全体重を乗せ、流星のような蹴りを放つ!

 クイナの蹴りは土人形の胸部に直撃、上半身をバラバラに破壊した。


「ぎゃはは! これじゃ答え合わせは出来ないわね~」


 直地を決めてポーズを取る。十倍じゃちょっと多かったみたい。




 斧を持った土人形が振りかぶった瞬間、エルクは既に打撃を加えていた。脇腹を杖で一発。


(やはり堅いな、斬る事は難しいか)


 連続で打撃を当て続け、構える事すら許さない。動きの差は歴然。


(雷撃も恐らく通用しない、わたくしにとっては相性最悪の相手)


 時間を稼いで、シェリィたちの助太刀を待つという選択肢もあるが……


(そんな情けない事は……出来ませんね!)


 シャッと仕込み杖を抜き放つと、そこに雷の魔力を纏わせる。

 帯電した刃を水平に構え、フェンシングのように突いた。

 見事に土人形の胸部を貫通する仕込み杖。しかしダメージは余りない様子。

 胸に穴を開けたまま斧を振りかぶる土人形。


「ハァァァァ!」


 それでもエルクは止まらない。何度も何度も突きを出し続ける。

 まるで豪雨のような刺突のラッシュ。蜂の巣のように穴だらけになっていく土人形の体。

 突きを受け続けながらも振り下ろした斧を、エルクは難なく回避した。

 そして身を翻し、回し蹴りを土人形の胸に打ち込む。


「ふっ……」


 穴だらけになり脆くなった土人形の体が、蹴りによってごっそりと削れた。


「世界樹の番人がこの程度とは……古代人の実力もたかが知れますね」


 五感と身のこなしではルキに劣り、体術ではクイナに及ばない、術の応用力もメリルには敵わない。剣速に至ってはシェリィと比ぶべくもない。

 だが、総合力ならば間違いなく彼女は最強。


「わたくしたちは……強いですよ」


 再度蹴りを入れ、今度は胴体を破壊。勝敗は決した。




 顔、首、胸、連続で相手の体三か所に短剣を突き刺したルキ。


「人間やモンスターだったら、これで終わりなんだけど」


 土人形が持った大鎌による攻撃を軽くいなしながら呟く。


「うーん、どうするかな?」


 口調こそ困っているがその表情は明るい。楽しんでいるようにすら見える。

 飛んで、伏せて、猿の如く敵を翻弄。


(魔力で動いてるなら、どこかに核があると思うんだけど)


 動き回りながら顎に指を当て、んー? と考える。


「おや?」


 当てずっぽうに短剣を刺しこんでいくなかで、ある事に気付いた。


(腹を狙った時だけはちょっと下がるんだなー)


 八重歯を見せてにししと笑う。


「そういう動きされると気になっちゃうじゃん?」


 相手の肩を踏み台にしてぴょんと裏に回る。そして背中を斜めに切り裂いた。


「あったー!」


 土人形の背中に手を突っ込み、何かを引きずり出した。


「へへ、これ売れるかもなー」


 奪い取ったのは青く光る石のような物。

 石を奪われた土人形はピタリと動きを止め、ぼろぼろに崩れ落ちてしまった。




「あの子たちが心配なの、すぐに終わらせるから」


 五体の土人形の中で、最初に出てきた一体。

 剣を持ち、体が大きく、武器だけでなく鎧も身に着けている。

 恐らく最も力のある司令塔のような存在だろう。

 感情を一切持たず、ただ侵入者を始末するためだけの殺戮人形。

 それが、動けない。

 暗く、冷たい魔力を纏うシェリィをただ見つめるばかり。

 美しく長い黒髪をなびかせながら、ゆらりと近付くシェリィの姿はまるで死神のよう。

 そして、その手に持った剣を振る。

 武器を構える事すら許されず、ただ解体されていく土人形。

 それはもはや、戦いなどではなかった――



『みんな! 大丈夫!?』


 誰が言ったのかも分からない言葉が響く。

 同じタイミングで、全員が似たようなことを叫んでいた。

 五人それぞれが顔を見合わせ、仲間たちの無事を確認する。


「なによ、みんな楽勝だったんじゃない。アタシが一番早いと思ったのに」

「わたしは運が良かったから……」

「弱点が分かったから助けてやろうと思ったけど、必要なかったなー」

「あの程度の相手、何体いたところでわたくしの敵ではありません(ドヤ)」

「フフ……そうだね」


 そんな感じで無事を喜び合っていると……

 ぴろりろり~ん、という高い音が遺跡の部屋に鳴り響いた。

 直後、部屋の中央にある石板の隣に下りの階段が出現する。

 現れた階段を、何故か神妙な顔で見つめる五人。


「……番人が出てきて戦うところまでは良かったよ? でもさー」


 何か言いたげなルキ。


「二度ある事は三度あるって、どっかで聞いたような気がするわ……」


 浮かない顔のクイナ。過去のなにかを思い出しているようだ。


「このノリはちょっと嫌な事思い出すよね」


 苦笑しているメリル。震え声になっている。


「大丈夫……大丈夫なはずだ……古代人は馬鹿じゃない……あの魔女とは違うはずだ……」


 胸をおさえてぶつぶつ呟いているエルク。トラウマが蘇ってしまったらしい。


「はぁ……行こうか」


 ため息をついて歩き出したシェリィ。

 過去の経験から何となく分かる、一筋縄では行かなさそうな雰囲気。

 世界樹の花を手に入れて記憶を取り戻すため、五人は古代文明に挑戦する!

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