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×12 雷鳴と共に 中編



 正直なところ『帰りたい』と、四人は考えていた。


「はぁ……帰りたいなー……」

「帰りたいわね……」

「ヒィヒィ……帰りたいよぉ……(涙目)」

「ふぅ……ふぅ……帰りたいね……」


 魔女によって占拠された塔へ挑んだシェリィたちは、現在狭い通路をうさぎ跳びで進んでいた。

 まるでルームランナーのように、床が進行方向とは逆に流れているため、かなりの体力を消耗する。

 何故、こんなアホな事をやっているのかといえば、こうやって進まないと謎の力によって通路の最初まで戻されてしまうからであった。


『あ~、ひとつ誤解が無いように言っておくが……これは私の趣味ではないぞ? この塔に初めから設置されていた仕掛けだ。恐らく兵の訓練のために、ランジールの馬鹿王が作らせたものだろう』


 どこからともなく、低い女の声が聞こえてくる。彼女こそがこの塔を占拠した魔女、ジュリアンテだ。

 登ってくるシェリィたちをどうやってか監視している。というか覗いて楽しんでいる。


「どうでもいいこと気にしてないでとっとと降りてきて戦えー!」


 四人の中では一番余裕のあるルキが怒る。


『嫌だよぉ? 聞いたところ君たちはかなりの強さらしいな? この塔で試して気に入ったら君たちも部下にするのだ。それにこれは趣味と暇つぶしも兼ねている。雑魚はつまらんから相手にしないがね』

「ざっけんじゃねーわよ! アンタの手下になるくらいなら死んでやるわ!」


 クイナがキレた。この状態で大声が出せるのは凄い。


『くはは! 安心してくれ。私のコレクションの一つに、相手の心を意のままに操れる魔道具がある。これを使えば簡単に仲良くなれるぞ?』

(そうか……あの子もきっとそれで……)


 シェリィは先程橋で戦った、雷の魔力をまとった少女を思い出していた。

 虚ろな目をした少女の様子は明らかにおかしかった。



「どあー、やっと終わったー」


 永遠に続くかのように思われた通路をようやく抜ける。

 体力のあるルキとクイナは軽く息切れする程度ですんでいるが、メリルとシェリィは重症だ。

 床に寝転んで大きく呼吸している。汗ぐっしょりではぁはぁ言っているためかなりエロい。


「はぁ~、疲れた……シェリィとメリルが回復するまでちょっと休憩ね」


 その場に腰を下ろすクイナ。足をマッサージして次に備える。


「橋で戦ったあの女の子、やっぱり魔女に操られてたのかな」


 ルキは立ったまま、腰に手を当てクイナへと話し掛けた。


「十中八九そうでしょ。報酬目当てで魔女に挑んで、返り討ちにあったってトコね」

「このまま登って行けばいずれ戦うよね。どうするの? 手加減なんてしてられる強さじゃないよ」


 直接言葉にはしなかったが、殺すのか? という意味の問いかけ。


「わかんないわよ……そんなの……」


 クイナは答えることが出来なかった。


「……私がなんとかするよ」


 呼吸を整えながらも起き上がり、シェリィが割って入る。


「シェリィ……」

「あの子とは……私が戦う」


 そう言って、二人を安心させるように微笑んだ。



 体力を回復させ通路を抜けると、狭い部屋に出た。

 目の前に先へと進む扉があるのだが、かたく閉じられており魔力で障壁まで張られている。


「こんな扉、どぉうりゃっ!」


 遠心力を利用し、渾身の力を込めた回し蹴りを扉へと放つクイナ。

 しかし扉を破壊することはできなかった。


「くっそ~、やっぱダメか……」


 くるっと部屋を見回す。


「嫌な予感しかしないわ……」


 部屋の壁にはレバーのようなものが、合計で六個。

 是非下げてください! と言わんばかりに設置されている。


『説明が必要か?』

「いるか! どうせ正解は一つなんでしょ? んで残りはハズレだってんでしょ!」

『くははは、分かっているじゃないか』

「見りゃ分かるわよ!」

「一ついいですか?」


 手を上げて質問するシェリィ。


『お? なんだ? 黒髪のちゃんねーよ』

「外れのレバーを下げてしまったら、どうなるんですか? (ちゃんねー……)」

『んー! その質問には答えられんな? 教えてしまっては面白くないだろう?』

「面白いかどうかが基準なんだ……」


 静まり返る室内、ハズレのレバーを引いてしまえば確実にろくでもないことになるだろう。

 引きたくねぇ……という空気が流れる。


「だー! もうめんどくさいわね! 正解引くまで順番に下げてきゃいいじゃない!」


 業を煮やしたクイナは近くのレバーまでつかつか歩いて行くと、がしっと掴んでから力いっぱい下げる。


「うぎゃっ!?」


 レバーを下げた瞬間、クイナの頭の上に謎の液体がざばーっと降り注いだ。

 やたらぬるぬるネバネバしていて気持ちが悪い。


「なによこの嫌がらせ……」


 直後、異変に気付く。


「……ん?」


 頭が、顔が、首筋が、腕が腹が背中が足が……


「あ、あああああああ!? かゆい! かゆいかゆいかゆ~い!!!」


 悲鳴を上げながら倒れ込み、床をのたうち回るクイナ。

 服を脱ぎ、両手で体中をかきむしっている。


「ひえええ……クイナちゃん……」


 メリルが心配して近くによるが触れることが出来ない。

 クイナがまき散らしている粘液がこれ以上近付くことを拒んでいた。びちゃびちゃぬるぬる。


「クイナ……成仏しろよ、なむ~」

「死んでないわ! けどかゆいぃぃぃぃぃ!」

『なかなかいい反応をするな? ポニーテールよ。少し気に入ったぞ? ちなみにそれはタピオーカーというモンスターの体液だ。安心しろ、痒みはじきに治まる』

「ちっくしょー! 殴る! アンタは絶対ぶん殴る! あぁぁかゆいかゆいぃぃ……」

「クイナちゃん……くっ……」


 辛そうに目を背けるシェリィ、これ以上見ている事は出来なかった。



「犠牲は出たけど、これで残り五分の一にはなったわけだ」


 今度はルキがレバーの一つに手を掛ける。


「ルキちゃん……大丈夫?」

「まかせて! シェリィはそこで見ててね」


 ぐっと親指を立ててウインクした。そして一気にレバーを下ろす。


「っ! うしろ!」


 何かに反応したルキが振り返り、短剣を振るった。

 すると真っ二つになった矢が床に落ちる。ルキに向かって飛んできていたようだ。


「ルキちゃん流石!」

「へへーん、久しぶりに良いとこ見せられたかな?」

『チッ、やるなちんまいの……あ~あ、矢には超強力媚薬が塗ってあったんだがなぁ……結構貴重なものなのに……』


 シェリィに頭をなでられているルキを見て、それは少し見てみたかったなぁ……と思うメリルであった。



 ルキの活躍により、レバーは残り四つ。

 そしてようやく痒みが治まってきたクイナが立ち上がる。


「あうう……下着までぬるぬるになっちゃってる……」


 嫌そうな顔をしてから服を着直す。

 いっその事裸になってしまいたいが、敵地のど真ん中でそんな恰好は出来ない。

 恐らく大丈夫だろうがあまりにもマヌケである。


「さぁさぁ! ガンガンいくよー」


 新たなレバーをガコンと勢い良く下げるルキ。


「どっからでも来い!」


 辺りを警戒するも反応がない……程なくして……

 ピンポーン! という音が部屋に鳴り響いた。


「お?」

『正解だ、先に進むがいい。くそっ、次は十個くらいに増やすか……』


 ジュリアンテのつまらなそうな声と共に扉が開く。


「なんだ終わりかー。あはは、大したことなかったなー」

『あまり調子に乗るなよ? チビ助。次はこの塔で最強の番人が君たちを待ち構えているぞ?』

「……まだ続くの?」


 心底嫌そうな顔で、シェリィがぼやいた。



 先へと進み、階段を上がり、さらに先へ。そこから再び階段を上がる。


「ふぅ~、大分登って来たね~」


 上がりきったところで足を止め、汗を拭きながら、メリルが息をつく。


「階段の一つ一つがやたら長くて疲れるのよね」

「外から見た感じかなり高い塔だったからなー、てっぺんまではまだありそう」

『大体半分くらい、といったところかな? この高さが私は気に入っているんだがね』

「……ナチュラルに会話に入ってくるわねアンタ」

『侵入者の監視というのはなかなか退屈なのだ。それくらい許せ。唯一の部下もあまりお喋りなタイプではないし、暇なのだ』

「部下……雷の魔法を使う小さな女の子ですね? 片側にしか刃の付いてない、変わった形の剣を持った」

『うむ、その通りだ。橋で戦ったのだったな? 強かっただろう? 私の自慢の部下だ。名を『エルク』という』

「エルクちゃんっていうんだ……あの、その子は自分の意思であなたの部下になったのですか?」

『いいや? この子は気性が荒くてね。何が何でも私を殺そうとしてくるので、洗脳して仲良くなったのだよ。強いし可愛いのだが、これではからかい甲斐がなくなってしまって少し寂しいな?』

「そうですか」


 少しだけ、笑顔を見せるシェリィ。


『ん? どういうことかな?』

「これで……心置きなくあなたと戦えますから」

『ククク……なるほど、それはいい』


 シェリィたちは頂上を目指し、さらに足を進めていく。



「おー、また扉かー」


 再び扉が四人の行く手を阻む、しかし今度は付近にレバーが見当たらない。


「さっきと違って魔力障壁はないね……」

『やっとたどり着いたな? 今度は君たちの強さを見せてもらうぞ? 扉の向こうには、私の自慢の自立起動魔道具を配置してある。倒せないようならば、私と戦う資格はないな?』

「はん! 面白いじゃない! こういうのでいいのよ、こういうので!」


 変な液体をかけられたり、媚薬を盛られたりするよりは精神的に大分楽だ。

 クイナは勢いよく扉を開け放ち、中へと入って行く。そこで――


「ほぎゃああああああああああああ」


 絶叫。


「クイナちゃん!? えっ……きゃあああああああああああ」


 次に入ってきたシェリィも、絶叫。


「二人ともどうしたの……? ひっ!? ひぎゃあああああああああああ」


 メリルも、絶叫。


「なんだなんだどうしたー」

「ルキちゃんは見ちゃダメ!」


 慌ててルキの目を塞ぐシェリィ。

 そして自分は目を細めながら、恐る恐る前を見た。

 扉を抜けた先は通路のような空間になっている。その奥には次の階へと続く階段が。

 ここまでは普通だ。問題はその階段を守るように存在しているモノだった。

 それは精巧に出来た石像だった。筋骨隆々の、たくましい体をした男性の石像。

 まるで本物のマッチョをそのまま石化したかのように、精巧に出来ている。

 理由は分からないが素っ裸である。

 素っ裸で。

 あらゆる部位が精巧に作られているマッチョの石像が。

 何故かМ字開脚のポーズで安置されていた。


「ななななな、何よアレ! (ドキドキ)」

『何って私の魔道具だよ。警備用の石像でな? 触ると意志を持って動き出し、侵入者と戦うのだ。マイケル君という』

「ふ、服くらい着せてあげたらどうなんですか!?」

『妙な事を聞くな。石像に服着せてどうする』


 変なところで普通な魔女である。


「なんだなんだ? なにがあるんだー?」

「ふええん変なもの見ちゃったよぉ……」


 目を塞がれたままのルキと泣き出してしまったメリル。


『本来は二体一組の魔道具でな……相方であり恋人でもあるビリー君もセットだったのだが……前回塔を登ってきたエルクによって破壊されてしまったのだ……』


 よく見ればマイケル君は悲しそうな表情をしていた。悲しみのM字開脚。


『ほらどうした? とっととマイケル君に触れろ。そして戦え。彼を退かさねば先へは進めんぞ?』

「い、いや、だって、動くのよね……アレ(モロに見ちゃうじゃない!)」


 頬を赤く染めてもじもじし始めたクイナ、さっきまでの威勢がどこかに行ってしまった。


「離してよシェリィ、あたしもマイケル君みたーい!」

「ダメったらダメです!」

「ぐすっ、わたしが処分するよ……」


 涙を拭きながらマイケル君に近付いていくメリル、直視しないように気を付けながら。


『お!? ついに戦うか! さぁ見せてくれ! 君たちの力を!』

「えいっ」


 マイケル君の足にちょんと触った。そして動きだした瞬間に、いずこかへと消えていくマイケル君。


『は?』

「ふぅ、ごめんねメリルちゃん……嫌な役目させちゃって……」

「いいんです、シェリィさん。わたしにしか出来ないことだから……」

『……ピンクのツインテールよ』

「はえっ!? わたしですかぁ?」

『ちょっと君の能力は便利すぎないか? この塔の中では禁止するというのはどうだろう?』

「いやです」

『そうか……嫌か……』


 マイケル君も無事突破した四人、頂上を目指し、さらに塔を登って行く!



「なんだありゃ? ボール?」


 途中で上を向いたルキ。空中には謎の黒い球がふわふわと浮いていた。


『ああそれか、無視で構わん。人間に取り付いて一定時間が経過したら破裂する球なんだがな……どうせ巨乳の能力で飛ばされてしまうのだろう? 時間の無駄だ無駄』

「巨乳って……」

『あ~あ、あれは他の人間になすり付ける事でしか体から離せない素晴らしい魔道具なんだがなぁ……仲良さそうなパーティーの絆が崩壊してギスギスするところが見たかった』


 なんて意地の悪い魔道具だ。


「ちなみにさー、あの球が破裂したらどうなんの?」

『知りたいか? あれの中には『究極下剤、ナイアガラ・バスター』がたっぷりと入っている。一滴でも体内に入ればしばらくうんこが止まらんぞ? 君たちにぶちまけてみたかったなぁ……残念だ、ああ残念だ』

「ヒィ……」


 あまりの恐怖に青ざめるクイナ。


『あれをぶつけた時のエルクの反応は素晴らしいものだったなぁ……録画もしっかり取ってある。私の宝物だ』

「エルクちゃん……」


 少女の心の傷を思い、無事に助け出す事を強く誓うシェリィだった。



 その後も四人は様々な嫌がらせを受けるも、力を合わせ無事に突破していく。

 メリルの技で大半のギミックを無効化できたのも大きい。

 そして、ついに塔の頂上へと登り詰めようとしていた。


「殴る……あの女だけは絶対に殴る……」


 カツン、カツンと、頂上へ続く階段を上がりながら、決意を固めるクイナ。


「うぅ……わたし……ここで何か大切なものを失っちゃった気がする……」

「あはは、あたしは結構楽しかったけどなー」

「メリルちゃん泣かないで……さっさと終わらせて今日の事は忘れよ? ね?」


 見上げればそこにはもう青い空が見えている。長い塔もようやく終わりが近付いて来ていた。



 最後の階段を上り、頂上へ出たシェリィたち。そこで待っていたのは、二人。

 際どいミニスカートのメイド服を着せられたエルクと、黒いマントを羽織った、金髪の女。

 魔女ジュリアンテだ。


「ようこそ! どうだったかな? 私の塔は」


 腕組みをしてジュリアンテは不敵に笑う。

 身長がやたら高いので、シェリィたちを軽く見下ろすような形になる。


「最悪ですね……」

「最初のやつ以外はまぁ楽しめたかなー」

「感想はこの拳に込めて返させてもらうわ」

「わたし、今日ほど転移の技が使えて良かったと思った日はありません……」


 それぞれが感想を言いながら武器を構える。


「くはは! そうかそうか、楽しんでくれたか。私たちが勝ったら君たち四人も部下にすることに決めたぞ?」


 そう言ってジュリアンテも構えを取る。足を開き、拳を握り込んだ。

 マントの裏には不思議な道具がいくつも括りつけられている。


「侵入者を排除します……」


 最後に、刀を抜いて構えたエルク。

 メリルの札は既にはがされており、体中を雷の魔力が覆い始める。


(メリルちゃん、例の作戦……お願いね?)

(……うん、シェリィさん……無理はしないでね……)


 メリルに目配せし、何かを確認したシェリィ。

 ジュリアンテとエルク。二人を相手に、シェリィたちの戦いが始まる――














 



 

 






 

 





 

 


 

 

 






 













 



 


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