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×10 不思議な世界で出会った剣士 後編



 荒れ果てた地の中央辺り、そこだけが別の世界であるかのように、豪華な屋敷が建っている。

 屋敷の大きな扉の前にいるのは、小柄で活発そうな女の子、ルキだ。


(こんなところに人が住んでるとは思えないけど……)


 とはいえ他に行くアテもない。扉に近付き、中へ入ろうとするが――


「えぇ……」


 ギィ――と音を立て、扉はひとりでに開き始める。露骨な誘い。


(入って来い、って事かー)


 気を引き締め、腰から短剣を抜く。警戒しながらも、屋敷の中へと入った。

 最初に目についたのは、横に広い階段だ。少し進んでから左右に分かれ、二階へと続いている。

 一階の広間にはドアがいくつもあり、何処へ向かうべきかを迷わせる。

 どうするべきか、と立ったまま考えていると、小さな火の玉が現れ、ふわふわと階段に沿って、二階へと上がって行く。

 そして階段が終わったところで停止、ルキを待っているようだ。


(ここまであからさまだと、罠ってよりかは案内されてる感じだな。いいさ、行ってやる)


 火の玉を追い、階段を上がり二階へ。その後も何処かへ向かう火の玉について行く。


「ここね、案内ごくろー」


 ひと際大きな、両開きのドアの前で火の玉は消える。ルキは礼を言ってから、ドアを開き中へと入った。


「よ~こそ~、私の屋敷へ」


 入った先は、大広間になっていた。

 家具などはほとんど置かれておらず、部屋の隅にソファーがいくつかあるだけだ。

 その中央に立っていたのは、剣を背負い、鎧を身に着けた、長い髪を三つ編みにした女性。

 ニヤニヤと笑いルキを見ている。


「こんちは、元の場所に戻るにはどうすりゃいいの?」


 負けじと笑顔を作り、ストレートに質問をぶつける。

 目の前の相手が、事態の元凶だという事は一目でわかった。


「あら、ダメよ? そんなこと。あなたたちは私の大切な遊び相手なんだから」

「あなたたちって言ったな? やっぱりみんなも来てるのか」

「ええ、メリルちゃんとクイナちゃんは、もう私とお友達になってくれたわ。今はあなたと遊びたいから、少し大人しくしてもらってるけどね」


 二人の名前を聞いた瞬間、ピクっと眉を上げたルキ。


「……あの二人がそう簡単に捕まるとは思えないなー、どんな手を使ったの?」


 作った笑顔は崩さず、軽い口調で話すルキ。だが目は笑っていなかった。


「クイナちゃんは、屋敷の近くで行き倒れてたのを助けてあげただけよ? メリルちゃんは……ちょっと壊しちゃったけどね! あひゃひゃひゃひゃ!」


 聞き終わる前に、ルキは走り出していた。

 短剣を逆手に持ち、圧倒的な速度で女に迫る。

 狙うは……首。急所を狙う事に躊躇(ちゅうちょ)は無かった。


(剣は抜かせない!)


 (くつがえ)しようがない初動の差。

 女がようやく背中の剣に手を掛けた時には、ルキの短剣は首に届こうとしていた。

 その時――ギィン、と金属音が鳴り響く。

 女に外傷はない、その手には既に剣が握られている。

 一方ルキの短剣は宙を舞っていた。


(なっ!?)

「ウッヒャア!」


 驚き固まるルキに女は剣を振る。かなりの速度だが、かすっただけで済んだ。

 落ちてきた短剣を片手で受け止め、今度は顔面を狙うが……後ろに下がられてしまった。


(今のは確実にトれる状況だったはず……いつの間に剣を抜いた……)


 威嚇する猫のように姿勢を落とし、ルキは女を睨みつけた。

 攻撃の正体が掴めない以上、迂闊には踏み込めない。


「イッヒヒ! 速いわね。いきなり使わされるとは思わなかったわ」


 嬉しそうに、女は話す。


「でも、私の剣はもっと速い……『神速剣』っていうの、素敵な技でしょ?」


 恐るべき速さで、女は剣を振った。遅れて音が聞こえ、ルキの服が少し裂ける。


(速い……あの時のシェリィみたいだ……)


 見てから避けるのは不可能と判断し、間合いを開ける。


「安心して? あなた達は私の遊び相手だから、殺しはしないわ……飽きるまではね! あひゃ! あひゃひゃひゃ!」


 笑いながら距離を詰めてくる女。苦笑いをしながら後ずさるルキ。


(まいったなー、ちょっと厳しいかも……)


 邪悪な笑みを浮かべ、女はルキに剣を振った――



 砂漠にあるオアシス。木陰に座り、シェリィは瞑想をしていた。

 自分の魔力を感じ取り、コントロールするために。

 腕を組んでその姿を見守るのは、幽霊のような女性、アイラだ。彼女は一瞬、何かに気付いたような表情をした。


(短剣の子も捕まってしまった……これでもう頼れるのはシェリィだけね。狂った私があの子たちに飽きるまで……十日程度かしら)


 そんなことを考えながらシェリィを見る。既に魔力が活性化を始めており、黒い髪がゆらゆらと揺れていた。


(流石は闇の魔力を持って生まれた天才……私とはモノが違うわね。これなら十分間に合う。最低限の剣術と、闇の魔力による肉体強化……そして、私の神速剣をこの子に伝える!)



「ルキちゃん! ルキちゃん! 大丈夫!? 目を覚まして!」


 気を失っているルキの顔を覗き込んで、メリルが声を掛けている。


「ハァ!?」

「ふぎゃあ!」


 飛び起きたルキとおでこがぶつかってしまった。ごっちんこ。


「ふええ……いた~い……」

「いちちち……あれ!? メリル! 無事だったのかー!」


 ぱぁっと明るい表情に変わったルキ。

 気によるガードが間に合わなかったのか、メリルは額を抑えてうずくまってしまっている。


「他人じゃなくて自分の心配をしなさいよ。アンタ体中傷だらけで連れてこられたのよ? メリルがいなかったらヤバかったんだから」

「クイナ!」


 近くに立っていたのはクイナ。口調は厳しいが、優しい笑顔を浮かべていた。ルキの元気な姿を見て安心したようだ。


「ここ、どこ?」

「アイラとかいう奴の屋敷の部屋、さっきまで戦ってたんでしょ? 派手にやられたわね~」

「あーそうだった……もう少しであの技に対応出来そうだったんだけどなー」

「へぇ、あいつ強いんだ?」

「かなり、ね。特に剣速は圧倒的だよ。あらかじめ知ってないとまず勝てないと思う……あれ? そういえばシェリィは?」

「まだ来てないわね。この世界を彷徨ってるんじゃないかしら?」

「そっかー、シェリィが来るまでには倒さないとな……クイナとメリルがいればきっと勝てるよ!」

「あ~……それなんだけどね……」


 クイナは袖をまくって腕をルキに見せた。なにやら黒い文字のようなものが描かれている。


「なにそれ?」

「呪印よ。魔族が使う呪いね。これがある限り、アタシらはアイラに逆らえないってワケ。アンタにもしっかり付けられてる」

「うわ! ホントだ、きもちわる!」

「アイツここで退屈してるらしくてね。アタシらに暇つぶしの相手をさせるつもりみたい」


 腕の呪印をしばらく見つめた後、苦笑いでクイナを見て、ルキは口を開いた。


「……ねぇクイナ……これってさ……かなりマズイ状況じゃない?」

「……マズイわよ」


 黙ってしまう二人。額をさするメリルのうめき声だけが、その部屋に響いていた……




 そして、十日後――

 枯れ果てた荒野に、シェリィとアイラはいた。

 足元にはバラバラに引き裂かれたモンスターの死体が……三体。


「ふぅ」


 カチン、と音を立て、シェリィは剣を鞘に収めた。


「いい感じね、シェリィ。本番前の肩慣らしにはなったんじゃない?」

「そうですね……」


 返事をした途端、早足気味に歩き始めたシェリィ。向かう先にはもう屋敷が見えている。


「焦ると剣が鈍るわよ? 三人はまだ無事なんだし、少し落ち着きなさい」

「それでも……心配です……」


 幽霊のようになっているアイラは、ふわふわと浮かびながらシェリィに付いてくる。


「もうすぐお別れだし、少し私の事を話してもいい? 戦いとは関係ないけど」

「……どうぞ」


 シェリィの気を落ち着かせるためだという事は、何となく察しがついた。


「私はね。勇者アニタに憧れて、剣を学び始めたの」

「勇者?」

「今から千年前、聖王アレスによって魔王は倒された。それから五百年後、再び現れた魔王に立ち向かったのが、勇者アニタ様。とても強い剣士で……あなたと同じように、生まれつき闇の魔力を持っていた」

「アニタ様も……」

「苦労したらしいわよ? 闇の属性なんて一般的には知られてないから、普通の魔法が一切使えない彼女は、ずっと落ちこぼれ扱いだったらしいわ」


 そんな勇者の事を、誇らしげにアイラは語る。


「女が魔法以外で戦うなんて馬鹿にされる時代よ? それでも彼女は負けなかったの。必死で剣を学び、人々のために戦った。そして自らの才能に気付き、鍛え上げた剣と、闇の魔力を使いこなし、魔王を打ち倒した」

「素敵な……人ですね」

「でしょう? 私は子供の頃からアニタ様に憧れてたの。彼女のようになりたいってずっと願っていた……」


 ダメだったけどね、と言ってアイラは悲し気な笑顔を作る。


「シェリィ、私はね……あなたはアニタ様の生まれ変わりなんじゃないかなって思ってるのよ?」

「な、何でですか?」

「だって偶然にしては出来すぎてるもの、極めて珍しい闇の性質を持っていて、本人はそれを知らずに剣だけで戦っている……アニタ様そのものじゃない? ちょっと教えただけですぐに強くなってしまったのも変よ。天才なんて言葉じゃ納得できない……きっとあなたは元々知っていた技術を思い出しているだけなんだわ」

「思い出している……か」


 記憶喪失の事はアイラには言っていなかった。


「そんなあなたに終わらせてもらえるなんて、こんなに幸せな事もないわ……」

「アイラさん……」


 そんな話をしている間に、二人は屋敷の前まで来ていた。足を止め、気を引き締めるシェリィ。


「ここにみんなが捕まっているんですね」

「ええ、私を斬れば結界も崩れるから、全員無事に元の場所に戻れるはずよ」

「アイラさん、今までお世話になりました……」

「お礼はいらないわ。自分のためだもの、必ず勝ってね。シェリィ……」


 最後にそう言うと、アイラはすぅっと消えてしまった。


(みんな……待っててね!)


 力強く扉を開け、シェリィは屋敷の中へと踏み込んで行く……



「う~ん……ペガサスナイトをここへ移動させるわ」


 困った顔で、チェスのようなゲームをしているのはクイナと……


「くひひ、じゃあアーチャーを前に出しちゃおうかな?」


 相変わらずニヤついているアイラだ。


「うっ! やっぱ下げる……」

「な、なにやってんだクイナー! しっかりしろー!」


 遠くからルキの声が聞こえてきた。状況が悪いのは見なくとも分かったようだ。


「さらにぜんし~ん!」

「ううっ! アーマーナイトで防がないと……」

「クっ……クイナちゃ~ん! それだめぇ、だめだからぁ!」


 同じく遠くからメリルの声が。


「あらいいの? ロードががら空きよ?」

「あっ」

「ざ~んねん! 私の勝ちね~、あひゃひゃひゃ!」

「くぅ~……ごめんね、ルキ、メリル……」

「はい! それじゃあ罰ゲームのお時間よ~」


 アイラはパチンと指を鳴らした。


「ふっ、ふざけんなクイナー! このアホー!」

「やだやだやだ、あれはもういやぁ!」


 ルキとメリルは椅子に両手と両足を固定されていた。

 アイラが指を鳴らすと同時に、二人の周りには白い手が大量に出現する。


「さぁ! ショータイムよ!」


 再びパチンと指を慣らすアイラ。すると大量の手は一斉に……ルキとメリルをくすぐり始めた!

 こちょこちょこちょ。


「あはははは! いひひいひぃ、もっ、もうやべっ……うひゃひゃひゃ――」

「あんっ、だめ! だめだって! そんなとこまで……んっく……あひゃあぁ――」


 クイナは、二人の笑い声を聞きながら目を瞑り、合掌。


「あははははははははは……ひぃひぃ……あひゃっ! おっ、お願いだからもう……んくぅっ! あ……あはぁ……」

「なっ、なんでわたしだけそんなところまで……あっ! ああ! あああはぁああああああ! んっ……はぁはぁ……」


 限界を超えてしまったのか、ぐでっとなってしまう二人。

 アイラはそれを満足そうに眺めてから白い手の動きを止めた。


「はいここまで! 続きはもう一回クイナちゃんが私に負けてからね? 次は何して遊ぶぅ?」

「う~ん、何だったら勝てるかしら……」


 大量に並んだボードゲームを見て悩むクイナ。現在全敗中であった。


「……おやぁ?」


 アイラは何かに気付き、いやらしい笑みを浮かべた。


「いっひひ! どうやら来たみたいね。最後の一人が」

「えっ、シェリィが!?」

「ごめんねェクイナちゃん、私シェリィちゃんと遊んでくるわ! 続きはまた今度ね?」

「ま、待ちなさいよ! シェリィを傷つけたらただじゃおかないわよ!?」

「あはぁ、だめよぉそんな事言っちゃ……ぐちゃぐちゃにしてあなたの前に連れてきてみたくなっちゃった♪」

「くぉんの!」


 アイラに殴りかかるクイナ、しかしその拳はすんでの所で止まってしまう。


「残念でしたぁ、呪印がある限りは無駄よ? 一回試したじゃない」

「くっ……」

「じゃあ行ってくるわね。戻ってきたら五人で遊びましょ?」


 そう言うと、アイラは上機嫌に部屋から出て行ってしまった。


「……ルキ、メリル、大丈夫?」


 二人の拘束を解き、心配そうに語り掛けるクイナ。


「ふぅふぅ……あんまり大丈夫じゃない……」

「ひぃはぁ……酷いよぉこんなのぉ……」

「あ~、泣かないでよメリル……ルキもしっかりして! アタシたちもシェリィのところへ行きましょ! 行っても何も出来ないと思うけど……」


 ため息をついて、二人を慰める。


「こうなったらもう、シェリィになんとかしてもらう以外にないわ……」


 無茶な期待だという事は自覚しているが、彼女ならばもしや……という思いもあった。

 どうにか二人を立ち上がらせ、クイナたちもアイラを追いかけ、部屋を後にした。



 アイラの屋敷、二階の大広間。以前ルキとアイラが戦った場所だ。

 アイラは腕組みをしてシェリィが来るのを待っている。大きな期待に胸を膨らませて。


(何故かしら? 凄くワクワクする……まるで、ずっと待ち望んでいた誰かと会えるみたいな……)


 やがて、大きな両開きのドアがゆっくりと開き、彼女は現れた。


(来た!!!)


 長くて黒い、美しい髪――

 彫刻のように整った顔――

 すらりと伸びた長い手足――

 一本の剣を持ち、アイラと同じ、闇の気配を持つ女剣士。


「あなたが……シェリィ……」


 思わず見惚れてしまった。シェリィもアイラに気付き、その目を見つめる。


「アイラさん……待っててください。今、あなたを開放します」


 ゆっくりと剣を抜き、鞘を捨てた。

 それを見て、アイラも背中から剣を抜く。

 言葉を交わさず、互いに一歩、また一歩と距離を詰めていく。

 そして……両者は剣の間合いに入った。


「うりゃあ!」


 先手を取ったのはアイラ、脳天に向けて剣を振り下ろした。

 軸足をそのままに、横を向くように避けるシェリィ。

 アイラはすぐさま剣を振り上げ、シェリィを追撃する。上半身を仰け反らせ、これもまた避けた。


「はぁ!」


 シェリィは反撃に転じる。細身の剣をしならせ、アイラの額目掛けて突きを繰り出した。


「ひゃあ!? 危ない危ない……くっふふふ、やるわねェ、シェリィ。とっても楽しいわ……」


 後ろに飛び、アイラが初めて話し掛けた。

 うっとりとした目をしている。シェリィは返事をせずに剣を構えた。

 そして両者は強く床を蹴り、激しく切り結ぶ。


「シェリィって、あんなに強かったっけ……」


 開いたドアから部屋を覗き込んでいるのは、クイナとルキとメリルだ。


「すごい! すごいよシェリィさん! この前よりずっと強くなってる!」

「へへへ、強くなったんじゃないよ? あれが本来のシェリィなんだ! あたしを助けてくれた時はもっと凄かった!」

「こ、これなら勝てるかもしれないわ! シェリィ! 頑張って! もうシェリィしか頼れないのよ!」


 三人は大きな声を出して応援を始めた。

 アイラと激しく切り合いながらも、その声はシェリィに届く。

 戦いの最中だというのに、くすっと笑ってしまった。

 三人の元気な声を聞き、シェリィの剣はさらに鋭さを増していく。

 長い髪をなびかせながら、舞うように、美しく剣を振るう――


「ぐあっ!?」


 その剣はついにアイラを捉える。浅くはあるが左腕に斬撃を与えた。


「アハッ! アハハハハハ! 強いわね、シェリィ。そろそろ私も本気で行くわよ?」


 剣を構え直し、邪悪に笑うアイラ。


「まずい! あの技が来る! シェリィ! 凄い速度の剣が来るよ! 間合いに入っちゃ駄目だぁ!」


 焦って叫ぶルキ。シェリィは一瞬だけ、ルキの方を見た。安心させるように微笑んで。


「シェリィ……?」


 アイラはシェリィへと飛び、腕と剣に魔力を込める。体中を強化していた力を、一時的に集中させた。


「あひゃひゃひゃひゃひゃ! 殺しちゃったらごめんねェ! シェリィ!」


 音すらも置き去りにし、高速の剣がシェリィへと向かって走る! だが――

 ガギィン! と巨大な金属音が響く。

 その後……アイラの剣と共に、二本の腕が地面に落ちた。

 大量の血液がアイラの足元に流れる。

 彼女を悲しそうに見つめるシェリィには、傷一つ付いてはいない。


「……剣を弾いて、腕を切り落としたのね……今のは……私の神速剣……どうして? あなた……何者なの?」


 ヒビが入ってしまった剣を握りなおし、シェリィはアイラへと近付いていく。

 彼女との約束を果たし、止めを刺すために。

 そして涙を流しながら、初めて、狂ってしまった彼女へと話し掛けた。


「何者かなんて……私自身にも分からないんです。消えてしまった自分を探すために、旅をしています」


 歩きながら、剣を構え、話す。


「本当はこんな事したくないけれど……あの子たちは、一緒に思い出を探す、大切な仲間なんです。あなたに渡すわけには行きません。だから……あなたに託されたこの技で、この世界から出ていきます」


「…………そっか。そういう事か、私が教えたのか、通りでね! あひゃひゃひゃ!」


 シェリィの放った神速の剣が、アイラの首を斬り飛ばした――



 決着がつくと同時に、世界は歪む。

 シェリィたち四人の意識は一瞬飛び……気が付いた時には、狭い小屋の中へと戻っていた。


「戻って……こられたみたいだね」

「シェリィ~~~~~~~~!」

「え~んシェリィさぁん!」


 ルキとメリルがシェリィに抱き付く。そのまま泣き始めてしまった。


「ふふふ……みんな久しぶり……無事でよかった……」


 二人の頭を撫でるシェリィ、その姿はまるで姉のようだ。


「シェリィこそ大丈夫? っていうか、何があったのよ……別人みたいに強くなっちゃって……(いいなぁ二人とも……)」

「うん、ちょっとね。色々あったんだ。少し休んだら話すよ」

「わ、分かったわ……あ、シェリィ……剣が」


 クイナがシェリィの剣の異変に気付く。刀身が折れてしまっていた。


「大丈夫だよ。アイラさんが最後に、代わりの剣を持たせてくれたから」

「え?」

 そう言ってシェリィは近くの床を見る。

 そこには、バラバラに砕けた水晶玉と、アイラが使っていた、立派な剣が置かれていた――


 

 


 

 

 



 

 



 




 


 



 

 

 







 









 










 

 






 

 

 



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