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×1 消えた思い出、残った感情



 キィ……キィ……と、木で出来た何かが軋むような音が聞こえる。

 音は一定のリズムを刻んでいて、不思議な心地良さを耳に与えてくれた。

 音がそれを手助けしてくれるかのように、自らの意識が形作られていくのが分かる。

 目の前が明るくなり、匂いを感じた。

 体は横になっており、柔らかく、温かいものに包まれて眠っていたようだ。

 自分の意思で、というわけでもなく、自然と『彼女』の目は開かれていく――


「うおっ! 気付いた!? 気付いたかぁ!?」


 目の前に、顔。女の子の顔だ。くりくりした目が彼女を覗き込んでいた。

 だが、近い。とても近い。もう少し近付けば、キス出来そうなくらいの距離でデカい声を出すせいで、彼女の顔には少しだけ唾がかかってしまった。汚いね。


「ここは何処……? 私は……誰……」


 彼女の第一声は、あまりにもありがちなやつだった。ありがちすぎて逆に見ないやつだ。


「ここはアマダの村だって! あんたの名前は……あたしには分かんないや!」


 顔に再び唾が飛ぶ。近くでデカい声を出すために、耳が痛くなってしまった。


「とりあえず……どいてもらっていいかなぁ?」

「あ、ごめん。テンション上がっちゃって」


 女の子はそう言って謝ると、ようやく彼女から顔を離す。

 そしてすぐ後ろにあった椅子に腰掛けた。

 木造りの少し古くなった椅子がギィギィ軋む。

 ああ、あの音はこれだったのね……と考えながら、彼女は体を起こした。

 どうやらベッドに寝ていたらしい。


「あたしの名前は『ルキ』! 助けてくれてありがとう! あんたは命の恩人だよ!」

「助けた? 私があなたを?」

「そうだよ、覚えてない? あたしがあのデカイ奴にやられそうになってた時にぃ、ドバーン! って出てきてシュババーって光ってズッギャアアってやっつけちゃったんだから! めっちゃくちゃカッコよかった!」


 ルキはシャドーボクシングのような動きをしながら興奮して語っている。

 擬音が多すぎてよく分からないが、彼女に助けられた事は間違いないようだ。


「分からない……なにも思い出せないよ……」


 頭の中にもやが掛かってしまっているようだ。過去の事を何一つ思い出すことが出来なかった。

 それを聞いたルキは何故か笑い出す。


「あははは、あんたもそうなんだ。実は『あたしも』なんだよね~。気付いたら、この村の近くの山に倒れててさ。起きたらそれまで自分が何やってたか思い出せないの!」

「そう……あなたも……でも私は、自分の名前すら思い出せない……」


 何か記憶の手掛かりは無いかと、自分の体を確認してみる。

 とりあえず性別は女性だ。服装は何故かボロボロで、髪の毛は黒くて長かった。

 右腕には黒い腕輪が付いている。

 彼女が自分の腕輪を見つめていると、ルキが再び大声を出す。相変わらずうるさい奴だ。


「それ! それだよ! それもあたしと同じなんだ! 黒い変な腕輪!」


 ルキの右腕にも全く同じ腕輪が付いていた。不気味に黒光りしている。


「記憶喪失に黒い腕輪、私達何か関係があるのかな?」

「きっと何かあるんだよ。だからさ、一緒に調べようよ! 実は独りぼっちで心細かったんだ、へへへ」

「そうだね……」


 彼女がベッドから立ち上がると、ルキも椅子から立ち上がる。

 身長は彼女の方がやや高く、ルキとは目線が合わない。


「うわ、こうやって並ぶとスタイル良いのがよく分かるな~、おまけに美人だし」

「そ、そうかな?」

「羨ましいぞっ! このっ!」


 一瞬、ルキの手がシュッと音を立ててブレる。

 そしてその手にはなにやら白いものが握られていた。


「ふむふむ、白かぁ……イメージ的にはもっとえぐいやつだったんだけどな」


 ルキは女性ものの白いパンツを握っていた。興味深そうに観察している。


「えっ……あれっ……ウソっ!? まさか!」


 彼女は下半身に違和感を感じ、触って確かめてみた――なんと、履いていない。

 いや、一瞬で脱がされていたようだ。

 流石に記憶を無くす前の自分がノーパンでいたとは思えなかった。

 過去の事は分からないが、最低限その程度には自分を信頼していた。


「ルっ、ルキちゃん!!!」

「あははは、ごめんよ~」


 二人の出会いはこんな感じだった。ここから……物語は始まる。



 村の宿から出た二人。歩きながら会話をする。


「ところでなんだけど、いつまでもあんたじゃアレだし、名前を考えないとね」

「名前か……何も思い浮かばないよ……」

「じゃあさ、じゃあさ! あたしが付けてあげる! 『シェリィ』とかどうかな?」


 何故だろう、その名前には聞き覚えがある気がした。


「どうしてシェリィなの?」

「ん~、分かんない! 何となくパッと思い浮かんだのがそれだったんだ」

「そうなんだ、でも良いと思う。それじゃあ私はシェリィって名乗る事にするね」

「へへへ、気に入ってくれたなら良かったよ」


 ルキは上機嫌になり足取りが軽くなる。

 分かりやすい性格をした女の子のようだ。

 軽く口笛まで吹き始める、下手くそで音が上手く出ていないが。


「シェリィはさ、戦い方は覚えてるの?」

「ううん、まったく……私が戦ってルキちゃんを助けたなんて、ちょっと信じられないな」

「そっかぁ、そういうのはあたし覚えてたから、もしかしたらって思ったんだけど」


 どうやらシェリィとルキでは、同じ記憶喪失でも差があるようだ。


「だったら記憶が戻るまでは、あたしが守ってあげるから安心してね!」

「ありがとう、ルキちゃん。……そういえば今、何処に向かってるの?」

「村の近くの小さな山! 頂上が広くてさ、でっかい岩があったんだよ。あたしがシェリィに助けてもらったのがそこなんだ! シェリィが行けば何か思い出すかもしれない」


 ルキはどんどん歩くスピードを上げていく。シェリィの記憶が戻れば、自分自身の記憶についても何か分かるかもしれない。そんな期待がルキの歩く速度を上げていた。



「うわ、モンスターだ」


 大した事でもないようにルキがぼやく。

 部屋に戻ったらハエがいたとかその程度のノリだ。

 村の入り口を出た直後に、二人は怪物と遭遇する。


「ど、どうしよう!」


 慌てるシェリィ、モンスターの数は二体だ。

 ぐにゃぐにゃしたゼリー状の丸いのと、緑色の皮膚をした、人間の子供程度の大きさの怪物。

 スライムとゴブリンと言えば大抵の人には伝わるだろう。

 二匹はぐにゃぐにゃキーキーと鳴き声(?)を出している。

 人間どもめ、覚悟しろ! と言っているように聞こえなくもない。

 ルキは腰から下げていた短剣をさっと抜き構えると、シェリィに指示を出した。


「緑色はあたしがやるから、ぐにゃぐにゃした方はシェリィお願いね!」

「ええ!?」


 シェリィは、さっき守ってあげるって言わなかったっけ!? という目でルキを見るが、彼女は既にゴブリンを見つめて臨戦態勢だ。

 ゴブリンとスライムも、おっ! そういうことか、やってやるぜ! と言った風に二手に分かれ、それぞれがシェリィとルキの前に来る。


「いっくぞー!」


 ルキがゴブリンに突撃していく。


「ちょ……ちょっと待って! 待って待って!」


 シェリィは目の前のスライムに向かって、涙目で待って待ってのポーズを取るが、スライムにはまるで伝わっていない。

 スライムはその場でぽよんと軽く跳ねると、その弾力を利用してシェリィに勢いをつけて飛び掛かった。


「いやあああああああ!」


 広がったスライムがシェリィにまとわりつき体中をまさぐる。


「あ、ああ……あっ……」


 スライムに押し倒されるシェリィ。

 必死で追い払おうとするも、スライムのぐにゃぐにゃのボディに素手ではどうしようもない。

 スライムは次第に服の隙間から、その中へと侵入を始める。


「はあ、あ! んん、やめ……あっ!」

「うわ~……えっろ……」


 スライムと格闘しているシェリィをじ~っと観察しながらルキが呟く。

 頬が少し赤くなり、何か見てはイケナイものでも見ているかのような気分になってしまう。

 ちなみにゴブリンは既に後ろで死んでいた。

 あれだったら野生のイノシシとかの方が強いんじゃないだろうか。モンスターとは一体……


「んあっ……ルキちゃん! 見てないでたすけ……あっ……」

「ハッ!? ごめんごめん、つい見惚れちゃってたよ」


 急いで駆け寄ったルキが、シェリィの服を脱がす。

 そしてシェリィの体の上で大暴れしていたスライムの核を、短剣でスパッと切った。

 スライムは一瞬で萎んで消滅する。


「はぁ……はぁ……ルキちゃん……ありがとう……」


 片腕を額に当てながら、汗だくのシェリィが礼を言う。

 目はとろんとしており、顔はやや赤く染まっていた。


「うわ~……えっろ……(お礼なんていいよ! 助けてあげるって約束したじゃん!)」


 思わず言葉と思考が逆になってしまった。



 二人は一旦村に引き返す。シェリィが丸腰のままで外を歩きたくないと、泣いてルキに頼んだからである。

 現在二人は武器屋でシェリィの装備を選んでいた。


「鋼の斧とかどうかな、強そう!」

「重くて持てないよ……」

「じゃあ、コレ! 手斧! 投げつける事も出来るよ!」

「……斧じゃなきゃダメなの? 私ルキちゃんみたいな短剣がいいな、軽くて使いやすそう」

「それはあたしと被るからダメ」

「ダメなんだ……」


 何故か斧ばかり使わせようとしてくるルキを無視して、シェリィは武器を選ぶ。


「あっ! これなら……」


 手に取ったのは片手でも扱える、護身用の小さめの剣だった。



「ごめんね、買ってもらっちゃって」


 武器屋を出て、再び村の入り口を目指しながらシェリィがそう言った。


「いいのいいの! 気にしない気にしない。さっきのモンスターからはぎ取った素材が、そこそこの値段で売れたし。お金にはしばらく困らないよ!」


 実際は、スライムにねちょられていたシェリィの姿を録画した、『録画水晶』がかなりの値段で売れていた。

 この水晶は保存しておきたい映像や声を残しておける、大変便利な水晶である。

 本来は重要な指令を出したり、偉い人の言葉を大勢に伝えるために生み出された魔道具なのだが、庶民の間ではもっぱらこういった使われ方をしている。

 ルキは自分用に残しておくことも少し考えたが、今後何かと入用なので泣く泣く売却することにした。

 チャンスがあればもう一度録画したいと思っている。


「武器も手に入ったし、今度こそ山を目指せるね!」

「う、うん。ちょっと怖いけど……」



 二人はそのまま村を出ると、外の平原を少し歩き山へと入って行く。

 せっかく武器を買ったのだから、スライムくらい出てきてもいいのだが、こういう時に限って出てこないのである。人生なんてそんなものだ。

 モンスターと遭遇しなかった事に二人は安堵する。


「よ、よかった。どうにか無事山に入れたね」

「チッ……出なかったか……」


 安堵していたのはシェリィだけだった。新しく買ってきた何も映っていない録画水晶を持って、ルキは舌打ちする。



「山の中にモンスターはいないのかな?」


 山を登りながら辺りを見回し、シェリィは不安そうに言う。


「ああ、いないらしいよ? あたしにもよく分かんないけど、ここは『聖地』なんだって。弱いモンスターは近づけないみたい」


 笑顔のルキが指を立てて説明を始める。


「聖地?」

「なんか聖なる力が充満してるとか何とかで……アマダの村人はここを守ってるんだってさ。村で仲良くなったおばちゃんが教えてくれたんだ」

「私達……なんでそんなところにいたんだろうね……」

「う~ん宴会でもしてて記憶がぶっ飛んだのかな……でもシェリィが記憶を無くしたのはあたしを助けてくれた後っぽいし……」


 そこまで言ってルキは何かを思い出したようにあっ! と言って手を叩いた。


「そうだ! 腕輪だよ! あの時シェリィの腕輪がキラキラ光ってたんだ! 絶対コレが何か関係してる!」


 ルキは自分の腕輪を手の甲でトントン叩く。現在二人の腕輪は特に光ってはいない。


「少し弄ってみたけど……この腕輪外せなくなってるよね」

「そうなんだよな~、あたしも最初取ろうとしてみたんだけど全然ダメ! 宿の風呂でゴシゴシやってもダメだったよ」

「……臭くなったりしないかな?」


 風呂というワードに反応しシェリィは不安になる。腕輪をずっとつけっぱなしというのはたしかに不潔だ。


「……嗅ぐ?」


 ルキが自分の腕をグイッと差し出した。何故かニヤついている。少し見えている八重歯がかわいい。


「え……遠慮しとく……」


 目を逸らすシェリィ。


「遠慮するなよぉ~」

 


 そんなやり取りをしているうちに二人は山頂付近へと到達した。

 そこには何やら台座のようなものがある。その上には小さな岩や石が大量に散乱していた。


「元々あの台座にはデッカイ岩があったんだけどさ。あたしを助けてくれた時にシェリィがぶっ壊しちゃったんだよな」

「これ私がやったんだ……」

「あたしはずっと敵の方を見てたから、どうやって壊したのかは分からないんだけどね。すっごい強い奴でさ、いきなり襲われて……もうダメだ~って思った時に、大きな音がして岩が吹っ飛んだんだよ。次の瞬間シェリィが出てきてズババーンってやっちゃって……」


 興奮しつつも、うっとりした顔でルキは語る。


「あっという間に敵を倒してさ、あたしの方を振り返って微笑んでくれたんだ! その後すぐに気絶しちゃったんだけど……もう、ホンッットにカッコよかったんだから!!!」


 ルキは両手を強く握りしめ、シェリィに顔を近づけてくる。近い近い。唾も飛んでるし。


「そ、そうなんだ……う~ん、でもそれだけじゃやっぱり分からないね。ここにいても何も思い出せないし……」

 顔に掛かった唾を拭きながら、軽く引き気味に答える。

 ルキの目がなんだかガチっぽくて怖いのだ。


「そう? やっぱ何も分かんないかぁ」


 少し落ち着きを取り戻したようだ。二人でどうするべきか考えこむ。


「やっぱりこの腕輪に何かあると思う……腕輪の事を調べてみようよ」

「腕輪かぁ、大きな町の図書館とかに行けば何か分かるかな? 町が何処にあるかも覚えてないけど……」

「私も覚えてない……ふもとの村で聞いてみるしかないね」

「そっか、よ~し! そうと決まったら早速行こう! いつまでも足止めて考えてたら根っこが生えちゃうよ!」

「ふふ……そうだね」


 こうして、二人は下山を始めた。



「あぁ! モンスターだぁ!」


 何故か喜びの感情を含んだ叫びをルキがあげる。

 山を下り町へと向かっている間に再び二匹のモンスターと遭遇した。


「ヒィ……」


 シェリィはモンスターを見て嫌な事でも思い出したのか、青い顔に変わる。

 相手は今回もスライムとゴブリンの二匹だ。この二種のペアは流行っているのだろうか?

 ルキは腰から下げていた短剣をさっと抜き構えると、シェリィに指示を出した。


「緑色はあたしが――」

「緑色とは私が戦うからぐにゃぐにゃした方はルキちゃんお願いね!」


 ルキが言い終わる前に早口気味に被せて言った。どうしてもスライムとの勝負は避けたかったようだ。


「わ、わかった」


 初めて見るシェリィの反応に、驚きながらも返事をするルキ。

 ゴブリンとスライムも人語を理解しているのか、あぁそういう事ッスね! とでも言いたげにそれぞれが二人の前に来る。


「よし、いっくぞー!」


 ルキがスライムに突撃していく。


「こ……こい!」


 買ったばかりの片手用の剣を、両手で握ってシェリィはゴブリンを睨みつけた。


「キキキ……」


 ゴブリンはゆらゆらとシェリィに近付いてくる。


「やぁ!」


 シェリィは走って間合いを詰めてゴブリンにその剣を振り下ろす。


「キキー!」


 しかしシェリィの剣はあっさりかわされ、ゴブリンに後ろを取られてしまう。

 そのシェリィの無防備な背中にゴブリンは……飛んで抱き付いた。


「ええ? なにっ!? きゃっ」


 抱き付いたゴブリンの手が、シェリィの服の中に侵入し上半身をまさぐる。


「あっ、あっ……ああ! やめ……て……あんっ……」

「うわ~……えっろ……」


 ゴブリンと格闘しているシェリィをじ~っと観察しながらルキが呟く。

 録画水晶もバッチリ向けていた。

 彼女と戦っていたスライムは既に倒され消滅している。

 雑魚モンスターの命とは花のように儚いものなのだ。



「ごめんねルキちゃん……毎回助けてもらっちゃって……」


 しゅんと落ち込んだ様子で謝る。

 あの後ルキがゴブリンを倒し、シェリィはゴブリンの魔の手から解放されたのだった。


「い~って事よ! 命賭けの戦いをして生き残ったんだから、気にしない!(凄いのが撮れたぞ、この録画は売らずに取っておこうかな……!)」


 現在二人は村に戻り、馬車乗り場に向かっている。

 腕輪の事を調べるために、大きな図書館のある街を教えて欲しい、と村人に話を聞いてみたところ、レイドルという城下町の話をしてくれた。

 レイドルへはここから馬車に乗り、近くの港町まで移動し、そこから船に乗ればすぐだそうだ。


「あったあった! あれが馬車乗り場だね」


 ルキが小走りになり、馬車乗り場の前にある看板を見に行く。


「うわ~次の馬車まで大分時間あるよ……」


 ルキはげんなりした顔で振り返る。


「シェリィ、どうしようか? 待つの平気?」

「私は大丈夫だよ、少し休みたかったし」

「そっか! じゃあ待とう!」


 こんな時でもルキは威勢がいい。

 早足で近くのベンチに腰掛けると、手招きしてシェリィも座らせた。

 まったりとした時間が二人の間に流れる。


「もしかしたら……さ、あたし達知り合いだったのかもしれないね」


 互いの腕輪を確認しながら、ルキが嬉しそうに言う。


「そうかもね……記憶を無くす前の私は、ルキちゃんを助けて笑顔を見せたんだよね? ルキちゃんを助けるために山を登ったのかも」

「えへへ、そうだったら嬉しいなぁ……」


 ルキは八重歯を見せて笑いながら、隣で座るシェリィにもたれかかった。

 そのまま目を瞑って眠ってしまう。そんなルキの寝顔をシェリィは見つめる。

 自分はルキに守ってもらっている立場なのだが、何故だか無性にルキが愛しく、守ってやりたくなってくる。何故だろう? それはきっと……記憶を失う前の自分の感情……


 シェリィは眠るルキの頭をなでていた。何故そうしたのかは分からない。体が勝手に動いていた。

 そうしていると、とても懐かしいような、温かい気持ちで胸が満たされていく。

 そこでシェリィは何となく気付く。きっと自分は、過去にこうして、眠るルキの頭を撫でていた事があるのだと。

 シェリィが最初に見つけた記憶の手掛かり、それはルキへの……そんな感情だった。




 











 





 



 


 





 





 

 






 



 



 



 

 

 

 

 



 


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