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ブラックは、急いでオズワルトさんのところへ走って向かいました。
広場の真ん中で、赤い液体の上でうつ伏せに倒れていたオズワルトさんを揺らして、ブラックは問いかけました。
「オズワルトさん!オズワルトさん!しっかりしてください」
ブラックは、必死にオズワルトさんを揺らしましたが、返事はありませんでした。キツネのオズワルトさんとリスのブラックでは体の大きさが釣り合いません。彼からしてみれば、ブラックのゆすりなど、蚊が触れるようなものなのかもしれません。
ブラックは、誰かに助けを求めないといけないと思いました。
あたりを見回しました。
しかし、そこには誰もいません。薄暗い広場が、静かに広がっているだけでした。あたりを見回せば見回すほど、恐怖感がだけでした。
追い討ちをかけるように、あたりを見回していると、広場の先の暗がりに丸い二つの光をブラックは見つけました。
ブラックは、瞬時に「ら、ら、ライオンさんかな……」と思いました。
ライオンさんは、とても有名でした。アライグマのジョニーさんなんて比じゃないほどの暴れん坊です。いろいろな人に暴力を加え、時には丸呑みされて命を落とす動物が大勢いました。ライオンさんに対抗できる動物は、いるにはいるのですが、あまりにも臆病で、周りから期待されていないせいか、存在を皆忘れていました。
ブラックは、足がぷるぷると震えながらも、この場に居てもしかたがないと思い、一目散にその場から立ち去りました。
オズワルトさんのことは心配だったブラックでしたが、オズワルトさんを助けるために彼は走ったのでした。
一連の出来事を、クラリスさんに話し終えたブラックは、その場に座り込みました。ちょっとだけ疲れを感じたのです。
「それは、大変だったね」
クラリスさんは、ブラックに慰めの言葉をかけました。
ブラックは、少し力のない返事をしました。しかし、ブラックにそんな返事をしているだけの悠長な時間はありません。
「助けに行かないと……!」
ブラックは、疲れた体に鞭を打ち、立ち上がりました。
「もうひとっ走り行ってきます!」
「ちょっと、待ちなさい」
クラリスさんは、ブラックを止めました。
「いや、でも急がないと!」
「他のみんなに連絡します」
「連絡って……いい方法があるんですか?」
「あら、知らないのかしら?お歌がお上手な彼の方がいるではありませんか。彼に歌を歌って、この辺りの仲間たちにお知らせしましょう。もし、本当にライオンさんが出たとするならば、みんなの命が危ないですからね」
クラリスさんは、冷静でした。大人の余裕です。その姿を見て、ブラックは少しだけ肩の荷がおりた気がしました。それと同時に、自分が冷静でなかったことに気がついたのです。
「先生、コマドリのナターシャは、今どこにおられるかご存知ですか?」
クラリスは、葉っぱのお布団で寝ているお師匠さんに話しかけました。
お師匠さんは、綺麗な鼻ちょうちんを作って寝ていたましたが、クラリスさんが話しかけると、勢いよく鼻ちょうちんが割れ、返事をしました。
「ドングリの中身を砕いて、家の前に撒けば、どこからともなく彼女らは歌を歌いながらやってくる」
一言言い残して、また彼は鼻ちょうちんを作りながら寝てしまいました。
「なるほど……」
ブラックは、師匠の言葉の意味を考えました。
しかし、彼よりも早く理解したクラリスさんは、おうちの地下の貯蔵庫から古いドングリととんがった石を持ってきました。
「さぁ、手伝ってちょうだい」
ブラックは、クラリスさんからとんがった石と古いドングリを受け取って、その場で、ドングリの中身を掘りはじめました。
「クラリスさん、このドングリは何年ものですか?」
「たしか、10年物くらいかしら」
「ええ!じゃあ、とっても美味しいドングリじゃないですか……一口だけ……うわっすごい美味しい」
あまりの美味しさに、ブラックは、その場で飛び跳ねました。
「そうね。美味しいかもしれないけど、オズワルトさんを助けないといけないからね」
「でも、オズワルトさんは既に亡くなってます。助けるのではなく、敵討ちです」
ブラックは、悲しそうな目をしながら、ドングリの中身を掘り掘りしていました。
「あら、まだオズワルトさんは亡くなったわけではないと思うわよ?」
意味深な言葉を、クラリスさんはブラックに向けて言いました。