超ショートコメディ 隣の席の田中君(前編)
~登場人物紹介~
瀬川 歩:高校一年生。将棋が好き
桜井 桂:高校一年生。キザなイケメン。歩と同じクラス
葉月 珠姫:高校二年生。歩の幼馴染。容姿端麗な生徒会長
※本エピソードは高校時代の話です。
歩「たまちゃん聞いてよね。今日の授業すごかったんだ。僕の隣の田中くんがね……。ね、桂」
桂「ああ……。あれは英語の時間だった。歩の隣の席の田中は授業中に寝ていた。気づいた先生が起こそうとして、教科書の文章を田中に読ませようとした」
歩「しかし、田中君は寝てて教科書すらカバンから出していなかった。彼は急いでカバンから教科書を取り出した」
桂「だがここでやつがミスを犯した。取り出す本を間違えたんだ……。やつが取り出したのは魔導書だった。それも古代の悪魔を封印した禁書だった……」
珠姫「……」
歩「そして田中君は魔導書を出したことに気付かず、うっかり皆の前で高らかに中身を読み始めた」
桂「周囲の先生も生徒も気づくのが遅れてしまった。俺も田中が紫の分厚い辞書のような本を掲げたとき、『あれ? 英語の教科書ってあんなんだったっけ? 田中のだけ特注なのかな』と素通りしてしまった。何なら『相当英語の授業に気合入っているな』と好印象まで抱いてしまった」
珠姫「そんなわけないでしょ……」
歩「僕も田中君が『ボッタマビルカソゾグランデボルルルカ……』と読み始めたときは『あれ? これって英語だっけ? それにしては知らない単語が多いな』と素通りしてしまった。何なら『田中君は僕の知らない単語をたくさん知ってるなあ』と感心までしてしまった」
珠姫「それは気づいてよ! というか何語!? 古代語!? 古代語なの!?」
桂「田中の朗読、いや今思えばあれは呪文の詠唱だったんだろう……。それはしばし続いた。時間にして20分ぐらいだろうか」
珠姫「えっ、長くない!? あんたらも先生も詠唱中何してたのよ……」
歩「田中君が『ヴァルデグノーシスドヴァンダードンノームヴェドジェドジヴァインナブロブ』と読んだとき、『あれ? どこを読んでいるんだろう。発音かな? 発音の問題なのかな』と皆思っちゃんったんだ。さらに教科書に『One day in May 2009, Takahashi Naoko went to Kenya. She visited an area in Nairobi.』という例文があったから、皆ここを読んでいると思い込んでしまった」
珠姫「あんたらの採点甘いわね……」
桜「だが、それが間違いだった……。彼が読んでいたのは古代の悪魔を召喚する呪文だった……」
歩「僕らが田中君が魔導書を読んでいることに気づいたときには既に遅かった」
桜「突然、校舎が揺れ始め、空が荒れ始めた」
〜続く〜
珠姫「えっ!? 続くんかい!」
すみません、あまりにも真面目な話ばっかりだったので、唐突にショートコメディを入れてしまいました。
明日22時は「鳥籠の姫君」の続きを更新します。
真面目な話が続くと疲れると思いますので、時たまコメディを差し込むようにします。




