第2話 推理問答
体に負担を掛けないため、春香はベッドの上で翔子の話を訊き、
翔子は横に置いた丸椅子に座っている。
翔子はいままで携わった事件のうち、推理小説に出てきそうな、
謎に満ちたものを選り分けて、問題編と解決編に分け、春香に話していた。
最初は翔子が体験談を一方的に喋っていたが、
春香が自分で謎を解いてみたいと希望したため、クイズ形式となった。
まずは問題編を翔子が語り、
一時間程度春香にトリックや犯人を推理する時間を与え、
その後、春香の答えを聞いてから、解決編を話す。
推理小説の多くの読者が作中のトリックを見抜けないように、
春香の推理は往々にして外れていたが、
それでも懸命に推理をする彼女の姿は楽しそうだった。
彼女達はこの対話を推理問答と呼んでいた。
この日も、春香の推理に必要な情報を一通り伝え、
問題編を話し終えた後、翔子は春香に事件の真相を推理する時間を与えた。
「制限時間は一時間。私は少し散歩してくる。戻ってくるまでじっくり考えるといい」
翔子はそう言い残し、部屋を離れた。
一人の方がじっくりと考えられるだろうという配慮もあったが、
先程依頼主であり、春香の父の権蔵が仕事から帰ってきたと、
屋敷に仕える使用人から聞き、
改めて今回の自分の仕事について、
権蔵の真意を問いただしたかった。
何故、探偵として雇われた私が
毎日依頼人の娘と雑談に興じなければならないのか。
春香との会話は不快なものではなく、
無論楽しいところもあるが、自分の領分とは掛け離れている。
権蔵が「脅迫状の送り主を特定しろ」、
その一言を自分に命令すれば、
翔子は探偵としての能力を十二分に発揮し、
瞬く間に犯人を探しだすだろう。
しかし、実際権蔵は翔子に屋敷で待機しろという命令しか下さず、
雇われた身である翔子としては命令に従うしかなかった。
翔子は権蔵がいる書斎の前にやって来て、扉をノックした。
「どうぞ」という声が聞こえて、翔子が扉を開けると、
書斎机の椅子に権蔵は腰掛け、何やら眉をしかめて、
小難しい資料を読んでいた。
「おお、翔子さん。どうしましたか?」
翔子の姿を確認すると、権蔵は表情を一変させ、
笑いながら翔子に何をしに来たのか尋ねた。
脅迫状を送られ、
命が狙われているという恐怖はその顔からは微塵も窺えない。
「依頼内容について、改めて確認させて頂くために参りました」
翔子は言葉を丁寧に選び、依頼主に自らの意見を口にする。
「ああ、そのことですか」
権蔵は用件を聞くと興味がなさそうに、素っ気ない言葉を返す。
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