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【ギャグ満載の本格推理】瀬川歩の事件簿  作者: 瀬川歩
【問題編】手裏剣事件
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第7話 1年A組の推理(中編)

「皆、落ち着いてちょうだい! 私には犯人の見当は付いているわ。女子の中で、体育の授業の前に着替えている時に、CDを盗んでいるような人は、当然誰も見なかったわよね。それに、体育の授業中に盗まれたとしたら、大部分の生徒は犯人から除外できるわ」


 授業中に盗まれたのだから、当然A組以外のクラスも何らかの科目の授業を受けている最中である。他のクラスの生徒が教室を抜けだして、窃盗に及んだとは考えにくい。


 しかし、講義形式の授業を受けていない生徒は、ある程度自由に行動できるため、犯人の候補になる。つまり、この場合、1年A組と1年B組である。


 さらに鍵を盗んだ犯人はA組にいることを考えれば、一連の事件の犯人がA組にいるという推測はは至極妥当だった。


「犯人は体育の時間に授業を抜け出して、鍵の開いたA組の教室に入り、CDを盗んで焼却炉で燃やしたのよ」


「そうなるな。しかし、それだと誰が犯人かはわからない。今日の体育は、男子はグラウンドでサッカー、女子は体育館でバスケだったからな。確か、体育の河森先生は十分毎に2つの場所を行き来していた。先生がずっと監視していなかったんで、授業を抜けていたやつが結構いた気がする」


「その通り。私が調べたところ、女子の方は5人抜けたわ」


「男子の方は誰だっけな。皆トイレとか言って、結構抜けてた気がするな」


 桂の発言に対して、山田は不敵な笑みを浮かべて答えた。


「実はね、体育の時間に、A組の教室に入る体操服の男子を見た人がいたのよ。1年E組の女子なんだけどね。授業中にトイレに行った時に、体操服姿の男子を見たらしいのよ」


「本当か? もしそうなら、有力なヒントになるな。誰だ、その体操服の男子は?」


 清海高校の警備員室からは高校の入り口を見張れるが、グラウンドから1年A組のある校舎に入る人間は見えない。さらに、女子のいる体育館から教室は校舎がつながっており、人目につかず移動できる。


 ゆえに、体育の時間に教室に入る人影を目撃したという、E組の女子の証言はかなり貴重だった。


「その男子は……」


 山田がいよいよとばかりに間を溜めて言った。


 歩も山田が誰を指摘するか、固唾を飲んで見守る。


「――橋本君。あなたよ」


 山田は橋本の方を向き、彼の名前を指摘した。橋本はクラス中の視線を一身に浴びる。


 橋本は大人しい性格で、影の薄い男子であり、こんなふうに大勢の視線を浴びるのは人生で初めてだった。


「ぼ、僕は……」


 突然自分の名前を指摘され、動揺した橋本は言葉を詰まらせていた。言いたいことがあるのだが、上手く言葉にできない、そんな様子である。


 そこへ糾弾するように、山田が橋本を問い詰める。


「あなたが犯人だということを示す証拠は他にもあるわ。他の男子に聞いたら、あなたは30分くらい体育の授業を抜けだしたらしいわね。不思議じゃない。もしトイレだとしても長すぎるわ。だけど、教室からCDを盗んで、焼却炉まで捨てに行ったとすれば30分という時間も納得がいくわ」


 どうやら、事前に山田はA組の男子に、橋本が体育の時間に何分抜けたかを聞き込んでいたらしい。


 女子の方は、確かに大野を始めとする数名の女子が体育の授業を抜けたが、皆5分程度で戻って来ており、30分も抜けた女子は誰もいなかったとのことである。E組の女子とA組の男子の証言により、橋本がCDを盗んだ犯人だという状況証拠は揃っていた。


「体育の時間中に教室に入った橋本君を見たという証言、そして他の男子の橋本君が授業中に30分抜けてどこかへ行ったという証言。これらを合わせると……」


 山田は橋本を指差し、勢い良く決め台詞を放った。


「橋本君! CDを盗んで焼却炉に捨てた犯人はあなたよ!」


 犯人と指摘された橋本は何か言いたそうにしているが何も言えず、いまにも泣き出しそうになっている。周囲のクラスメイトも疑惑の目で橋本を見ており、気の小さな彼が耐えられる状況ではなかった。


 動揺して何も言えずうつむいている橋本に、いつも脳天気な香助もさすがに同情した。


「何かすごい可哀想になってきたな。俺には気の小さい橋本がCDを盗んだとは思えないんだが……。窃盗なんて大胆なことがあいつにできるのかよ」


 クラス中が静まり返るなか、香助が小さい声で歩に話し掛ける。


「それに、山田の推理も飛躍している気がするな。うまく言えねえけどよ。どうにかならねえのか、歩?」


「なるよ」


 歩は即座に返事をした。


「やっぱならねえよな。くそっ! かくなる上は俺のマッスルダンスで皆の目を惹きつけている間に、橋本を窓から逃がすしかないのか……。橋本に3階の窓から飛び降りて、衝撃を殺し、ふんわり着地することは可能だろうか――って」


 香助は歩の予想外の返事に、思わず大きな声でつっこんだ。


「なるのかよ!」


 香助の大声でのツッコミを聞き、橋本に注目していたクラスの視線は一転し、歩と香助の2人に注がれた。


「多分ね。山田さんの推理には大きな穴がある。考えればすぐにわかることなんだけど、きっと大事なCDを盗まれて頭に血が上って、気がついていないんだろうね」


「とにかく早くその穴ってやつを言えって! 橋本が今にも泣きそうになって、鼻をひくひくさせてるじゃねえか」


「確かに鼻がひくひくしているね……。もうちょっと考えをまとめたかったんだけど、しょうがないか」


 歩がクラス中の注目を浴びることを覚悟して発言した。

本小説は毎日22時に更新する予定です。

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