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【ギャグ満載の本格推理】瀬川歩の事件簿  作者: 瀬川歩
【解決編】ツチノコを見つけたよ
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第9話 事件の真相

「その日、刃物による傷害事件は二つあったのです。一つは萩原さんが起こした午後九時四十二分の事件。二つ目は、黒金公園内で起きた事件。幸いにも、両方とも被害者は死んではおりませんが――」


歩は昨日、二つの傷害事件があったこと、そしてもう一つの事件の被害者も死んではいないことを断言する。


「二つだと!?」


歩の発言に、私は思わず大声を上げて驚く。


「はい。二つ目の事件は一つ目の事件より前に起きているはずです。おそらく午後九時三〇分から四〇分の間に起きたと思われます」


「どうして時間までわかるの?」


もう一つの事件の発生時刻に関して、歩が推理した根拠を奈央が訊く。


「それも吉田さんと奈央さんのお話しから推理しました。吉田さんが黒金公園で休んでいたのが午後九時四〇分から五〇分。奈央さんが公園の東口から出てくる人物を見たのが、午後九時四十五分。おそらくもう一つの事件の犯人は、午後九時三〇分過ぎに、黒金公園で誰かを刺した。まずは西口から逃げようとしたかもしれない。これは想像も入っていますが。しかし、西口には人がいる気配する。これは勿論、萩原さんと大澤さんです。新聞によると二人は午後九時三〇分から西口で口論していたそうです。ならば、東口から逃げるしかない。しかし、ここで問題が起きた」


「吉田さんがランニングで黒金公園に入ってきたことか」


「そう。東口から出ようとしたら吉田さんが入って来るではないか。これでは自分の顔を見られてしまう。そこで犯人は一旦公園内のどこかに隠れて、吉田さんをやり過ごした。そして、吉田さんが通り過ぎた直後、こっそりと公園の東口から抜け出したのです」


「私が見たのは、その時に逃げた犯人ってわけね」


奈央がようやく納得したという顔をしている。


「だから、新聞の萩原さんと服装が違っていたのね。そもそも別人だったのだから、服装が違って当然だわ」


「これで奈央さんの疑問は解決できましたね」


「ちょっと待て」


私は歩の推理が一段落したところで、口を挟む。


「それなら黒金公園で起きた傷害事件の被害者はどこへ行ったんだ? なぜ警察に刺されたことを言わない?」


そこで、ふと私は思い出した。事件の推理の中で、歩がもう一つの事件の被害者が死んでいないと断言したことを。


「お前、もしかしてもう一つの事件のこともわかっているのか」


「大体は。犯人はわかりませんが、被害者と、被害者が事件を警察に言わなかった理由については見当がついています」


何だって! 歩はもう一つの傷害事件の真相も見抜いているのか。私と歩は同じ話を聞いているはずなのに、どうして彼だけが事件の謎を見抜けるのだろうか。奈央が目撃した人物の謎を解き明かした以上、歩の力を認めるしかない。こいつの推理力は本物だと。


「教えてくれ。いったいどうしてお前がもう一つの事件のことまでわかった? 吉田さんや奈央から私達は同じ話を聞いたはずだ」


「言ってみれば、至極簡単なことです。僕は二人の話を聞いて気付いたんです。もしかして、二人とも同じ事件を目撃しているんじゃないかって」


「確かに二人はほぼ同じ時間に、ほぼ同じ場所にいた。でも、吉田さんはツチノコの話だぞ。奈央とどうつながっている?」


「ここで一つ考えなければならないのが。吉田さんが見たものはいったい何だったのかということです。本当にツチノコだったのか、それとも別の何かだったのか。ツチノコでなければ何だったのでしょうか」


「そんなこと言われても……。ツチノコのはずはないわよね」


奈央が困惑しながら答える。


「奈央さんの言う通りです。ツチノコを近所の公園で見たとかは、こう言っては失礼ですが、現実的にその可能性はないでしょう。それでは、吉田さんは何を見たのか?」


歩は再び、アイスコーヒーに口をつけ、喉を潤してから話す。


「結論から言いますと、吉田さんが見たのはもう一つの傷害事件の被害者です」


「なんだと! あのツチノコマダム、包丁で刺された人間を見てツチノコだと思ったのか」


「仕方がありません。黒金公園は薄暗く、彼女は茂みから出ている部分しか見ていなかった。おそらく、倒れている被害者の頭部だけが飛び出していたのでしょう。犯人に刺され、出血している部分を手で抑え、その後、その手で顔を触ったんだと思います。そのせいで、被害者の顔は赤く染まっていた。そのことも、吉田さんがツチノコだと勘違いした一因です」


「それにしても、吉田さんって、かなり迂闊なおばさんね……」


「葵さん、吉田さんが聞いたツチノコの鳴き声を覚えていますか?」


「『ダ……ズ……』とかいうやつだろう。――そうか、もしかしてこれは」


「えっ、何に気付いたの、葵」


「ああ。もう一つの傷害事件の被害者は吉田さんが見た時、微かに意識があったんだ。そこで、何とか必死に絞り出した声が、吉田さんにはツチノコの鳴き声のように聞こえたんだろうな。被害者はわずかな力を振り絞って懸命に声を出した。『助けて』と」


「その『助けて』という被害者の呻き声が、吉田さんにはくぐもって聞こえた。さらに、吉田さんは初めからツチノコだと思い込んでいた。まさかそれが助けを求める声とは思い浮かばなかったことでしょう」


「なるほど……。これで吉田さんのツチノコ騒ぎも解けたわね。それで被害者はいったい誰なの?」


奈央は歩にもう一つの傷害事件の被害者が誰なのかを問い掛ける。


そんなん、歩にわかるわけないでしょと言おうとしたところ、歩はあっさりと奈央の質問に答えた。

本小説は毎日22時に更新する予定です。

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