第5話 事件の詳細
11月5日 月曜日 ホームルーム(6時間目)
3時間目の体育の授業の後、CDが盗まれたことが発覚し、6時間目のホームルームの時間は騒然としていた……。
「3時間目の体育の授業の後、CDが盗まれたことが発覚し、6時間目のホームルームの時間は騒然としているな……」
「地の文と同じことを話さないでよ、香助。どういう特技なのさそれ……」
本当にどういう特技だろうか……。今は6時間目(15:20-16:20)のホームルームである。
清海高校では月曜日の6時間目に特別なホームルームの時間が設けられている。通常は学校行事の話し合いのために使われており、話し合うことがない時は自習をする時間になっている。
本来ならば、本日は合唱コンクール用にクラスとしての課題曲を選出するため、金曜日に選出された候補曲の推薦者がCDを持って来て、皆の前で流すはずだったが、そのCDがなくなってしまったため、担任の荒木は、生徒に自習を指示していた。
それにしても、香助はワクワクしているように見える。CDが盗まれたと、皆が騒いでいるのにどうしたのだろうか、
「香助、そんなに楽しそうにしてどうしたの?」
「何だ、歩。さては知らないのか。盗まれたCDが発見されたらしいぞ」
「えっ!」
歩にとって予想外の一言だった。窃盗事件であれば、そう簡単に発見されるはずがない。さらに続く香助の発言は歩をより一層驚かせた。
「じゃあ、もう事件は解決したってこと?」
「いやそれがな……」
「うん」
「――発見されたCDは粉々に割られていたらしい」
「どういうこと?」
香助が聞いた話では、CDは確かに見つかったが、かなり奇妙な状況で発見されたとのことである。
まず奇妙なことの一点目はCDが粉々になって発見されたことである。CDはディスクとケースにより構成されているが、ディスクの部分だけがまず見つかった。
ディスクは、午前12時に昼休みが始まった直後、掃除当番の生徒がゴミを捨てに焼却炉に行ったところ、焼却炉の前で、粉々になったディスクの残骸を発見したそうだ。
盗まれた四枚のディスクはいくつかの小さな破片は残っていたが、大部分が粉末の状態にまで砕かれており、破片や色でかろうじてどのCDかを判別できる程度だったらしい。
次に、その生徒が焼却炉を開けて中を確認すると、CDのケースが放り込まれていたことがわかった。焼却炉の灼熱の炎の中で発見されたため、ケースは尽く燃え、大部分が溶けた状態で発見された。
「それはまた不思議な事件だね。要するに、誰かが体育の時間に1年A組の教室に侵入し、CDを盗み、ディスクを粉々に砕いて焼却炉の前に散布し、ケースを焼却炉の火の中に投入したってことかな。清海高校の焼却炉は午前8時から午後6時まで火が点いていて、誰でもゴミを投入することができるもんね。CDを盗むだけでも目的がわからないのに、さらにそれを壊して燃やすなんて……。正直犯人が何を考えているかわからないよ」
不気味な事件に頭を悩ませる歩とは対照的に、香助はどこか嬉しそうである。
「どうしたの、香助。顔が笑ってるよ」
ちなみにさっきまで香助は、4時間目(13:00-14:00)の数学の授業で一人だけ宿題を提出できず、クラス全員の前で担当の上岡に怒鳴られ、ひどく落ち込んでいた。それが、4時間目の授業終了後の休み時間に、CDが発見されたことを聞いてから表情が一変している。
「だってさ、今回の事件は普通の窃盗事件とは違う。奇妙な謎で満ちている、推理小説に出てくるような事件じゃねえか。犯人は何のために事件を引き起こしたのか、どんな方法で実行したのか、めちゃめちゃ気になるぜ」
「確かにね」
歩も香助の言うことに同意する。二人とも人一倍好奇心が強く、気になったことはとことん調べるタイプである。そんな彼らだからこそ、自分達があたかも推理小説の登場人物になったように感じ、高揚していた。
「こういう事件をさ、俺達の手で解決できたら最高じゃねえか!」
なるほど、香助は推理小説に出てくる名探偵のように、不可解な事件を鮮やかに解決することに憧れているのか、意外な一面だなと歩は思ったが、
「でも実際は外部犯の可能性もあると思うよ。その場合、謎も何も大したことないと思うけど」
「外のやつがわざわざCD盗みにうちの学校に入らねえだろ」
「――それもそうだね」
今回の窃盗事件は、確かに不思議だった。盗まれていたのはあくまでもCDだけであり、財布やその他貴重品には一切手が出されていない。
さらに、盗まれたCDはお昼休みに焼却炉で発見された。それも、ディスクは粉々に砕かれ、ケースは焼却炉で焼かれた状態で。
せっかくCDを盗んだにもかかわらず、盗んだ人間はCCDを砕いて燃やしている。何が目的で、犯人はこのような奇行に及んだのだろうか。
「そういえば、あれだけ騒いでいた山田さんの姿が見当たらないね。今回の事件の一番の被害者は間違いなく彼女のはずなのに」
山田以外のCDは何の特徴もない市販品であり、被害額は千円から三千円程度で、大した金額ではない。しかし、山田のCDだけは、今は亡き小沢豊のサインの入ったCDであり、数十万の価値がある。被害金額の点だけでなく、小沢豊のCDに思い入れが深かった彼女は、間違いなく今回の窃盗事件の一番の被害者である。
歩が、ホームルームが始まったにもかかわらず、そんな山田の姿が見えないことに気付く。
「ああ、昼休みにバラバラになったCDが発見されたと報告を聞いた時は、かなり落ち込んでたらしいが、すぐに『犯人を探しだす!』って意気込んで、昼休みの残り時間と4時間目と5時間目の間の休み時間を使って、怪しいやつを見なかったかどうか、警備員に聞き込みに行ったらしいぞ。今もまだ教室にいないってことは、5時間目の授業が終わったら、すぐに教室を飛び出して聞き込みに行ったんだろ。6時間目のホームルームに、本来やるはずだった合唱コンクールの課題曲の選出もこのままじゃできねえし、遅れても大丈夫だと思ってるんじゃねえか」
「へえ、もしかしてあっさり解決してくれたりしてね」
「それだと俺達の出る幕ねえな……」
「犯人が早めに見つかるに越したことはないよ」
「それはそうだけどよ……」
香助が何か言おうとしたが、その時、勢い良く教室のドアが開き、山田が入ってきた。
昼休みの今にも泣き出しそうな表情とは異なり、その顔はどこか勝ち誇っているように見えた。
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