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【ギャグ満載の本格推理】瀬川歩の事件簿  作者: 瀬川歩
【問題編】深夜の行進
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第8話 歩、謎に気づく

深夜にほふく前進をする奇妙な男を目撃した日から一週間後、僕は桂の家で受験勉強に勤しんでいた。桂は高校に入り、親元を離れ、1Kのアパートで一人暮らしをしていた。


男の一人暮らしにもかかわらず、細部にまで掃除は行き届いており、八畳ほどの部屋は狭さを感じさせない。


テレビの前に設置された一メートル四方の正方形の机に二人で向かい合って勉強をしていた。音がないと寂しいという理由で、適当なチャンネルに合わせて、テレビは垂れ流しになっている。


黙々と二時間ほど勉強した後、集中力が切れた僕はふとテレビ画面に目をやった。その時のテレビ番組を見て、僕はようやく男がほふく前進をしていた理由がわかり、思わず声を漏らした。


「ああ、そういうことか」


 僕の呟きが聞こえたのか、珍しく真剣に勉強をしていた桂は顔を上げてこちらを見た。


「なんだ、いきなりどうした?」


「桂、一週間前の不思議な出来事、覚えてる?」


「一週間前? 俺が口説いた女が実は地上に迷い込んだ天女で、女を世話した例として天女の羽衣を受け取ったことか?」


「うん、間違いなくそれじゃないね。どれだけ不思議な体験しているのさ……」


「ちなみにベッドの上にある枕のカバーがそれだぜ」


「えっ!? この枕カバーそんな不思議物質でできているの?」


僕は桂の言い分を確かめるように枕を手に取り、つぶさに観察する。


「本当だ……、見たことない生地だこれ。頬をすりすりすると、とても気持ちいい……。それに何だがいい香りがする……。――って、よく天女の羽衣を枕カバーにできたね!? これにハサミを入れるなんて、畏れ多いよ……」


「多少の罪悪感はあったが、羽衣を俺が持っていても仕方がないだろ。枕カバーとしては最高だぜ。いくら寝ても枕が汚れないんだ。それを使い始めてよく眠れるようになったしいい夢も見るようになった。お前にやろうと思って、もう一個枕カバーを作ったから帰る時持ってけよ」


「ありがとう、でも天女が久しぶりに地上に戻ってきた時、自分のあげた羽衣が枕カバーにされたことを知ったら、僕らは呪い殺されそうだね……」


「俺と天女の出会いは……」


 桂は過去を回想するように遠い目をして、本当かどうかわからない、天女との邂逅という謎のエピソードを語り始めようとする。


「い、いや、桂。僕が言いたいのはそれじゃないんだ。一週間前の深夜にほふく前進してる変な男を目撃したこと、覚えてるよね?」


「ああ、そのことか」


桂もようやく僕の言いたいことがわかったようだ。


「いったいなんだったんだろうな、あれは」


「あの人が匍匐前進をしていた理由がわかったんだ」


「なにっ、いつわかったんだ?」


「今だよ、今。桂、テレビを見てご覧」


僕はテレビ画面を指差して言った。


テレビにはスポーツ番組が流れていた。様々なスポーツの映像を見て、数人の現役スポーツ選手がそれらについてコメントをしている。その中で一人、左足を負傷しているのか、左足にギブスを装着しているプロボクサー選手がいた。


僕も桂もその選手の顔に見覚えがあった。


「この人は……、ほふく前進してた怪しい男じゃねえか!」


「そう、僕らがこの前見た人はプロボクサーだったんだ」


桂はノートパソコンを机の上に置き、テレビ番組表で彼の名前を確認した。名前は木村和也。田中祐介と言う名前は、やはり偽名だったようだ。


「まじか……。Dのミドルネームも嘘だったのか……」と桂は違うことに驚いている。


僕らはインターネットで彼の名前を検索した後、さらにプロフィールを調べた。


年齢は二十八歳。WBAミドル級の現チャンピオンだった。さらに、彼の情報を調べると、今日から10日後にタイトルマッチを行い、王者の座を掛けて挑戦者と戦う予定だったが、急遽中止になったことがわかった。


中止になった原因は彼が今日から10日前に左足を骨折したことだった。自宅で階段から足を滑らせて、左足首を骨折したらしい。


僕も桂もボクシングファンではないので知らなかったが、インターネットのニュース記事には、彼が足にギブスを巻いて会見している写真が載っていた。


彼は急遽記者会見を開き、無念の涙を流しながら、タイトルマッチの延期を発表したとのことである。


怪我により歩くことすら困難であり、今は移動にギブスが必要だと、記者会見で彼は話したそうだ。その怪我では試合が延期になるのも無理はないだろう。


「へえ、全く知らなかったぜ」


「僕も桂もスポーツにはあまり興味がないからね。それに最近は受験勉強でテレビも観なかったから、彼のことを知らなくても無理はないよ」


そりゃそうだと桂は同意する。


「うーむ、どうしてプロボクサーの彼があんなことをしていたんだろうか」


僕らが目撃した深夜に匍匐前進する不審な男、その正体と彼の怪我によりタイトルマッチを延期したニュース、これらの情報により、もはや僕には彼の奇妙な行動の理由がわかっていた。


「それじゃあ、解決編といこうか」

本小説は毎日22時に更新する予定です。

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