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【ギャグ満載の本格推理】瀬川歩の事件簿  作者: 瀬川歩
【解決編】密室ダイビング
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第7話 自宅前の路地

「ってもうわかったのか!」


「まあね。桂、この事件はそれほど難しくはないよ」


「どういうことだ?」


「何せ、被害者の橋本さんを殺す動機を持ち、なおかつ犯行時刻に付近にいた人間が一人しかいなかった以上、犯人は明白だ」


「橋本の愛人だった田中のことか?」


「その通り」


「でも、田中には犯行は不可能だぜ。橋本が死んだと思われる時間、マンションにいたのは通報時刻、さらにもう一人の通報者である鈴木の証言から明らかなんだから。田中が犯人だと言うなら、どうやって田中は離れた場所から橋本を突き落としたんだ?」


「田中さんがどうやって橋本さんを転落させたか推理する前に、今回、桂は現場検証の時に、足跡の写真を見せられてから、何かが頭の中で引っかかっているんだよね。その辺をまず解き明かそうか」


「お前、そんなとこまでわかったのか!」


「まあね。桂が写真を見て感じた、その違和感こそが今回の事件を解く鍵になる」


「鍵ってもなあ。俺も奇妙だと思ったんだが、うまく説明できないんだ」


「もう一度思い出してみよう。桂が現場で、部下の羽田さんから見せられた写真は何が写っていた?」


「橋本の自宅前の路地の写真だったな。路地には雪が降り積もっていて、被害者と発見者の足跡がはっきり残されていたぜ」


「足跡以外は何も写っていなかった?」


「足跡以外? 橋本の自宅の門とか塀以外は何も写っていなかったな。都内には珍しく、昨日は雪がかなり降ったから、足跡以外は真っ白なもんだったぜ」


「なるほど。――ところで、桂は今日タクシーで現場に来たんだよね?」


 歩が急に話を変えるが、俺は会話を中断することなく返事をする。


「ああ。現場には既にパトカーが何台か止まっていたな」


「桂が現場に着いて、発した一言目、何だったっけ?」


「一言目? 確か羽田さんに言った『お疲れ』だったっけな」


「違う違う。正確にはその前に桂は何か呟いているよね」


「ええと、何だっけ。――『お前も北斗神拳を継ぐものか……』だったっけな」


「それじゃない!!! 桂は北斗神拳の伝承者だったのかとか、事件現場で一体誰と遭遇したんだとか、その後死闘を繰り広げたのか突っ込みどころが多すぎてわからない!」


「すまん、ギャグ要素が見つからなくて、ついつい強引にボケてしまった」


「まぁ、気持ちはわかるよ。僕だってボケたいけど、話の展開上なかなかボケが入らないんだ」


歩と俺は誰に対してかわからないつっこみをしたところで、話を本筋に戻した。


「ふむ……『うわっ、汚ねえ……』っと言ったことか」


「どうして汚いと思ったの?」


「だって橋本の自宅前の路地は舗装されていなかったんだぜ。前日雪が降って湿った地面を、パトカーが何台も通ったうえに、捜査員や野次馬がしっちゃかめっちゃか踏み荒らしたんだ。泥が飛び跳ねてて、ぐちゃぐちゃだったぜ」


「それなんだよ、桂。そして、今回の事件ではそれが重要なんだ」


「どういうことだ?」


「午前三時過ぎに巡査が撮影した現場付近、橋本さんの自宅前の路地の写真は綺麗過ぎる。橋本さんがタクシーで自宅に送ってもらったのなら、本来あるべきはずのものが写っていない」


「あるべきはずのもの……」


 歩にそう言われて、少し考える。ここまでヒントを出されて、自分で答えに辿り着けないのでは情けない。


「――そうか! タクシーのタイヤ痕か!」


「そういうこと。橋本さんがタクシーで自宅に送ってもらったのなら、タクシーが通った跡がないとおかしい。僕は現場を直接見たわけじゃない。でも、桂の話では、今日現場に行った時、パトカーが何台か停まっていたんでしょ? 桂もタクシーで橋本さんの家の前で降りたし、路地といっても道幅はそれほど狭くはない。また、南北に道路が通っていて、行き止まりでないうえに、橋本さんは当日酔っていた。さらには、雪も積もっていたんだ。歩くのも面倒だっただろう。そんなとき、自宅の入り口の前までタクシーで送ってもらうのが普通でしょ。しかし、現場の写真ではタクシーのタイヤ痕が写ってなかった」


「つまり、橋本は確かにタクシーで自宅まで送ってはもらったが、正確には自宅の入り口の前ではなく、少し離れた場所で降りたということか!」


「そういうこと。おそらく舗装されていない路地に入る直前の道で、タクシーを降りたんだ」


 そうだったのか……。喉に詰まっていたものがとれたようだ。写真を見た時に感じた違和感の正体はこれだったのか。現場の写真が綺麗過ぎること、それが俺の心の中で引っ掛かっていたのだ。


 タクシーのドライバーからすれば、被害者の自宅からわずかに離れた場所で被害者を下ろしたとしても、それは被害者を自宅まで送ったことになるだろう。ドライバーの証言に嘘偽りはない。


「だとすると、橋本は何故自宅前で降りなかったんだ? 俺のように、門の前まで行けばよかったじゃないか」


「自宅で降りなかった理由は簡単だよ。おそらく他に寄るところがあったんだ。それも橋本さんの自宅から、かなり近いところにね」


「愛人の田中のマンションか」


「当たり。死ぬ直前、橋本さんは愛人の田中さんの部屋を訪れたんだ」


「ちょっと待て! 橋本は自宅のベランダから転落したんだぞ。死ぬ直前に隣のマンションの田中の部屋を訪れた橋本が、どうして自宅の中庭で死体となって発見されたんだ?」


 死ぬ直前に橋本が田中の部屋を訪れた? それは自宅前の路地にタクシーのタイヤ痕がなかったことから充分に考えられる。それでは、どうして橋本の死体は自宅の中庭で発見されたのか。俺は歩の説明を受けて、余計に混乱した。

すみません、いま北斗の拳を読み返しており、ついついボケてしまいました。



本小説は毎日22時に更新する予定です。

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