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【ギャグ満載の本格推理】瀬川歩の事件簿  作者: 瀬川歩
【解決編】無敵囲い事件
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第10話 将棋の駒の謎(前編)

「それで、犯人がわかったんですか?」


「うん。といっても、君の話から推測しただけだから正解かどうかはわからないけどね」


「いったい犯人は誰なんですか?」


「犯人を指摘する前に、今回の事件の不自然な点を順番に解き明かしていこうか」


「はい! お願いします!」


 鈴原は期待に満ちた眼差しで、歩の話しに耳を傾けている。


 歩としては、こういうふうに聞かれるのは、かなり照れくさかった。


「まず一つ目、犯人はどうやって被害者の川本君に毒を飲ませたかだね」


「胃の中には朝食べたもの以外は入っていなかったから不思議ですよね」


「それがそうでもないんだ。桂たちの議論では、香助が触れていたけど、朝食以外にも胃の中から発見されたものがあったことを思い出して」


「えっと、確か将棋の駒でしたよね。でもそれは犯人が被害者の口に将棋の駒を詰め込んだ時に入ったんじゃあ……」


「うん、その可能性もある。だけど別の可能性もあると思うんだ」


「どういうことですか?」


「胃の中で発見されたという事実を素直に受け取ればいいのさ、つまり――」


 歩は珠姫の方をさり気なくうかがいながら結論を述べた。おそらくこの部分が不可解な毒殺事件で用いられたトリックの肝だろう。


 三ヶ月前に起きたCD窃盗事件で、犯人のトリックを見破った珠姫なら、今回の事件についても何らかの答えに辿り着いているはずだ。


 その珠姫が自分の話を止めないことから、歩は自分の推理の正しさを確信した。


「被害者は将棋の駒を食べちゃったのさ」


「へっ?」


 鈴原があっけに取られた表情をしている。日常で将棋の駒を食べる人を見掛けたら、誰だって同じ顔をするだろう。


「ど、どういうことですか?」


「つまり、被害者は犯人に差し出された将棋の駒を食べたんだ。それを被害者が口に入れて、悶え苦しんだ時に胃の中に入ったんだろうね」


「で、でも犯人が被害者の死後に、将棋の駒を口に詰め込んだ時に、その中の一つが胃に入ったとも考えられるんじゃあ……」


「ここで桂達が議論していた謎の二つ目が重要になってくるんだ。一つ目の謎はここらで一旦置いといて、今度は二つ目の謎、つまり、被害者の死後に犯人がとった不可解な行動について検討しようか」


「犯人はなぜ被害者の死後に、大量の将棋の駒を口に詰め込み、さらに青酸カリを流し込んだのか、ですね」


「これは一見すると、非合理的な行動で、何の意味もないように見える。しかし、ある見方をすれば、極めて自然な説明をすることができるんだ」


「犯人の行動には意味があったってことですか?」


「そういうこと。別に何かのメッセージを伝えたかったわけじゃない。犯人はそれをする必要があったんだ」


「もー、じらさないで早く教えて下さいよー」


 歩が結論に至る筋道を少しずつ丁寧に説明しようとしたが、鈴原にはその気遣いがもどかしかったようだ。


「ごめんごめん。でも、その前に一つだけ質問していい? 質問と言うか、確認なんだけど」


「何ですか?」


「被害者の口から発見された駒は胃の中にあったものを含めて全部で九枚、胃の中にあった駒は『歩兵』だね?」


「……」


 歩に推理の続きを急かしていた鈴原はその一言に思わず絶句した。


 鈴原は推理に関係ないと思って言わなかったが、歩の言う通り、確かに発見された駒は全部で9枚、胃の中にあった駒は「歩兵」だった。しかし、鈴原は歩に被害者の胃の中、及び口の中から将棋の駒が発見されたことしか伝えていない。


 それにも関わらず、どうして歩はその駒の種類、枚数を正確に当てることができたのか。歩がしたことは問題を見る前に答えを言い当てたのと同じくらい、鈴原にとっては衝撃的だった。


 鈴原はよほど驚いたのか、目を見開いて一瞬言葉を発することが出来なかった。


「す、すごいです! まさにその通りです! 駒の種類なんて大したことじゃないと思って言ってなかったのに、よくわかりましたね!」


「合っててよかったよ」


 自分の推理が当たり、歩は胸を撫で下ろした。もっとも、この場合、推理というより推測に近かったのだが……。


「それにしても、どうしてわかったんですか?」


「うん、それは今回の犯人が被害者の口に将棋の駒を詰め込んだ理由がポイントなんだ」


「私にはわかりませんね……」


「おそらく犯人は凶器を隠そうとしたんだ」


「凶器を? この事件は毒殺事件ですから、凶器って毒を仕込んだ何かのことですよね。将棋の駒を口に入れて何が隠れるんですか?」


「文字通り将棋の駒さ。木を隠すなら森の中と同じ発想さ」


「ちょっと待ってください! もしかして……将棋の駒が凶器だって言いたいんですか?」


 鈴原は信じられないという顔をしているが、歩は凶器、つまり毒は将棋の駒に付着していたという自分の推理に自信があった。


「犯人が被害者に食べさせた駒は単なる将棋の駒じゃない。ーー毒の塗った将棋の駒、名付けるとするなら、毒駒を食べさせたのさ」


 これが警察が手をこまねいていた、この毒殺トリックの真相である。

本小説は毎日8時に番外編のショートコメディ、22時に本編を更新する予定です。

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