第14話 決着
「この写真を見てちょうだい」
珠姫が大野に提示した写真は、銀子が昼休みに撮影した、粉々に粉砕されたディスクの写真だった。次に珠姫は、焼却炉へ投入されたケースの写真も大野に提示した。
「この2つの写真が証拠よ。よく見て」
「何が言いたいんですか?」
珠姫の行動を大野は全く理解出来ない。
「この写真では、ディスクが何枚割られているように見える?」
「4枚に決まっているじゃないですか。わずかですけど、それぞれの破片が残っていますから、かろうじて識別できますよ」
「そうね、破片を残したのものわざとね。そうすることで、間違いなく全てのCDが割られているという印象を皆に植え付けたのね」
「これのどこが証拠なんですか?」
珠姫は自分の鞄の中から何やら薄いものを取り出した。
「これを見てちょうだい」
大野からはよく見えなかったが、珠姫が懐中電灯でそれを照らすと、大野にもそれの正体がはっきりとわかった。
「そ、それはっ! いったい何故ここに……」
「そう、わかったかしら。これは桂のCDよ。桂が今日のホームルームの時間に、皆の前で掛けるはずだったね」
珠姫が手に持っている薄い物体は、まさしく、体育の時間に盗まれたはずの桂のCDである。
「その驚き方から察するに、CDを盗んでもケースの中身までは確認しなかったのね。緻密な犯罪計画を立てたあなたとしたことが迂闊だったわね。実はあなたが盗んだ桂のCDはケースの中にディスクが入っていなかった。2日前の土曜日に将棋探究部の部員で、部室に集まって桂のCDを聴いてね。私達もさっき気付いたんだけど、その時にCDプレーヤーの中からディスクを取り出し忘れていたのよ。桂もさっきまで全然気付いていなかったわ」
「そ、そんな……」
「それなのに、この写真の中にははっきりと桂のCDの破片が写っている。この紫色の独特の破片とケースは見間違えようがないわ。これこそが、盗まれたCDがと割られたCDが違う、動かぬ証拠よ!」
「うううっ……」
もはや、大野が言えることは何一つなかった。
「さて、他に何か反論はあるかしら? もうないなら大人しくその鞄の中を見せてちょうだい。私の推理が正しければ、あなたは盗んだCDをどこかに隠さなければならなかった。しかし、どこに隠せばいいのか。自分の鞄の中? ロッカー? いやいや、そんなところに隠せば、万が一調べられときに発見されてしまう可能性がある。もっと安全なところに隠さなければ。自分以外手の届かないところで、尚且つ、後で確実に回収できる場所に……。そこで、女子更衣室の鍵付きロッカーを思いついたのよ。バスケットボール部のあなたなら、女子更衣室を利用しても何ら不自然ではない。鍵付きロッカーに入れておけば誰にも見られる心配はないわ」
次に、珠姫は大野が今日の体育の授業中にとった行動を述べる。
「体育の時間にあなたはトイレに行く振りをして体育館を抜けだした。そして、教室にこっそり忍びこみ、女子3人のCDを盗み、事前に盗んでいた桂のCDと一緒に教室の外に持ち出した。次にあなたは体育館の2階にある女子更衣室、つまりこの場所に来て、自分がいつも使っている鍵付きロッカーにCDを隠し、再び体育館に戻った。どう? 間違いがあったら遠慮なく指摘してちょうだい」
珠姫の推理は何一つ外れておらず、大野はもう珠姫に立ち向かう気力を失っていた。
「さっき、あなたが鞄の中に入れたものが、あなたが犯人であることを示す確固たる証拠よ。そう――盗まれた四人のCDがね」
「そんな……」
珠姫に強烈に睨まれ、大野は思わず目を逸したが、珠姫に詰め寄られ、強引に顔を掴まれた。
「目を逸らすな! 今ならまだあんたが犯人であることを黙っておいてやる! だがこれ以上逃げるなら、生徒会長として、あんたのやったことを告発する!」
珠姫の強烈な眼光に睨まれ全身の力と抵抗の意思が消え失せ、論理的にも打ち破られた大野はもはや完全に心が折れていた。
「す、すみません!」
とうとう泣いて謝罪しながら、鞄から盗んだCDを珠姫に差し出した。
「全く最初から素直に白状すればよかったのよ」
珠姫は強気に言ったが内心かなりホッとしていた。珠姫は大野の主張を論破することはできたが、大野が犯人であることを示す物証は未だに入手していなかったからである。
言ってしまえば、論破されても、強引に珠姫から逃げ切ってしまい、CDさえ処分すれば大野の犯行を立証することは不可能になってしまう。
「犯行動機は山田さんの持って来た小沢豊のサイン入りCDを盗むことでいいかしら。これを売ってお金にしようと思ったのね」
「はい……、すみません。私、お金がどうしても欲しくて……」
「馬鹿ね……、犯罪をしてまでお金を稼いだって虚しいだけよ」
「ほんとにごめんなさい……」
珠姫は、泣きながら反省する大野の肩を抱きかかえながら、女子更衣室を後にした。
実は珠姫も後で知ったことだが、この時点でもなお、大野は女子更衣室から逃げ切れたのである。
女子更衣室を見張るように言われていた歩、香助、桂、銀子は携帯ゲーム機の電池が切れたという理由でコンセントが使える喫茶店にさっさと移動していた。
彼らは犯人が逃げ出したらどうするつもりだったのだろうか。彼らの頭の中では事件のことはすっかり忘れ、ゲームに夢中になっていたことを、この時珠姫はまだ知らなかった……。
本小説は毎日22時に更新する予定です。
少しでも気に入って頂けたらご感想・レビュー頂けますと嬉しいです。
皆様のお声が励みになります! よろしくお願いします!